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カチャカチャ、カチャカチャ、
休日の誰もいないオフィスに無機質な機械音だけがこだまする。
『ビーッ、ビーッ、ブツッ!!』
くそっ!また最初からかよ…。俺はいつになったら家に帰れるんだ。
零細企業のゲームクリエイターとして就職して17年。例に漏れずブラックなうちの会社は、人手が足らなさすぎてメインプログラマーの俺がデバックの作業をしている。というか企画を立ち上げたのも俺だし、シナリオ・キャラデザは言うに及ばず、サウンドだって俺が作曲家に交渉しに行った。この業界長くいると無駄に器用になっちゃって、なんでもやらされるはめになるんだよなぁ、給料変わらないのに。
「はぁ~。13連勤も確定したことだし、一回寝とくか。」
もはや俺専用の万年床と化した、応接用ソファーにいつものように横になり、瞼を閉じる。
完成間近の新作RPG「賢者の伝説」は俺の自信作だ。やり込み要素も豊富にあるし、魔法のエフェクトも派手でかっこいい。それに隠し要素もふんだんに盛り込んだので話題にもなるだろう。そのせいで今の惨状にもなっているのだが…。当たればでかいぞ~、と皮算用をしているうちに俺の意識は落ちていた。
目を覚ますと草原だった。
おかしいな、なぜ俺はこんなとこに居るのだろう。辺りを見回すと、遠くから野盗のような2人組がこちらに向かって走ってくる。
「ギャハハハッ、カモが気付いたぜ~い!!」
「だがもう遅いっての、大人しく死んじまいな!」
やたら物騒な事を口走ってくるヤバイやつらだ。関わるまえに逃げなければ。
しかし、同時に1つの疑問が思い浮かぶ。
(今の言葉って…、もしかして「賢者の伝説」冒頭の強制負けイベントと同じセリフじゃないか?)
そうは思えど、刃渡り60cmは優に超えるサーベルを振り回す悪漢に、逃げる以外の選択肢は見つからず、とりあえず走り出す事を決意する。硬直した体を無理に動かし、振り返った先で、
『ズブッ』
っと、もう一人居た野盗に胸を刺されてしまった。
(や、やっ…ぱり。)
声にならない声で、先ほどの疑問に答えを出そうとしたが、伝わるのは大量に流れ出ていく血の温かさだけで、俺はその場に崩れ落ちるほかなかった。