7.5クリスとして生きる
夏になったので、3歳になった。だが、どうやらこの街には洗礼式を行える教会がないらしく、秋の初めに訪れる神官から3歳児がまとめて洗礼式を受けるそうだ。
なので、それまで洗礼式は延期だ。
3歳になり、体も良く動くようになったので、一人で家から出かける事ができるようになった。もちろん街の中、それも近所に限定だ。
どうやら、この街は農民だけでなく工業をやっている場所もいくつかあった。主に生活用品を作っている工房だ。冬に木札を作ってくれたのもここだ。
工房のおじちゃんが散歩で外に出た時に話しかける。
「おじさん、こういうの作れない?」
「ぼっちゃんか、なんだいこれ?」
「おもちゃだよ」
「ふーん、この絵の通りだと、ここを丸くするのかい。中心に杭か。どうやって使うんだ」
「コマと言って、完成したらビューンと回して遊ぶの」
「回すのか、重心が難しいな。傾いてると倒れるぞ」
「さすがおじちゃん。そう、だから年輪の中心を使って欲しいんだ。中心がずれるとぶれるでしょ。なるべく木の中心で作って欲しいの」
「まあ、薪にするような枝を使えば。だが、綺麗に丸く削るのは大変だぞ」
「先にろくろを作って、こういうの。おもりをしっかりと乗せて、足で回すの。おもりが回転を安定させるから。それで、こうして木を取り付けて削れば丸になるの」
「ほう、そうか。うーん、道具作りからだから少し時間がかかるぞ、それに回るのか確認が必要だ。まずは1個作るだけだな」
「うん、今は別の遊びがあるから大丈夫。冬に間に合えば良いの。それから、こういうのも欲しい。こっちの方が簡単かも」
「なんだ、これは」
「けん玉。球は、木が良いけど、コマのように気を使わなくても良いの。なんとなく丸ければ大丈夫。それに最後に自分たちで綺麗に磨いて磨き勝負して完成するから。それで、受け口になるここと、ここを丸くしてね。球がはまるように。で、玉とここをひもで結ぶの」
「ああ、解った。まあ、磨きが無いなら大丈夫だろ。これは、それなりに数は作れるぞ。10個ぐらいで良いのか」
「うん、あとねー、こういう形の板ね、板」
「それもか、はあ変な形だがまあ何とかなるだろ」
「これも、しっかり磨かなくても良いよ。自分達で磨いて、最後に絵を描くから」
「ふーん、そうなると塗りの材料がいるんじゃないか。適当に塗ると汚れるぞ」
「白くなる材料とかある?」
「ああ、あるぞ。しっかり乾くのに数日かかるが」
「じゃあ、それを」
「絵を描くと言っていたな。白地の上から塗れる黒も用意しておこう」
「じゃあさ、最後最後。こういう細い木、長さはこのくらい。
こんな形に組むから。それと、紙。なるべく薄くて軽いのが良い。色は何色でも良いよ」
「カエルの浮輪を広げたもんで良いか、それが一番薄い。何枚か貼ればそのぐらいの大きさになるだろう」
「うん、後は糸」
「糸はうちの工房じゃないな。裁縫の店に行ってくれ」
「このくらいの太めの糸が欲しんだよ」
「知らんなあ、何本が糸をよって作るんじゃないか」
「糸をよるのか、じゃあこういうの作れる」
「うーん、できなくはない。だが、裁縫屋に無いか確認してからにしてくれ」
「はーい、ありがとう、じゃあ頼むね、お金は後で父さんに言ってね」
よし、これで今年の冬も暇を乗り切れる。
コマに、けん玉、それに羽子板。
最後に凧は、凧糸の確認からか。
「母上、次は裁縫屋に連れて行ってください」
「はいはい。じゃあ行きましょう」
裁縫屋では、母上が先に用事を済ましてから糸の事を聞く。
安めの糸は、最初から太かった。そうでなければ強度が足りないのだろう。だが1本の糸である事には変わりない。そして、1本では強度が足りそうにもない。やはり糸をよって作らないとだめか。
工房に頼んで糸を数本セットし、回転させる事で糸を太くする装置を頼む。糸は安い物だけでなく、1本だけ丈夫な物を混ぜてより上げる。こうする事で強度が上がったはず。
さあ、冬が楽しみだ。