9.1生活向上と金稼ぎ
冬が終わり、春が来た。
毎年の事だが春の温かさはとても良い。
晴れた天気の良い日に外に散歩に出る。すると幼馴染の女の子2人がすぐに隣にやって来た。二人が右と左に別れ、いつも通りに両手を繋いでぶらぶらと街を歩く。
少し先に見える山々は、少し前の白銀から新緑の色へと変わり、とても綺麗をしている。こういう色合いは、気分が高揚し楽しくなる。
去年との違いは、僕の後ろにはゴンが付いて来ることだ。それと二日に一度はシスコも付いて来る。
シスコは、母親の矯正指導によって生まれ変わった。冬の間に勉強もさせられ文字も覚えたそうだ。彼は、1日交代で護衛に付く。もう一日は自宅にある魔法書を読んだり、計算の練習をしたりしているそうだ。
春になったので、約束通り教会から神官と教導師が派遣されてきた。それに建物を作る為に領都や近隣の町からも人が集まっている。
神官と教導師は建物も無いのに早々にやって来た。どうやら建物ができるまでは領主邸に泊まるそうだ。
教育を始める準備もあるし、何人ぐらいが参加するのか、1日どのくらいにするのか、子供と言えども労働力に数えられている。教育中の扱いをどうするのか色々な人の意見を聞きながら話し合いが必要だ。
まずは手始めに国語と算術をいつもの子供達が集まる部屋で始めて様子を見る事になったようだ。ほとんどの子供が文字を知らないので当面は年齢別に分けるのではなく一斉教育となる。その後は、ある程度進んでから能力別にクラスを分けるそうだ。
教育を受ける者はある程度絞り込まれるが、教会に付属する孤児達が率先して教育を受けるので、後に元からいる住民が、給与の低い仕事にしか就けなくなるのを防ぐためにも、積極的に授業を受けるように根回しが始まった。
「この授業は5歳以上の子供が受けるらしいけど、シスコとゴンも授業を受けるんだよね」
「護衛は、よろしいのですか?」
ゴンは黙ったままなのでシスコが聞いて来た。8歳シスコが3歳の子供に丁寧な言葉を使うようになっている。指導が徹底した結果だ。
「護衛の日に授業があるなら、1日中護衛に付く必要はないよ。
それに今の段階は、本来の護衛と言うよりも幼児のお守りだ。護衛と言う訓練を受けているだけだ。君たちが座学を受けている間、僕は母上か神官様の側にいるから勉強会に参加しなよ」
「はい」
シスコが良い声で返事をし、ゴンはうなずくだけだった。
ゴンは、話せないわけでは無い。家ではおばあちゃんと会話ができるらしい。だから、強制的に声を出させることもできる。だが、今は矯正するつもりはない。そのうちに話せるようになるかもしれないので、今は無理をしないのだ。その事はシスコにも伝えてある。




