5.9子爵家の息子として生まれる
「アクア、まずは伝令を出そうと思う、街を空けてあるのだ、戦う必要は無いと申し出よう」
その言葉で、伝令が印である旗をはためかせて馬で駆けて行った。こちらからもその様子は見える。
伝令が伝わったはずだが、回答は攻撃魔法だった。伝令役の兵士と馬が焼かれるのが確認できた。その後、敵兵は隊列を組みなおす動きをする。
「だめか」
「逆側にも敵です。およそ5千。3時間後に追い付かれます」
「前後、挟まれたか。このようなケースは考えられんな。街を空けたのに住民を殺す必要などないだろうに」
「今までの単なる戦争ではなく、宗教の違いと言う戦いだからです。おそらくここの民たちは改宗を拒む。祈る神が違うならば民として生かす必要は無い。そういう考えなのでしょう」
「うむ、解らんでもないな。さて、後ろが5千、前が2千ならば中央突破しかないな」
「中央部に戦略級攻撃魔法の雷撃を撃ち込み、相手が動けない間に侵攻しましょう。
アウロス、民達に伝令だ。荷台の食料を全て捨てろ、変りに子供、老人を乗せろ。30分以内に準備、隊形を構築、1時間後に開戦と共に出発だ。突破する2km走って抜けろと」
「皆、密集隊形だ、荷車の食料を捨てろ、足の遅い者を乗せるんだ。皆で中央部を突破する」
「父上、おじさんに兵の運用を任せて、僕らは右と左に別れましょう。兵達を3方に配置を。母上、中央の子女と共に行ってください」
「いえ、私は貴方達と共に最後までいます。私もカルギウス家の妻。あなた達の防御ぐらいはやれます」
その言葉を受け、僕らの戦いが始まった。
僕らは、戦略級の雷魔法を詠唱し準備をしている。魔法は重ね掛けすることで威力が相乗的に増える。二人がバラバラに撃つよりも、同期して同じ場所に打ち込めば2倍ではなくさらなる威力の増加が期待できる。
普通の戦略級魔法ならば100人を倒すのが精一杯。だが敵側も密集隊形、二人で攻撃すれば500人以上が重傷。動けない状態に陥るのは半数を超えるはずだ。
そこまでの被害がでれば、普通は敗走するはずなのだが。
気になるのは、前回の敵と同じ動きをする事だ。戦争に無関係な子女まで殺し、味方が激減しても引く事なく攻めて来た。今回のそれと同じだと非常に困る。
「父上、準備ができました。狙いは中央の赤い色の騎兵です、よろしいですか」
「ああ、では3つ後に行くぞ。では、ひとつ、ふたつ、みっつ」
「雷よ、走れ!」
雷鳴がとどろき、数本の雷が地面に落下した。それも一度ではなく、数度にわたり。魔法の共鳴による想定以上の効果。敵兵の間を雷が駆け抜け、ほとんどの兵士が倒れた。