5.3子爵家の息子として生まれる
国王夫妻への謁見申請が通り、王宮へと向かう。父上と母上、それにアウロスが付き添いだ。
「カルギウス子爵、今日は息子のアクアオルギュスが神徒と名乗った事で思わぬ影響が起きていると。兵が集まっているのは想定外で扱いについての相談だったか」
「はい、陛下の心労となってしまい、申し訳ありません。息子の影響によって思わぬ兵力が集まっており、我々らも慌てておるのです」
「謀反の意思は無いと。その為には、そなたの息子が神徒である証明が必要だと思うが。
多少の魔力が多いぐらいでは神徒とは言えんぞ」
「陛下、王妃殿下、息子から説明をさせて頂きたい。直答の許可を」
「ああ、もちろんだ。そうでなければ証明できまい。答えるが良い」
「では、本日の謁見をお許し頂きありがとうございます。わたくしは今世ではアクアオルギュスと名乗っております。アースヴェルギウスの記憶を少しだけ引き継いでいる者です。
王妃殿下を眼前にした事で、今新たな記憶が出てまいりました。セレナ様はアースヴェルギウス目線で見た亡くなった母上によく似ておられます。セレナ様も幼少時の面影がありますね、とても懐かしく感じます」
「今はセレスティアです。セレナではありません。ですが、本当にアース兄さまの生まれ変わりなのですか」
「はい、とは言えないかもしれません。転生と言う者がどのような物であるのか。わたくし以外にも多くの事例があれば簡単に証明できるのでしょうが。ですからこれは私の場合と言う話です。他に転生者がいれば、また違う事を話すかもしれません」
ふう、長いな。息継ぎ、息継ぎ。
「私には、アースヴェルギウス王子の記憶があると言いましたが、彼の経験した事を知識として知っていますが、すべての行動や感情を覚えているわけではありません。記憶を知っていると言うのは、似た感じでは、物語や日記を読んだ方が似ています」
「兄さまの物語、兄さまの日記を読んだ」
「ええ、その物語を読み、思いが強ければ自分を主人公と同一だと勘違いする事もある。実際にはそのような本も日記もありませんが、僕にあるアースヴェルギウスの記憶と言うのはそのような印象に近いのです。
例えば私とセレナ様は幼少時に共にお風呂に入ったり、セレナ様が寂しがり泣いている時は同じベッドで寝たりした事を覚えています。ですが、寝息がどうだとか、いつ、どんな風に、何回ぐらい寝ていたかなどの細かい記憶はありません。なぜかセレナ様は雨が降ると良く泣き寂しがっていたぐらいですね。あとは、そうですね、寝ていると良く右足が動きます。
いつも布団を直していたのがそちら側だけだった事を覚えています」
「そのような幼少の時の癖など、今は治っております」
「いや、そなたは知らぬようだが、治っておらぬな。ふむ、面白い。他にはないか」
「はい、アースヴェルギウス様が亡くなった瞬間の事です。つまり毒蛇の情報です。
兵士はかみつかれた後の姿を見たと思いますが、アースヴェルギウス様とセレナ様は正面から見ておりました。その蛇は、この辺りの国には存在しない特徴を持つ蛇です。
頭は平たく、首の辺りがこの手のひらのように膨らんでいるのです。その平たい部分の腹部分は真赤。赤い血の色でした。それ以外は黒。恐らくこの情報は他に知る者はいないでしょう」
「確かに、言われてみればそのような姿だったと。では、あなたは本当にアース兄さま」
「その記憶を持つ者です。残念ながら本人だとは自分でも肯定できない」
「ふむ、そうなるともう一人の神童と呼ばれたアースアシュリーの記憶もあるのか」
「はい」
「アースアシュリーの父親は、息子と母親を失い悲嘆しているらしいと聞く。そなたはあちらへ行き共に暮らさぬのか」
「陛下、前世の記憶があると言っても、先ほども申した通り、物語を読み、その物語の主人公のような気分を味わっている。そんな感じです。それはどれだけ本を読みこんでも他人の人生です。今世の僕はアクアオルギュスで、両親はちゃんといます。両親と共に過ごし、愛情を与えられ、日々成長しています。
ですから僕は神徒として神からの使命はありますが、アースではありません。アクアオルギュスなのです」
「ふむ、わかった」