17.5名誉男爵クリス・ボードナー
「クリスは、クリス・ボードナーの仮の叙勲式も行う。その後で婚約式だ。どちらも仮の儀式と言えば仮だがどちらも大切な儀式だ。出席者は私とランバート殿にクラリス子爵と話し合う。短期間でいろいろと決めなければならん。我々も大変なのだぞ」
「アリスちゃんは、それまでに服を仕立てるだけじゃなくて淑女教育もしなければならないわ。結婚式はクリスが15歳、アリスちゃんが17歳。数年あるから貴族としての教育は少し余裕があるけど、婚約式までに少なくとも立ち振る舞いぐらいは直さないといけないわ」
「はあ」
「返事は”はい”よ」
「はい、お母様。こうよ」
なぜかリッカ、パーラがお茶の支度をしながらこの部屋に居る。そして話したのはリッカだ。
「リッカの言うように真似しなさいアリス」
「はい、お母様」
「そうよ、良い感じね。まあ3か月でなんとか仕上げましょう。婚約の衣装はリッカとパーラも用意するから3人分だけど3回別々にやるよりは良いのかしら」
「リッカとパーラもですか?」
「ええ、ランバート家のラクス様とリッカ。ランバート家が懇意にしているよールブラン準男爵家の長男シリウス様とパーラよ。あなたは気が付いてなかったようだけど昨日顔合わせもしてあったのよ。リッカとパーラは二人とも貴方の妻になれるように幼いころから領主夫人になれるよう教育をしていたわ。貴方がダメになったのだからまずは士爵よりも格上を紹介するでしょ」
なんと、二人ともそんな話があったのか。知らなかった。
「アリス、リッカとパーラも一緒に婚約式を行うわ。同じような立ち振る舞いをなさい。参考になる二人が居るのだからあなたはとても恵まれているのよ」
「はい、お母様」
「クリスは、立ち振る舞いも、応対も、ダンスもそれなりだけどもう少し大人としての立ち振る舞いを覚えないといけないわね」
「クリス様は王族の教育も受けてるから有利よね。私は純粋な平民だもの。はあ大丈夫かしら」
「クリスが王族の教育だと、どういうことだ」
あーあ言っちゃたよ。そして気が付いちゃった。
「あ、嘘嘘。今の無し」
「クリスとアリスが神徒と言うだけじゃないのか、王族と言えばアースヴェルギウス・カルーシア様なのか」
すげー、すらすらと名前が出て来るんだ。もうごまかせないかな。ただ前世全てを教える必要は無いか。
「まあ、と言ってももうほとんど覚えないけど」
「そ、そうなのか。だから幼い時から魔法が使えたのか。
そうなると」
あれ、もしかして他ともつながったのか。
「アクアオルギュス様には、アースヴェルギウス様の記憶があったと言う噂が流れた事がある。最上位の魔法が使える強さは納得か」
「もう、それ以上の詮索は。正直そんなに覚えてないのです。身に着いた魔法はまだしも、過ごした思い出は」
「ああ、すまない。このことは秘密にする。アリス、不用意に話さないようにな」
「はい、お父様」
「大人しく返事をすれば良いと言う物では無くてよ。貴族として生活するなら今の事も含めて話してはならない事が多くあるのですから。隠し事の一つや二つ、笑ってあしらえるようになりなさい」
「はい、お母様」
アリスは同じ言葉の繰り返しだ。思考が止まってるなこれ。
「アリス、今回は仲間内ばかりだったから何とかなったし。とりあえずこれからを気を付けてくれれば良いよ」
「うん、そうする」
「クリス様にも気を抜かない」
今度はパーラからの指摘。アリスの言葉使いを直すのは難しいかな。日本でどういう生活をしていたのか知らないがその後の10年も平民の中で学んだんだ。日本語でも無いこちらの貴族用の言葉を学ばなければならないのだから大変だろう。なるべく助けるようにしないとな。