表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/40

第24話 上がり続ける体温


「負けるしかない、ってどういうこと!?」


 驚きのあまりに隠れていることも忘れてしまったわ!

 大声を出してしまった私に三人の視線が私に集まる。

 

「姉さん? なんでそんなところで隠れているの?」

 

「そんなのどうでもいいでしょ! ジェイ! 負けるしかないって意味を教えてよ!」


 私はずんずんと大股で三人に近寄っていくと、ジェイに詰め寄った。


「きちんと説明してくれなきゃ困ります!」


 しかしジェイは何食わぬ顔をしたまま、穏やかな口調で返してきた。


「まあ、まだ時間はある。今はしっかり休んで、体調を整えるんだ。ところでオレンジティーは美味しかったかい?」


「ええ、とっても美味しかったわ。爽やかなオレンジの酸味と甘味が口いっぱいに広がって、身も心も爽快に……。って今は、そんなことはどうでもいいんです! あと2日しかないんですよ! まだ時間はあるって、おかしいじゃありませんか!」


 私はさらに一歩踏み込んで彼をにらみつける。

 しかし彼の表情はまったく変わらない。さっきのオレンジティーのように爽やかな笑顔のままだ。

 

(人を小馬鹿にしてぇ!)


 そうして私がさらに何かを言おうとしたその時。

 ジェイの顔が急接近してきたのである。

 

(え?)


 とっさのことに言葉もでなければ身動きすら取れない。

 私の脳裏によぎったのは昨晩のキス……。

 

(もしかして私の口をふさぐために……。そんなのダメ!)


 心とは裏腹に、何かを期待して胸が高鳴っていく――。

 そして……。

 

――トン。


「ふえ?」


 それはキスではなかった。

 ジェイが自分のおでこを私のおでこにくっつけてきたのだ。

 

「熱くなりすぎるな」


 耳元でささやかれる低い声。


「へっ?」


 情けない声しか出せるはずもなく、私は固まってしまった。

 その間も心地よい春の風のような声が鼓膜を震わせていった。

 

「領主たるもの。いつでも冷静でなくてはならない。分かるね?」


「う、うん」


「よし! もう大丈夫だな」


 おでこをくっつけたままジェイがニコリと微笑む。

 間近にあるその笑顔に胸のドキドキは強まる一方だ。

 目と目が合う……。

 数年前までは遠くからしか見ることができなかったその瞳が、小指くらいしか離れていないところにあるなんて……。

 

(ドキドキしすぎて心臓が飛び出しそう……!)


 幸せな浮遊感にひたっていたところで、ジェイの声が聞こえてきた。

 

「あれ? おかしいな。もう体温が下がってもいい頃なんだが……。なんだかますます熱くなっているようだ」


 不思議そうにしているジェイに対して、口を開いたのはヘンリーだった。

 

「ジェイはなんにも分かってないな。姉さんの体温を下げたいなら、今すぐ姉さんから離れることだ」


(こらっ! ヘンリー! 余計なことは言わなくていいの!)


 ……と言えるはずもない。

 すると無情にもジェイは私から離れてしまった。

 開けた視界に入ってきたのはヘンリーのニタニタした嫌らしい笑顔。

 彼は私を見ながらこう締めくくったのだった。

 

「そして最後にこう言うんだ。『俺のことは忘れて、早く寝なさい』ってね」


 と……。

 こうして私はしばらくの間、自分の部屋のベッドで休むことになったのだった。

 




 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ