4.6伯爵家の息子として生まれる
馬車を止められ皆が外へ出て来た。
驚くべきことに、敵兵は女性を捕縛せず刺した。捕まえて身代金を取るのではなく、殺したのだ。
それを見て、皆は腹を決めた。どうやら降参が許されないようだ。ここが正念場らしい。
「このままでは殺される。戦うぞ」
そんな声が上がったが、敵兵は静かだ。淡々とこちらへ向かってくる。明らかに兵士の格好でない我々に躊躇なく襲い掛かってくる。とても奇妙な感じだ。
僕も母上を守るため、魔法で攻撃を始めた。すぐに弟が馬車からショートソードを持って来たのでそれを受け取る。
「短剣も馬車にあったはずだ、お前はそれで母上と妹を守れ、頼むぞ」
僕は前に出る。遠くの兵士を魔法で倒し、魔法を避け近くに来た兵は剣で倒した。身体強化の魔法を使いつつ、中級の魔法を使って攻撃する。僕以外にも攻撃魔法を使える奥様や侍女、そして馬車を運転していた者が応戦を始めた。
僕の周りを奥様方が囲んでくれたのでその間に上級の魔法を詠唱、それを敵兵に打ち込む。壮絶な激闘の末に敵兵が50名まで減った。
だが、ここに来てもう体力も魔力も無い。上級魔法を使いすぎた。子供の体ではこれが限界だ。
残った兵士を見て、倒した兵士の内、兜が外れた者が全員、頭に黄色い輪を付けていた事に気が付いた。孫悟空のような輪がつけられている。魔法で縛っているからこのような行動をとっているのだろうかと疑問を感じた。だからと言って、兜を脱がして輪を取るような余裕はない。
残りの50名、大半が同じ格好。その中に数名、見るからに綺麗な鎧を着ている。あれが操っている元凶だろうか。
だが、一人だけではなく複数いる。
最後の魔力を使って、最後方にいる綺麗な鎧を着た集団に上級魔法を撃ち込んだ。だが一般兵がそれをかばい、2名ほど残ってしまった。どうやら失敗だ。
反撃が始まり、僕以外の戦っていた者が全て倒れた。僕も限界だ。
後ろには母上と侍女に抱かれた妹、短剣を持っている弟、そして他の子供達。
まずいな。
ここで死ぬと次の転生は無い可能性があると考えている。次を期待して安易に死ぬような行動はしたくない。
かといって、逃げる手は無い。
敵が左から切りかかって来た。とにかく動いて防がなければ。だが腕が上がらない。
くそ、体をひねってようやく剣を振り上げた。敵の攻撃を弾いた音が響く。
なんとか今の攻撃を防いだが、足が動かない。さらに攻めてくる兵士の足音も聞こえる。ダメか。
ひねった体を止める力もなく、倒れこみ転がる。
同時にドサっと音が聞こえた。それと共、僕の上の方に血吹雪が飛んだ。
どうやら別の人が切られたようだ。
首を傾けると眼前の敵兵は背中を向けていた。チャンス。懐に入れていたナイフを心臓の辺り投げつける。上手く当たり敵兵が倒れた。
よろよろ立ち上がるとその兵士の奥に女性が倒れていた。その女性に兵士が集まり剣を突き刺す。着ている服と髪でその女性が誰だか解る
「母上―。よくも、貴様。母上を手にかけたな。許さないぞ貴様ら」
怒りが体の奥にあった魔力を生み出した。恐らく命を犠牲にした力だろう。この力を使うと生きていけない。それが明らかに解る今までとは違う力。だがこのままなら死ぬのだ。ならば使うしかあるまい。
身体強化を発動させ、眼前の敵兵を切り伏せる。今までよりもはるかに体が軽く力がこもっている。この変な魔力は圧倒的に効率が良く力が出せる。奇妙な高揚感もある。
体に疲れを感じない。残っている敵兵の中央部に上級攻撃魔法を無詠唱で撃ち込んだ。
これで残りの兵士が5名になった。
身体強化を最高にしたまま切り伏せる。
「母上の仇。仇。仇」
どうなっているのか解らないが、今までの中で最も早く動けた。敵兵が止まっているようにしか見えない中を駆け抜け敵兵を切る。
「これで、終わりだー」
最後の兵士を切り伏せ、周りを見渡す。
最後に見えた子女は無事のようだ。
倒れていた護衛騎士の状態を確認。すると数名は息があった。そして2名は、切られた痕跡がない。恐らく強打による気絶だったのだろう。一番軽傷そうなのでこの二人を起こす。
「おい、目を覚ませ」
魔力を使って水を出し、頭にかける。
「うう、は。アースアシュリー様」
「敵兵は倒した。どうやら動けそうな兵士は君たちだけのようだ。他は後で助けに戻ってこい。まずはあそこにいる数名を連れて逃げろ」
「わ、わかりました」
だが、予想通り立ち上がろうとするが、二人とも起きれない。足の骨が折れているのかもしれない。それを最後の力で回復魔法で治療する。
「どうだ、歩けそうか」
「はい、ですが、我々を治されるよりもご自分を。アースアシュリー様は大丈夫なのですか」
「いや、僕はもうダメみたいだ」
「え!」
「使ってはいけない種類の魔力を使ってしまったようだ。
限界を超えたみたいで、さっきから徐々に体の力が抜けている。
恐らくもう時間はない。既に歩く力も無いのだ。申し訳ないが、最後に母上の所に運んでくれ」
「わかりました」
そう答えた兵士の顔を見て、僕の意識は途切れた。




