14.2領都の宿屋
この温泉は、神様にお願いしたら出たと言っていたな。
魔法で掘ったりしたわけじゃないのだろう。
見た感じ平民としては多い方に感じたが、恐らく普通の貴族並みだろう。シスコの母親のように正確に魔力量がわかるわけでは無いので確信はないが。あの魔力量では土魔法を使って数百mほど掘るのは無理だ。
やはり偶然なのだろうな。
あれ、もしかして?
「クリス様、そろそろお食事の用意が出来たそうです。そろそろのぼせますよ。お風呂から、御出になってください」
サーシャからお怒りの声が聞こえたので、思いついた事を忘れてしまった。
慌ててお風呂を出て、少しラフな格好に着替える。
そして楽しみにしていた夕食がスタート。
まず最初にシュウマイと水餃子、それに焼き餃子が登場。
そして、メインにハンバーグが登場し、次にラーメン。
最後にデザートしてプリンが出て来た。
久しぶりに食べた料理ばかりで、とてもおいしく頂いた。
「挨拶をよろしいか?」
隣のテーブルで食事をしていた20代の青年に声をかけられた。赤い髪で、目も赤い色をしている。不思議な雰囲気の青年だ。
誰だか知らないが、丁寧な物言いなので貴族だろうか。了承の合図をだすと青年が話し始めた。
「わたしは、プラトン・タケダと言います。世間では賢者と呼ばれています」
タケダ、武田?か。それにプラトンってあの数学者のプラトンだろうか。僕と同じような転生者にしては苗字が日本語とはこれ如何に。とりあえず、明後日会える予定の賢者様だと解ったのでこちらも挨拶をしなければ。
「初めまして、クリス・ラクサニアです。ここでお会いできるとは思ってもいませんでした。お声がけ、ありがとうございます。
この度、賢者様に会うために田舎から出てきました。後日、魔法を教えて頂けるとの事。楽しみにしています」
「ええ、クリス様の事は聞いてます。私も会うことを楽しみにしていました」
賢者は100歳を超えていると聞いていたのでてっきり老人だと思っていた。容姿だけでもなく声質も若い。
「世間ではあまり知られていないようですが、先代は、数年前に亡くなったのです。私は先代から賢者の称号を継いだばかり。3代目賢者で現在25歳ですよ」
僕が疑問に思ったことが伝わったのか、即座に誤解を解いてくれた。
「あ、そういうことでしたか。賢者様は100歳を超えていらっしゃると聞いていたので驚きましたが納得です」
「ははは、見た目通りの25歳ですよ」
「そうですか、ところでタケダと言うのは」
「初代様から受け継いだ氏です。初代様はシンヤ・タケダという名前でしたから」
なんだ、まんま日本人の名前じゃないか。
「この辺りではまり聞かない氏ですよね。名前も。異教国の方ですか?」
賢者様は少し考えると顔をした後で答えてくれた。
「ええ、恐らくは異教の地が出身だとおもいますよ。初代様はこことは別の世界から来られたとおっしゃってました。それがどこの事なのかはわかりませんが」
それじゃあ、転生じゃなくて転移者なのか。受け継いだと言うことは孫なのだよな。それにしてはこのプラトンさんは黒髪でも無いし日本人の特徴は何一つ受け継いでいないように思えるが。
「失礼ですがプラトン様はシンヤ・タケダ様の血族ですよね?」
「いえ、初代様には子が居ませんでした。我々は賢者様の弟子として教えを受け、その中から選ばれ、賢者を受け継いだのです」
そういう事か、それなら納得だ。
「では、今日はもうおそいのでこれで。明後日、領主様の所でお会いしてからになると思いますが、魔法を教える事になります。その際にはよしなに」
そういって、プラトン様は下がっていった。