05 森の朝。
いつも(2000〜2500字)より長くなりそうなのでもう1話追加します。
「【渡潜者】か【流落者】?」
聞きなれぬ言葉にイルフは首をかしげる。
「分かりにくかったかしら。噛み砕いて言うと、世界から渡り、【潜り抜けて来た者】か、【流され落ちてきた者】という事よ、イルフ。」
「いまいち表現が分からないんだが…あれか、世界の他の何処かから飛んできたかふっ飛ばされてきたってことか?」
「半分正解。後は異変の跡地を見てから思考してみなさいな。」
「世界を渡る…か。長距離移動?アルは魔法使いに関わってる何かか?もっと詳細を教えてくれないか?」
「深く思考せずに安易に全ての解を求めては、何も学ばないとは思わなくて?」
口に手を当ててフアァ…と欠伸をすると、シルウアは守護陣内の木の枝に飛んでゆくと姿を消し…
「今日は疲れたわ。朝準備が出来たら声を掛けて下さいな。勝手に行こうとしたら森から叩き出す事になって私が疲れる事になるのよ。賢い選択をね。イルフ。」
声だけ残して気配が無くなる。
「選択って、選択肢が一つしかないんだが…何か面倒事になってきてる気がするなぁ。やれやれだ。とりあえず、目先の賢い選択ってやつをしとくかなぁ。」
話のできる精霊が側にいるなら大丈夫かと、イルフは寝ずの番を止めて仮眠を取ることにする。
ーーーー翌朝ーーーー
木木の隙間から見える空が明るくなると、静寂に包まれてる森には薄い霧が立ち込める。その肌寒さで仮眠から目覚めたイルフは、アルがまだ熟睡してるのを確認すると握りしめられたままのローブを器用に脱いでアルに被せる。
既に火のない焚火後から使えそうな炭を掘り出して、その上に新たに小枝を組んで火を起こす。
アルを寝かせた後、水を弾く樹脂を片面に染み込ませた布を斜めに張り、下の一片を凹ませ糸を垂らして小鍋に水滴を集めておいた。
水筒から必要な分を足し湯を沸かす。僅かに溶けた樹脂が浮いたらアク取りの要領で取り除き、薬草茶を作る。ほんのり甘くて苦味のあるお茶だ。
「シルウア、起きてるか?」
アルを起こさぬよう小声で空に向けて問いかける。少し間を開けて、
「おはよう冒険者。あぁ、イルフだったかしら…フアァ…ちゃんと声を掛けてくれたのね。良い選択肢よ。私は準備ができたらと言った気がするのだけどもね。」
イルフの少し横に向けて、シルウアが実体化しながら伸びをしつつ、すーっと舞い降りてくる。ちょこんと座るとまだ眠そうにむにゃむにゃしている。
「伸びをしながら羽ばたくとか、精霊ってのは器用なもんだなぁ。」
関心したようにイルフは言いながら、薬草茶を指差し、飲むか?と問いかける。
「この辺には無さそうな薬草が入ってるのね。頂く事にしようかしら。」
近くの草の中から長めの葉を取ると、ヒョイヒョイと慣れた手付きで自分サイズのお椀を組んでイルフに差し出す。
「この小さいのに入れるのかぁ。地味に難しいな。」
そーっと3滴ほど注いで渡す。彼女はそれを受け取ると、クンクン香りを嗅いで一口。お気に召したのかちびちびと飲み始める。
「シルウア。昨日聞きそびれたんだが、守護陣内にどうして簡単に入れたんだ?」
「ああ、あれ?簡単なことよ。貴方は陣を発動させるのに何の力を借りたのかしら?イルフ。」
「ん?土と風だな。…ああ、そういうことか。」
「そのナイフを使ってこの地の力を借りているのだから、私がその力の道を通れない道理は無くてよ?」
「精霊を防ぐのに精霊力の守護陣では相性が悪かったかぁ。覚えておこう。もう一つ聞きたい。アルを連れて行く事に反対した理由を教えてくれないか?」
「置いていくつもりはないのでしょう?なら聞いても聞かなくても同じ事だと思うのだけど?深く思考してその質問なのかしら?」
「ははぁ、意外にケチなんだなぁ…精霊ってのは。それともシルウア、君だけがそうなのか?イヤイヤ、心が狭いなぁ。お兄さん悲しくなってきたぞ。」
悲しくもなんともなさそうにニヤっと笑い挑発するように言われ、彼女はブチッ!と音がしそうなほど表情を変え、羽をばたつかせなが、浮き上がり息を吸い込むと、
「はぁ!?なに言ってるのかしら!ケチ!?私が?貴方おかしいんじゃなくて!?全く、たかだか20〜30才の人間が上級精霊の私に向って。口の聞き方をわきまえない浅慮な子にはお仕置きが必要かしら!?必要じゃなくて!?必要よね!?」
一息で捲し立てる。イルフは
『おー、よく噛まないな、すげーなぁ』などと思いながら、僅かに視線を変える。
「大体森を荒らした貴方に私がこんなに親切に色々助言してあげてるのだからもうちょっとぐぇぇッ!?痛い痛いいた〜い!?なに!?何なの!?ハッ!アルセーニー貴方なの!?止めてお願い!取れちゃう取れちゃう羽をひっぱらな〜い〜でえぇ〜っ!!」
イルフは腹を抱えてゲラゲラ大笑いしている。
実はイルフが挑発した辺で、トーンの高いシルウアの声に不快そうに起き上がったアルは、寝ぼけて焦点の合わぬ状態のまま、目の前でバタバタ飛ぶ騒音の元を無意識に鷲掴みにし、何だろうこれ?とばかりに羽を引っ張り始めていたわけだ。
名前を呼ばれアルは意識を覚醒させると、びっくりした表情で固まる。手が緩みシルウアは地面にポトリと落ちると暫くピクピクしている。
「ヒーッヒッヒ…ハア、ハア。……アルは……寝起きが悪いんだな。うん、覚えておこう。」
涙目になり息苦しそうに笑いながらイルフは言う。すると別な意味で涙目の妖精が羽を擦りながら起き上がり、恨めしそうに彼を見、呆然としてるアルに気づき
「け…気配が無かったのは何故なのかしら…アルはこの年でそんなスキルを…ま、まさか…ね…。」
冷や汗を垂らしながらアルの手の射程から後ずさる。上級精霊を退かせる子、恐るべし。
*5月22日 朝になってからのシーンで会話がごっそり抜けていたので修正しました。