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真凜は、一度も髪を染めたことはなかった。

しかも就職まで二ヶ月を切ったこの時期だ。

染めてるはずもなく、胸下まで伸ばした黒髪は(残念な結果に終わった)合コン前に手入れを頑張ったお陰で、さらさらの艶々である。


美しい黒髪、と言われれば嬉しいが

今の問題はそこではない。




『黒髪は王族の証』


しかし王族か、否か―――。

そう聞かれたら答えは決まっている。


「私は王族じゃないって!!!」


もちろんNoである。


「でも……。

あっ!もしかして記憶喪失とかですか?

それなら聖女伝説知らないのも道理がいきますし!」


しかし、その言葉だけではフランは納得してくれそうもない。



(まぁ、そりゃそうだよね…。)


今までの常識を覆せ、と言われてもそう簡単に頷くことは誰だって難しい。

それこそ地球は丸いだなんて今でこそ当たり前の話ではあるが、言われた当時は誰もが信じられない話だっただろう。




「………私は…赤ん坊のころ森に捨てられてたんだって。

拾ってくれた師匠が…そう言ってた…」


なので嘘をつくことにした。



「ずっと、あの森の奥で師匠と二人で暮らし。

魔法の研究ばっかりしてきたから、聖女様の話とか一般常識あんまり知らないんだ…。

でも、師匠が魔法を失敗しちゃってこんな姿になっちゃったから森を出て、魔法の解き方を探しに旅に出ようと思って出てきたの!」


私は『人里離れた森で生きてきた世間知らずの女子』。

もう、女の子と言える年齢でもない。女子である。


そう言ってから、スマートスピーカーを取り出す。

どう考えても『異質』なそれは、私の声にしか反応しない阻害魔法がかかっているため呼び掛けなければ変なことは起きないはずだ。

フランはポケットから取り出されたスマートスピーカーをまじまじと見る。


「お師匠様…ですか…」

「はい、私の魔法の師匠であるスピカです。

師匠は人間嫌いの偏屈者でしたので、私も今まで森の外に出たことなかったんです。」


少し考えればおかしな点はあるだろう。

なので、ここはごり押しで通すことにした。

スマートスピーカー略してスピカ。安直だが、名前がないのもおかしな話なのでそう名付けておく。


「あの森で…って、アマジオラスの森ですか?」

「そう呼ばれてるらしいね」

「ドラゴンが住んでる魔物の森ですよね…。

冒険者も近付かないって言われてる…。」

「あ、うん………。」


否定をしたら先ほどついた嘘は破綻してしまうので、頷いておく。


(ドラゴン…いるんだ……。)


考えようによっては、誰も近付かない森に、人嫌いの人間という相性は抜群だから丁度よかったのかもしれない。



「…現国王の妹君が幼い子を連れて行方不明になったのも、アマジオラスの森…。もしかしたら……」

「うん、だから生まれはどうか分かんないし、本当に王族かもしれないね。」


すると、なんと好都合な話であるか。

ここはうまいとこ、フランの話に乗っかっておくことにしよう。


(よし!これでうまく切り抜けられそうだ。

ありがとう、名も知らない王族の誰かさん…。)



馬車は王都に向かっている。

このままでは王宮に連れ込まれてしまうかもしれない。


異世界から来たのがばれれば『聖女様の再来』。

否定すれば『王族の血を引く者』。


いや、そう捉えられたらいいのかもしれない。


もしかしたら『出生不明の得体のしれない人間』――。

不気味だとか、不敬だということで処刑される可能性だってある。


これなら、適当に濁しておくことができそうだ。




(私は!ちょっとばっかし異世界旅行したかっただけなのに!)



「でも。私は師匠をもとの姿に戻したいだけだし、王都に行ったって王族として生きてく気はないよ。王宮とか絶対やだ!」

「えぇっ!?なんでですか!」


女の子であれば誰もが羨むだろう王宮の生活。

王子様と結婚だなんて―――


「ご飯が美味しいとか、身の回りの子とはメイドさんがやってくれるし、すごい高価なドレスを着れるとか……。

そういうのは憧れるけど、マナーとか分かんないし、毎日人に見られるなんて息がつまりそうじゃん!」


考えるだけで胃が痛む。

小市民には耐えられそうにない話だ。



「王宮に行くぐらいなら、どっかの食堂とかで働くとかの方がいいな。お金もないし。」

「うぇっ!それはやめた方がいいですよ!

それこそ丸坊主にしたりとか、帽子で髪を全て隠すなんてしないと大混乱しますって!!」

「なにその二択…」

「マリンさんは!分かってないけど、それぐらい黒髪は憧れのものなんです!!」


「そうですか……」


黒髪にどれ程の価値があるか分からないが、現地民であるフランが言うのであれば間違いない。



「……なら、フラン君のとこで仕事はあるかな?

寝るとこさえあれば、賃金もいらないし雇ってください!!」

「ぼ、ぼくのとこですか…!?」


自己紹介されたときに言っていた、商会。

ということは仕事はあるかもしれない。

駄目元で聞いてみると動揺したフランは、よほど驚いたのか。

先ほどまで私と自分のことを言っていたのに、僕と言っている。


(こっちが素なんだろうな)



「計算も得意だし、料理もできます!雑用とかでいいからお願いします!!」

「……父さん、どうしよう」


頭を下げるとフランは困り果てた声で御者台で静かに話を聞いていた(と思う)父親――、フォルトに呼び掛ける。


「うっ、まぁ…最近、食堂スタッフが辞めて母さんが代わりにやってくれて募集はしているが…。」

「本当ですか!?」


まさに渡りに船だ。

一人暮らしであったため、料理は一通りできる。

こちらの世界での食文化がどのような物かは分からないが、異世界の食堂に立つだなんて滅多にない機会だ。


「……一回試しに作ってみてもらい、納得できるものであれば雇う。

それでいいですかね…?」

「はい!もちろんですとも!」


一先ずは王宮に行くことは避けられそうだ。


なにを作ろうか考えながら、

そのあとの旅路は二人から色々な話を聞いた。


国のこと。

街のこと。

文化のこと。

家族のこと。

仕事のこと。


ちなみに、今日は隣町での行商の帰りだったらしい。


「いつもはあの森の近くなんて通らないんですが、馬が言うこと聞いてくれなかったんですよね。

まぁそのお陰でマリンさんに会えたわけですが!」


フォルトさんはそう言い笑う。


(あ、それ私のせいかも。)


確か、スマートスピーカーが馬車を呼びますか?とか言ってた。

タクシーを呼ぶ機能のこちら版みたいなことをしたのだろうか。


「そうなんですか、不思議ですね~」


でも、わざわざ言うことではないので、真凜も笑って誤魔化しておいた。



「あ、見えてきましたよ。あれが王都。

聖女様の名前がつけられたツジアイカです。」


「あれが、ですか…」



天幕をめくり、馬車前方を見るとそこには白い壁に囲まれた、都市が見えた。



(ツジアイカ…。つじ あいか、か…。)



どう考えても、その名前は――――



聖女様は黒髪。

もしかして…。と思ってはいたが聖女様も日本人だったのではないか。



この地に留まったという聖女様。


帰らなかったのか。

それとも、()()()()()()



真凜はぎゅっとスマートスピーカーを抱える力を強める。




王都、ツジアイカまではもうすぐそこまで迫っていた。


今日は仕事が休みで気付いたら遅くなりました。

やっと次で王都につく…はずです。

よろしくお願いします。

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