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第31話 生死の境で訪れた再会

◇◇


 ジェイ・ターナーは深手のせいで、生死の境をさまよっていた。

 もちろん意識などない。

 いわゆる夢の中で、彼はクローディアと再会を果たしていた。

 

 

――この姿で会うのは久しぶりね。



 艶やかな長い髪が、そよ風にさらさらと揺れている。

 どうやら小高い丘の上のようだ。

 微笑みを浮かべるクローディアが鉄製の椅子に腰かけ、優雅に紅茶を楽しんでいるのがジェイの目に入る。

 彼は吸い寄せられるようにクローディアのもとへ近寄ると、空いているもう一つの椅子に腰かけた。

 

 

――戻る気なの? 醜く汚い泥沼の中に。



 さらりと問いかけてきたクローディアに、ジェイは苦笑いを浮かべる。

 それを見た彼女は、目を細めた。

 

 

――ふふ。もしかして惚れちゃった? あの子に。



 ジェイは目を見開き、首を横に振る。

 


――ふふ。ごめんね、意地悪なことを言って。



 もう一度、首を横に振る。

 するとクローディアは悲しげな色を瞳にともして続けた。

 

 

――あなたが心配なの……。あなたの翼は純白だから。



 ジェイは初めて口を開いた。

 

 

――君を失ったあの日から、俺の全てに色はないさ。



 今度はクローディアが首を横に振る。

 

 

――いえ、あなたには誰にも負けない色がある。だから私はあなたに全てを捧げたの。


――さあ……。どうだかな……。


――もしあなたが醜い泥沼に戻ると決めたなら、約束してちょうだい。



 クローディアがジェイを優しく抱きしめる。

 ふわっとした柔らかな感触に包まれたジェイはそっと目を閉じた。

 クローディアは彼の耳元でささやいた。

 

 

――その大きな翼で、自由にはばたいて。泥の色には染まらずに……。そして見たこともない景色を見せてちょうだい。



 少しだけ離れ、顔を見合わせる。

 ジェイは穏やかに問いかけた。

 


――それはどんな景色なんだい?


――ふふ、それは私にも分かりっこないわ。だって見たことがないんだもの。


――ははは、そりゃそうだ。



 クローディアの口元に笑みが漏れる。

 それが眩しくて、ジェイは思わず目をそらしてしまった。

 でも、クローディアはそんな彼の仕草すら愛おしそうに見つめた。

 

 

――負けないで、ジェイ。私はここでずっと見守ってるから。


――まだ君のそばには来るなってことか?


――ふふ。そうね。それにあなたがそばにいるべき人は、私じゃないわ。


――それは誰だい?


――さあ……。誰かしら?



 いたずらっぽく笑って、クローディアは元の姿勢に戻った。

 ゆっくりと紅茶の入ったティーカップを口元に運ぶ。

 そして一息ついたところで、ジェイに笑顔を向けた。

 


――さようなら、ジェイ。これでお別れよ。



 嫌だ、なんて言わせてくれるはずもない、とジェイは分かっていた。

 それに彼はずっと前に彼女とお別れしたことを、はっきりと思い出したからだ。

 深く閉ざしていた心の扉が開くと、封印していたクローディアとの記憶が鮮やかによみがえっていく。


 はらはらと流れる涙が止まらない。

 しかし、ジェイは消えゆくクローディアを追いかけなかった。

 そのクローディアのオレンジ色の光に代わって浮かんできた純白の光だ。

 けがれも迷いもない空から降ってきたばかりの粉雪のような白。

 彼は一歩、また一歩とその光に近づいていく。


 彼は気づいていた。

 その光の正体はきっと――。

 

 

 


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