16.6領都の生活
「クリス君が賢者殿からの研修を受けての成果かこれか」
「はい、生活を向上させる物を作りたかったのですが、意に反してできた物は武器でした」
「ふむ、意に反してか。しかし賢者殿、クリスの才能はどうなのだ?」
「はい、とても素晴らしい才能です。既存の術式はほぼ覚えました。
おそらく知らないのは禁呪ぐらいでしょう」
「ふむ。ではクリスの部下たちは」
「クリス様の教えを受けていた者達は、魔法習得の基礎法を正しく学んでいます。
その辺りの魔導士とは比較になりませんし、我が弟子たちよりも優れていました」
「ほう、当初は揉めていたと聞いたが大丈夫だったのかね」
「はい、誤解があったようですが、話し合いで決着したようです」
「そうか、それは良かったが、こうなると当初の懸念通りか」
懸念、なんてあったか……
「解らぬと言う顔をしておるな」
「はい」
「お主の所に戦力が集まりすぎておるのだ、優秀な魔法使いだけでなく剣士もな」
「そうですか?」
「ああ、自覚が無いのが怖いが、そのうえこのような魔法剣まで作れるようになった。おそらく今後そなたの所の剣士は標準装備させるのだろう」
「まあ、なにがしかの魔法剣を装備するでしょうね」
「解っておらぬと思うが、これ1本でも国宝級だ」
「それで、ですか。練習で作っただけの物ですよ」
「賢者殿、説明を」
「はい、クリス様。良いですか。
普通は、一人で作るには魔力が足りないですよ。その為に、その1本を作り上げるには数名の魔力を集めた協調魔法になります。協調魔法の難易度が高い事は解っていますよね」
「そうですね、息を合わせるのは大変ですね。少なくとも片側が無詠唱なら楽でしょうが」
「魔法剣を作るための詠唱を複数人で練習し続ける事はありません。
故に、このような魔道具を一人で作れる者は稀有でした。
歴史上でもあまりいない。最近だと初代の賢者様ぐらいです。
そして、現存する魔法剣は初代賢者様が作られた剣を含めて20振りもありません。
その中でこれほどの効果を持つ魔法剣は5振りあるかどうか」
「じゃあ、火炎剣や風切り剣の最強版を作ろうと思ってましたが、もしかして魔法の理論が存在するだけで現存しないのですか」
「ああ、最上級の魔法剣は賢者様でも魔力が足りなくて作れなかった」
「なんと、じゃあ僕も作れないかもしれないのか」
「いえ、貴方は賢者様の魔力量を超えているようですから、たぶん作れますよ」
「初代賢者様を超えてる? まさか、僕はまだ成人してないのでもう少し増えますよ」
「そうだな。そういう訳でクリス、そなたとそなたの部下を含め全員を領地に戻すわけにはいかぬのだ」
「そういうわけって?」
「説明しただろう、魔法の事は理解力があるが、政治の事は疎いな。
つまり、目の届かぬところで過剰な戦力があるのは好ましくないのだ。
そなたは、我が名誉男爵として召し抱える。
そなたの元に残す部下は半分に分けよ、人選は任せる」
なるほど、過剰戦力は危険だからと言うことか。言われてみればそうか。反乱されては困るしな。
「質問があります」
「なんじゃ」
「僕が作る魔法具が過剰戦力になると言うのなら、その戦力を子爵様が召し抱える理由は何でしょうか。子爵様は国王陛下に対して過剰な戦力を持つことになりませんか?」
「妙な所は気が付くのだな。まあ良い、最もな質問だ。
厳密には、我が抱えるわけでは無いからだ。
つまり、そなたが成人するまで我の元で戦力を整えよ。
そしてその戦力をもって、元伯爵領を奪還せよ。その為の戦力強化だ。
もちろん国王陛下には賢者殿が進言する事になっておる。心配するな」
なるほど、僕の今までの人生は受け側だった。初めて10歳を超え、成人する姿も見えて来たのだ。確かに撃って出る体制を作るのは良いかもしれない。
そして、おじいさまが生きているうちに成せば、再びおじいさまが領主になるのか。そしてその後は、もしかしたら僕がそこの領主になる。
「名誉男爵の件、お受けします」




