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第10話 王都を追われる子爵令嬢

◇◇


 クローディア様がお亡くなりになられてから、ちょうど1年たったある日。

 外はとても寒くて、灰色の雲に覆われた空からは粉雪が舞い降りていた。

 

「では、リアーヌ様。そろそろ行きましょう」


 ダンディーな白髪の初老の男性が声をかけてきた。

 名前はマインラートさん。元軍人だけあってがっちりした体格をしている。

 彼はこれから私の執事として働いてもらうことになっているのだ。

 

「ええ」


 短い返事とともに住み慣れた王宮の屋敷を出る。

 後ろからはヘンリーが無言でついてきた。

 

「ここからヘイスターの町までは、およそ5日間の旅となります」


 そう切り出したマインラートさんは旅程を説明し始めた。

 でも私はまったくの上の空だ。


(どうしてこうなっちゃったの……?)


 浮かんでくる当然の疑問。じわりとにじむ涙。

 でも答えてくれるパパはいないし、抱きしめてくれるママもいない。

 なぜなら彼らはいわれなき罪でヴァイス帝国を追放されて、今頃はメーツィア大神殿にいるのだから……。


………

……


 あの日。

 ジュスティーノ殿下は数人の護衛たちに囲まれて、命からがら王宮に戻ってきた。

 その後は王宮の一室で懸命の治療が行われた。

 結果として一命はとりとめたものの、下半身が動けなくなり、車椅子での生活を余儀なくされてしまったらしい。

 らしい、としたのは、その後の殿下のお姿を見た者は誰一人としていないからだ。

 当然私との婚約話は立ち消えた。

 そして大人の世界とはいやらしいもので、「誰が責任を取るか」がすぐに話し合われた。


――ジュスティーノ殿下が大けがを負ったのは、オーウェン・ブルジェ卿をはじめとする貴族たちが戦場の選択を誤ったからだ!


 完全なるおしつけだ。

 でも誰も反論しようとしなかったのは、自分に火の粉が降りかかるのが怖かったからだ。

 すでに私たち家族は殿下の帰還とともに、屋敷に軟禁され、外からの情報はまったく入ってこなかった。

 そうして有無を言わさずに一家は離散させられたのである。

 ちなみに罪に問われた多くの貴族たちは、ことごとく処刑されたらしい。

 

(でも処刑された方がマシだったのかもしれない……)


 私がそう考えたのも無理はない。

 私に言い渡されたのは『ヘイスターの領主になること』だったのだから。

 草原のど真ん中にぽつんと存在するその町は『エサの町』と言われている。

 なぜならリーム王国との国境沿いにあり、両国の戦争が始まるきっかけとなるからだ。

 つまり今はヴァイス帝国の領地だけど、しばらくすればヘイスターの町はリーム王国に攻め込まれることになる。

 無防備な町はさしたる抵抗もできずに敵国の手に渡る。

 そして領主が見せしめとして処刑されるのが通例だ。

 報復として今度はヴァイス帝国が別の戦場でリーム王国へ攻め込む。

 そうして農閑期を終えたところで両国は休戦し、また翌年になればヘイスターの町がきっかけとなって戦争が再開される……。

 まさに戦争のエサとなっている町なのである。

 

(ヘイスターの領主になることは処刑台に上がるのと同じことなのよね……)


 来年はリーム王国で王が交代する儀式があるらしく、ヘイスターを攻めてくることはないと言われている。

 だから私の処刑も自然と1年は先延ばしになった。

 だとしても私に希望が残されていないのは変わりなかった。

 

――あきらめなければ『希望』は『現実』に変わる。


「クローディア様……」


 私は灰色の空を見上げた。

 クローディア様の笑顔とともに浮かんできたのは、ジェイ様の凛々しい姿だ。


(もし……。もしジェイ様が駆け付けてくださったら……)


 そんな砂のような小さな希望を抱きながら、王都を後にしたのだった――。



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