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「『ねぇ』、じゃあ…」
それから一時間ほど。
異世界に来てしまったというショックから少しは立ち直り、スマートスピーカーに十何個目かの質問をする。
設定したのは自分だが、いい加減『ねぇ』と呼び掛けるのにイラついてきた。
仕方ない。こんなに会話をするのを前提に設定したわけではないのだから。
「あー、疲れたー!」
わかったことをまとめると――
ここはリーメリアという世界。
6つの大陸に大小様々な国があり、今いるのはマルカリスという国。一年を通して気温は温暖で、雪が降ったりすることはないらしい。
四季はないが、おかげで今の格好でも寒くないのでありがたい。
主に住んでいるのは種族は人間で、さすが異世界といったところだろうか。人間以外にも、獣人族、精霊族、魔人族などといった種族が存在する。会ってみたいな。
ちなみに黒髪の人間は存在するようなので、街に出ても奇異の目で見られることはなさそうだ。
持ってる魔力に差はあるももの、魔法は誰しもが使える。
ちなみに先ほど言われた飛行魔法というのは、特殊な石を自身の魔力で変形させて作る乗り物のことを言うようだ。
地球では考えられそうにない話である。
(頭がパンクしそう…)
しかし、これからが一番大事なことである。
なぜスマートスピーカーがこんなにもこの世界に詳しいのかというと、
向こうでは質問→インターネットに接続→インターネット上に存在するサーバーから検索→検索結果というプロセスをたどっていたが、こちらでは違う。
質問→魔力に接続→魔力を含む物質から検索→検索結果。と、ネットの代わりに魔力にアクセスを行っているのだそうだ。
だからこの世界についての質問に答えが返ってくるのだという。
この世界におけるほとんどの物は魔力を帯びている。
手紙をやり取りだって、魔力の込めた手紙を魔法で飛ばすというのが一般的だという。
それならその手紙の中身も見れてしまうんじゃないか、と思ったのだがスマートスピーカーがアクセスできるのは「色のない魔力」または「許可された魔力」が帯びたものだけらしい。
「色のない魔力」とはそこら辺に漂っている魔力のことで、年月が経った本が持つのはこの「色のない魔力」で、スマートスピーカーはこれにアクセスし質問の答えを教えてくれたみたいだ。
反対に「色のある魔力」とは、人などが「色のない魔力」を取り込んで作った魔力のことで、これにはアクセス出来ないという。
いくら質問してもよく分からない答えしか返ってこなかったので、パスワードが必要だとか、スマートスピーカーで他の人のスマホの中を見れないのと一緒かな。と思っておくことにしよう。
「『ねぇ』……。
これからどうすればいいと思う?」
「申し訳ありません、その答えはわかりませんでした。」
「ですよねー!」
さすがに質問の内容が曖昧すぎたか。
だって、呼び掛けたのはいいが、怖かったのだから。
『もとの世界に帰る方法はあるのか』
だなんて――――
「じゃあ『ねぇ』、いまやっておくことはある?」
「言語魔法の習得と、私に阻害魔法をかけることをおすすめします」
「『ねぇ』、言語魔法と阻害魔法ってなに?」
「言語魔法は翻訳機能を常に設定する魔法です。人と会うのに便利です。
阻害魔法は、他の人が私にアクセスできなくする魔法です。
魔法の表示を行いますか?」
「それはどっちも大事じゃないか!
『ねぇ』、お願い!」
「かしこまりました」
液晶画面に呪文が…と思いきや、魔法陣が表示される。
「『ねぇ』、魔法を使うには魔法陣が一般的なの?」
「魔法陣は古代魔法と呼ばれ、現在は使われてませんが、言語魔法をかけてない状態では呪文を読めないと思い、魔法陣を表示させていただきました。」
「……。」
(古代魔法って…大丈夫なのかな?
呪文を読めるようになったら使うことないだろうし、今回だけ使わせてもらおう…!うん!)
真凜は近くに落ちていた木の枝を広い、足元に魔法陣を描いていく。きれいな丸を描くのに苦労したが、なんとか表示された通りのものが完成しただろう。
「『ねぇ』、魔法陣が描けたらどうすればいいの?」
「魔法陣の上に乗れば魔法は発動します。」
「ありがとう」
(失敗したりしないよね…)
地面に木の枝でお絵かきだなんて、小学生の低学年以来だ。
こんなので魔法が発動するのかと考えると、はっきり言って怖い。
しかし、悩んでいては始まらない。
「えいっ!」
魔法陣の上に乗ると目映い光に包まれた。
しばらくすると光は収まり、魔法が発動したのがわかった。
しかし。
「……これじゃ、魔法が成功したかわかんないじゃん!!」
どちらの魔法も、他に人がいないと結果がわからないのだった。
説明回になってしまいました。
分かりやすく書くのって難しいですね。
よろしくお願いします