3.6王子として生まれる
しばらくして、アウロス先生が帰って来た。男爵領と子爵領の領主は入れ替わり農奴も解放されたそうだ。
春になり、僕も男爵領へと入った。兄も妹も視察について来た。
新しい農業を伝える為に王都で準備していた指導者が2領に別れて指導をはじめているそうだ。今回、さらに商家で勤めていた読み書きができる者を数名と、針仕事をして引退した人や、引退間際の職人を連れて来た。
女性で農業以外を希望する者がいれば、教育を行うためだ。
集めた元農奴たちに1年間に限ってだが、全員に読み書きを教える事を伝えた。簡単な読み書き計算が出来なければ、新しい農業についての継続的な報告ができないからだ。その中で優秀な者は役人として扱うための教育をさらに施す事を伝えた。
兄や、妹は平民に対してそこまでするのかと不思議に思っていたようだが、ここの農法を知った者達は、その後全国に散らばり農業改革を続けるためには必要なのだと説明したらなるほどと言っていたので、解ったのだろう。
そして、農奴たちの中に、前回の母親の面影を残した少女を見つけた。まあ親戚も沢山いるので似た者は数名いるのだが。
年齢的にも、育った環境的にも生まれてすぐに別れた妹だと思う。彼女も8歳。僕が少しだけ年下。ほぼ同じ年だ。
アウロス先生に、彼女は特別に待遇を良くして欲しいとお願いして兄と妹を連れて王都へ戻った。
それから、結果が出るまで1年。農業法を覚え、彼らが報告をできるようになるのにさらに期間を費やし他の領地へと送り出した。
僕は、アウロスとレオンヴァッカロー、アロイスの3名を臣下とした。
陛下からの後押しもあり、国内の農業改革はスムーズに進んだ。
そして、臣下である3名に頼みごとをする。
北のシュリングル王国にアロイスを、そして南のアッサンブルク王国にはレオンヴァッカロー様を派遣してもらった。
アウロスは、爵位の低いアロイスを補佐するためにシュリングル王国との交渉の為ついて行った。
僕は順調に10歳を迎えようとしていた。
妹を連れて庭を散歩していた時だ、蛇の尻尾が見えた。危ないと妹を後ろに下げ蛇と反対側に下がろうとしたのだが、蛇が舞い戻り道に出て来た。
コブラのように頭を平たくした蛇がこちらを睨み付けるように見ている。この地方にこんな蛇はいない。妹が叫び声を上げたのを聞き近くにいた護衛がこちらに向かってきたがそれよりも先に蛇がこちらに突進してきた。とっさにかばった腕に食いつかれた。
護衛が食いついた蛇を切るところが見えたが、かまれた部分は火を当てられたかのような痛みがあった。毒耐性など効かないと言うほどの猛毒だったのだろうあっという間に意識が無くなりそのまま目覚めなかった。
「やあ、今回はだいぶ良い感じだったよ。
信徒も増えたし君の知識で世の中が変わる気配があるよ。
でも君に与えた毒耐性は食中毒の回避ぐらいだからさ、あんな猛毒受けちゃだめだよ」
「あれは魔法なの。
あの国の図鑑にあんな蛇はいなかった。
そうだよ。
呪詛の魔法だね。
君の世界の知識から作られた呪いの魔法だよ。
どの神かわからないけど、過去に君のような別世界の魂を受け入れた事があるみたいだね。
あの魔法は50年ほど前から使われているよ。
あの国で使われたのは初めてだと思うけど。
術者はわりと近くにいるはずなんだよね」
「護衛の兵士が立っていたでしょ。あの庭は僕ら以外では王妃の関係者だけしか入れない」
「第1王妃か今の第2王妃の派閥だろうね。
結構、派手に動いてくれていたからね君は。
でももうちょっと頑張って貰えないかな。
大丈夫、次も貴族だからさ」




