2.俺の日常
俺の朝はいつもなら早い。
朝5時に起きて、朝食を食べ、身支度が終わればすぐに学校へ行く。だが昨日のよくわからない出来事のせいで今日は少し遅くなった。
「おはようございます、勇翔さん。朝食はできています。」
「ああ、ありがとー。…おはよー、剛志。」
「…今日はやけにお目覚めが悪いようですが、何か良くないことでもありましたか?」
「うーん。すっごいことがあったんだけど、何か一晩経ったら意外とどーでも良くなるものなんだね。」
「…それは貴方が少し変わっているからでもあると思うのですが…。今日の出発のお時間はいかがいたしましょうか。私はすでに身支度は整っております。」
「ご飯食べたらすぐに行くから。」
「了解しました。出かけられる時にお声がけください。」
「ほーい。」
俺の名前は千日紅勇翔。この無駄に広い家でボディーガード兼お世話係の獅子野剛志と暮らしている。
俺の両親は中学2年生の時に交通事故で亡くなった。ちなみに父は大企業の社長で母はその秘書をしていた。だから、二人揃って事故にあってしまったのだ。でも、俺は別に困ることは無かった。両親は週に一度のペースでしか帰って来なかったし、すごい時は一ヶ月帰って来ない時もあった。父は幼い頃から剛志を俺につけて家のことはすべて彼に任せていたから、生活が変わることはなかったし、お金に関しては保険金やら、もともとしてあった貯金やらで逆にありすぎるくらいだ。社長の代わりは今は副社長だった叔父さん、父の弟が代わりをしている。いつかは俺が会社を引き継ぐ予定だ。今も暇があれば仕事を手伝うこともある。
だから、つまらないけど―――俺の将来は決まっているようなものなんだよな。
「ここまででいいよ。学校内は流石に安全だし。…毎日毎日校門まで送らなくていいって言ってるのに。」
「いいえ、これが私の仕事ですから。車で送って差し上げられない分、登校中の危険は多くなってしまいますし。」
「車で送れないのは俺が嫌だって我儘言ってるからだろ。ボディーガード雇わないのも俺が家にあんまり人を入れたくないってだけの理由だし。だから送らなくてもいいのに。」
「…放課後は迎えに行けない分、朝くらいは送らせて下さい勇翔さん。」
「あーもー、剛志は絶対に折れないよなぁ。じゃあ、行ってくる。帰りの時間が遅くなるようなら後で連絡するから。」
「了解しました。行ってらっしゃいませ。勇翔さん。」
俺の朝が早いのは剣道部の朝練があるからだ。今日は無いのだが、朝は練習がないと落ち着かないのだ。中学校時代の弓道部での習慣がついたのだと思う。
俺の通うこの学校は鈴花乃木学園だ。幼稚園から大学まである。金持ち学校ってやつだ。だからか学校の施設がしっかりしていて、尚且つ面積も広い。学校についても剣道場まで時間がかかるのだ。急ぎめに歩いていたら後ろから声を掛けられた。
「…勇翔先輩!?は、勇翔先輩だっー!」
「お、彩菜じゃん!おはよう。弓道部の朝練か?」
「はっはい!おはようございます!勇翔先輩!今日は剣道部は朝練無かったような…もしかして自主練ですか?」
「うん。中学の時みたいに毎日朝練しないと落ち着かないんだよな。」
彼女は中学校時代の弓道部の後輩、桜端彩菜だ。学年でもそれなりに人気があると聞いている。彼女のファンクラブもあるみたいだ。そして彼女は高校でも弓道部を続けている。
「入学した時は先輩が弓道部ではなくて剣道部だって聞いてとても驚きました。まぁ、先輩は何でもできるので、どの部活に入っても大丈夫なのはわかるんですけどね!」
「運動はすごい得意だからな。どんな運動でも感でできちゃうし。ホントに何でだろう…。それに、小さい頃から武術は滅茶苦茶やらされてたからなぁ。自分の身は自分で守れるようにってさ。」
「先輩ってそれで頭もいいからなぁ。やっぱりすごいなぁ。私ももっと武術しておきたかったです…。先輩並みに逞しく、ゴリラのように、ムキムキっと…!」
「…女の子はそこまでやる必要ないからな!?ガチガチに筋肉つける必要は全くないんだからな!?それと俺だってゴリラほどではないぞ!」
全く、彩菜は時に変なことを言い出すから困る。もし彩菜にムキムキに筋肉がついたらなんて、考えただけでも嫌だ。メスゴリラなんて許さんぞ。頼むからそのナイスプロポーションのままでいてくれ。俺を目指して筋肉つけたとか彩菜が言ったら、絶対彩菜ファンクラブの方に殺されちゃう。
…そろそろ朝練に向かわないと、練習時間が無くなってしまう。彩菜と別れの挨拶をしてをして俺は剣道場へと急いだ。
剛志さんは勇翔にとってはただのお世話係兼ボディーガードではなく、両親の代わりでもあります。
…属性的にはママなんですよ。剛志さんは。