7.6クリスとして生きる
秋の洗礼式を楽しみにしているのだが、気になっている事を母上に聞いた。
「母上のお父様に会った事が無いのですが、どういった方ですか?」
「父?」
「ええ、父上のお父様は亡くなったのでしょう。母上のお父様やお母様はどうしているのでしょうか」
「お父様は元気よ。たぶん。結婚式で会って以来だけど、手紙が来ないから元気なのだと思うわ」
「ふーん」
「お母様は、小さい時に亡くなったの。上の兄と一緒の時よ。わたしはその後下の兄と一緒に母の実家に預けられたの。兄さまは、成人したらお父様の方へ行ったわ。今はお父様から準男爵の爵位を継ぎ、当主として頑張っているわ。この領地の領主様に傭兵団として雇われているのよ」
あれ、なんだかアースアシュリーの家族その後と言う感じがする。親戚で同じような事があるとは思えないな。
「もしかして、母上の幼名はソフィーですか?」
「え、どうして知っているの、今の名前とは全然違うのに?」
幼名と今の名前が全く違う事もあるのか。だから気が付かなかった。アースアシュリーの母の系統ではなく、そのまま。アースアシュリーの妹だったのか。
確か亡くなった時に2歳だったか。アクアの時に10年、そこから空白が5年ちかく。つまり17歳で僕を生んだのか。そうなると、16歳の成人後すぐ結婚したのか。
「では、母上はランバート伯爵家の姫で、アースアシュリー様の妹なのですか」
「軽く無視したわね。子供達に話す話題にアース様やアクア様のお話があったけど、よく私が妹とわかったわね」
否定されなかったのであっているのだろう。さて話題を変えておこう。子供なのだからとりとめのない話でも良いだろう。
「母上は、元が伯爵家の姫。準男爵に降格されたとしてもアースアシュリー様の妹ならもっと高位の方との結婚話があったのでは。どうして騎士爵の父へ」
「まあ、クリス。バーディの事をそういう風に言ってはいけないわ」
「では、どうして」
「そうね。確かに私には沢山のお見合いの話があったわ。その中でなぜバーディを選んだかと言うとね。彼は、私の護衛騎士だったのよ。わたくしに手を出そうとする男は沢山いたのだけど、彼がね。まあ、いろいろあって、お互いに好きになったのよ。ふふ。それに神様、いえお兄様の祝福もあったし。だから、この結婚は単純に政略結婚ではないからよ」
「ものすごくはしょられた。それに祝福、なんだか不思議な話がてんこ盛り。けど、まあ母上が望んだ結婚だったのですね」
「そういう事よ。あなたも好きな子が見つかると良いわね。上兄さまのように生き急がず、下兄さまのように周りに合わせて成長なさい」
ソフィーから見ると、アースはそういう風に感じるのだろうな。
「母上は、母上のお母様やアースアシュリー様の事を覚えているのですか?」
「お母様の事も、兄さまも事も覚えているわ。2人ともやさしかったのよ。上兄さまには良く庭に連れて行ってもらったわ。薔薇がとても綺麗な庭だったの。お母様も薔薇がお好きだったのよ」
「もしかして母上は、昔住んでいた城に戻りたいですか?」
「戻りたいか、戻りたくないかの二択の質問なら迷わず戻りたいわね。
あそこには母様の思い出があるから。でも、無理よ。それに、昔の面影はきっと無いわ。それを見てしまうとショックを受けるし。だから戻らない方が良いのよ」
「そうですか」
大きくなったら占領された土地を奪い返せるだろうか。
できれば母上をあの城に戻したいな。神様との約束では無く。
そして、おじいさまの生きているうちに。そのためにはもう一度神徒として立たなければいけないのだろうか。
だが、まだその勇気は僕にはない。でも、お母様の願いならば…。




