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スマートスピーカーに言われた通り、言語魔法と阻害魔法は(一応)かけた。

あとは、これからのことだ。


「せっかく来たんだし、異種間交流も悪くないよね」


帰れないという現実を突き付けられるかもしれない。

知りたくないから、他に出来ることをしていこう。


とりあえず周りに落ちているものがないか探しておくが、特に落ちているものはないため、荷物はこのスマートスピーカーだけである。


(すごい軽装で飛ばされたな…)


スマートスピーカーを片手に持ち、先ほど描いた魔法陣を消していると遠くから馬の蹄の音が響いてくる。

それと共に人の声が聞こえてきた。


「父さん、ここってさっき光ってた辺りじゃない?

なんだかおかしいよ…。」

「ふむ。馬が言うこと聞かないし…どうしたもんだか…。」



(おぉ、会話の内容がわかる。)


木の影から顔を覗かして伺い見ると、馬車が一台。

10代前半ぐらいの少年と40は超えてそうな中年男性が馬車の御者台に座っていた。

中年男性は前頭部が少しだけ薄いだけで、もしかしたらもう少し若いのかもしれない。会話の内容的にも親子みたいだし。


しかし、それ以上に目が行くのは二人の髪の色が水色というところだろうか。

もし染めているのであれば、なかなかなファンキーな親子である。



(このままじゃ通りすぎちゃうし、声をかけなきゃ…)


寝る前と変わらない格好であるため、今は裸足なのだ。

これを逃せば次いつ来るか分からない馬車を停めるか、歩くしかない。



「あの!!すみません!!

待ってください!!」


スマートスピーカーをステテコのポケットに無理やりしまい

これでもか、と言わんばかりの声を真凜は出して馬車を引き留める。

すると馬車はゆっくりと減速し、すぐに停まってくれた。



(良かった!)




馬車に駆け寄ると、

父親の方らしき男性が降りてきて――




そして、そのまま目を大きく見開き固まってしまった。




「………。」

「………。」

「………。」

「…………あの。」


なぜなにも言ってこないのか。

不安になり声をかけてみる。



「あ、いや!これは申し訳ない!」


すると慌てた様子で男性は佇まいを整え、咳払いをひとつする。


「こほん。こんな場所でいかがされましたか?」

「えーっと…、すみません。

見返りに渡せるものはないのですが、近くの街まで連れていってほしいんです……」


現在、真凜の持ち物は身に付けている服かスマートスピーカーだけである。

これでは渡せる持ち物などあるはずもない。

そのため、無茶な取引であること承知の上で、お願いをすることにした。


「もちろんですとも!!!

さぁさぁ、こんなオンボロの馬車でよろしければどうぞお乗りください!!!」

「ぇ、あっ!はい!」


だが、男性の反応は思っていたものとは少し違っていた。

思わずたじろいでしまうほど、笑顔で了承してきたのだ。


(こんな不審者みたいな格好の人を見返りもなしに普通乗せてくれるものなの…?)


自分で言っておきながらも、こんななにもないところに女子1人。どう考えても怪しいとしか思えない。

しかし、とても嬉しそうに軽やかな足取りで馬車の中へ案内してくれたので、警戒心を解き乗り込むことにした。



(―――親切そうだし、好意に甘えることにするか)


「お邪魔します~」


乗り込むとギシ、と木製らしい軋んだ音が立つ。

初めて乗る馬車の中は、ところ狭しと荷物に溢れていた。

どこに居場所を確保すればいいのだろうかとキョロキョロと見渡してると、先ほどまで御者台に座っていた少年がクッションを敷いてくれた。


「こちらにお座りください」

「ありがとう」

「いいえ、そんな有難い言葉をいただく程のことではありません。こんな汚い馬車で申し訳ありません。

王都に向かう途中でありますので、貴女様を送り届ける役目を果たせて嬉しく思います…」

「いやいや!大丈夫だから頭をあげてって!」


少年は床に頭がつく勢いでお辞儀をし、丁寧な挨拶をしてくる。

一体誰と勘違いしてこんな態度をとってるのか不安になるレベルだ。


「フラン、お前はこっちはいいからお相手を頼むぞ。」

「はい、父さん!

旅の最中はイベリス商会フォルトの息子である私、フランがお相手させていただきます。どうぞ、よろしくお願いします」


御者台に座っているのが男性が父親のフォルト、そして少年がフランというみたいだ。


フランはなぜかうっとりとした表情でこちらを見つめてくる。

本当に誰かと勘違いしてるのではないだろうか。

こんな少年のキラキラとした瞳で見られたら、とてもじゃないが言い出しにくい。




―――だが。

女にだってやらなければならないときはあるのだ。




発車し揺れる馬車の中で、心を決める。



「……私って、誰か有名人に似てるの…?

私は、マリン・ニイカワ。人違いじゃないかな。」



言った。

言ってやった。


もしかしたら馬車を追い出されるかもしれないという不安はあるが、数時間かかる馬車の旅をこの空気のまま過ごすことは出来なかった。


「えっ!……でも、その髪の色は…」

「髪の色がどうしたの?他にも黒髪の人はいるんでしょ?」


そう質問すると水色の髪色をした少年――フランは眉をひそめ、少し考えてから言葉を続けた。


「マリン様は…」

「さんにして。」

「……マリンさんは、このマルカリスに伝わる聖女伝説はご存知ですよね?」


「あー……、知らない…。」


不細工に膨らんだポケットにあるスマートスピーカーに聞けば一発で答えが返ってくるのだが、ここでは素直に人に聞くことにしよう。

すると、フランは『信じられない』と驚いたような表情をするも、すぐに取り繕い説明をしてくれた。



「この国では昔、他の国に比べて魔物が多く住み着いており、荒れ果てていました。

―――しかし今から数百年前です。

当時の高名な魔術師たちが作り上げた魔法によって、異界から聖女様が召喚されました。そして聖女様はその身体に持つ癒しの力を駆使し、この地に平和をもたらしてくれたのです。」

「うん、なるほど。」


よくあるラノベみたいな話だな。


「それで、その聖女様が黒髪だったわけね。」


「はい…。けれどそれだけじゃありません。

平和をもたらしたあと、聖女様は当時の国王様と結ばれ、子供にも恵まれました。

それはそれは、聖女様に引けをとらないほど綺麗な黒髪を持つご子息が……。そしてそのご子息も、また黒髪を持つ子でした。

そしていつしか、この国では

『黒髪でなければマルカリスの王になる資格はない――』


そう言われる程、聖女様から引き継がれてきた黒髪は、今も大事にされてきているのです。」



きっ。と力強い目で真凜の瞳を見るフラン。



「つまり。

黒髪は、()()()()なんですよ。」




そう。黒髪は確かに存在するようだ。


ただし、この国の王族の血が流れている者のみに――。




「こんなに綺麗な黒髪ですもん。

マリンさんは…王族ですよね…?」




(知らんよ、そんなことーーーー!!!!)


真凜はやり場のない怒りを目を閉じて、心のなかで叫んでおくことにした。


やっと始まりの森を離れました。

よろしくお願いします

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