14.1領都の宿屋
案内人に任せて無事に宿屋に到着した。外見はいたって普通だった。前の経験からこの世界の宿屋のクラスは解っている。伯爵や子爵も泊まれるような高級宿屋では無かった。
中クラスだ。
ここは王都とは違う。領都と言ってもここの領主は子爵。この領都来る貴族もせいぜい下級貴族のはず。そう考えれば領都内では上級の宿屋なのかもしれない。この宿泊が満杯なのは、ここでは人気のあるクラスだからだろう。
宿の中に入り、手続きが始まった。おかみさんとその娘と思われる二人で手続きをしている。娘は父親から受け継いだのか娘は黒髪、黒目。母親も背が低いので少し幼く思える風貌。見た目は幼いが、母親の見た目の年齢から推察すると、もしかしたら成人ギリギリあるいは成人しているかもしれない。日本風の顔つきで懐かしい感じがする子だ。
娘から部屋の鍵を受け取ると、皆が荷物を運び込んでくれた。騎士爵の息子とは言え、こういう仕事は周りの世話人の仕事だ。人前で僕が手伝ってはいけない。僕は彼らに任せ、そのまま宿屋の食堂で休む事にした。
すると、宿屋の娘がお茶を用意してくれた。
「ありがとう」
「あら、平民に対してありがとうだなんて」
ふむ、声は綺麗な感じだ。
「偉そうにしているけど僕は、騎士爵の息子なので、ほとんど平民と一緒ですよ。だから親切にされたら礼を言います」
そういうと、彼女は恥ずかしそうにはにかみ、会釈をして下がっていった。
ふむ、見た目は元気そうな印象だったが、なんか恥ずかしがっているのか、印象と異なり大人しくて静かだった。
「クリス様、この宿屋は温泉と言うお風呂があるそうです。食事までに時間もありますし、旅の垢を落としてから食事をされませんか。生活魔法よりも気持ち良いそうですよ」
いつの間にか僕の後ろに来ていたサーシャが教えてくれた。
「へえ、温泉か。良いね。
でもこんな火山地帯でもないのに温泉がでるなんてすごいな」
「5年前の事ですが、宿の娘さんが神様にお願いしたら温泉が出来たそうなんですよ。すごいですよね」
温泉ってそんな突然勝手に湧き出す物なのか。神様を知っている僕の転生人生でも温泉が出た事は無かったぞ。なんて幸運を持っているんだ。
「すごいね。温泉か、楽しみだな」
その声が聞こえたのか、宿屋の娘がやって来て、僕に話しかけて来た。
「個室の予約をしましたので、お使いください。
食事の後にもお風呂に行かれる時は、他の方も入る大きなお風呂、大浴場の方に行ってください。
あ、宿には女性の洗い人を手配するサービスはありません。
ご自分の侍女や外のサービスをご利用ください」
そう、宿屋の娘がニコニコと答えてくれた。
ニコニコと答えてよいような内容では無い気がするが。
「クリス様、リーシャをお付けしますね」
「いや、別に大丈夫だよ」
「道中なかなか手入れできませんでしたから、綺麗にするのは絶対です」
いつもは優しいサーシャがちょっと怖い。ここは大人しく意見を聞き入れるべきだろう。
「解ったよ。でも終わったら出てね。せっかくだからのんびり入りたいし」
「わかりました」
温泉だった。本当に温泉だった。
流石に火山の近くにあるわけでも無いので、単純温泉と言う感じだ。無色透明で味はちょっとしょっぱい。
肌もつるつるになる。なかなかの良いお湯だ。




