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ある男のトラブル放浪記(仮題)  作者: まとーかの
序章。冒険者と少年
4/10

04 夜中の訪問者

連投になりました。

 結果的に言うと、アルが寝付いたのはかなり遅い時間だった。

獣の声が遠くからしたり時折森を吹き抜ける風で近くの藪がガサガサ揺れる音がする度に、アルは悲鳴をあげて飛び起きては対して離れてない。焚火の脇に座るイルフの腰に縋り付いてきて、ブルブルと震え、大丈夫だと頭を撫でて寝かせようとしても目に涙をためイヤイヤをしてなかなか寝てくれない。

イルフは仕方ないなとため息をつき、焚火を挟んだ自分のすぐ側にアルを寝かせる。するとアルはイルフの羽織るローブの裾をしっかり握りしめ。ようやく安心したのか根付いてくれた。



 夜明け少し前の事、それは唐突に。


 「今晩は冒険者。起きていて?」


 どこか探る感じの、少女に近い女性の声がどこともなく聞こえてきた。


 「…悪いが姿を見せてくれないか?」


 イルフの正面。守護陣の向こうの空中に、20ソミル程の蝶のような形の透けた羽を持つ女性が空気から染み出すように現れる。

白い肌に薄茶色のシンプルな服装で、腰帯は緑。襟元と袖口、スカートの裾には黄色い唐草模様の刺繍がしてある。

深い緑色の腰まである長髪で、クセ毛なのか前髪は少し左右に跳ねている。緑色のぱっちりした目は少しタレ目で、小さな口元は少し笑みを含んでる。


 「これで良いかしら冒険者?」

 「やけにはっきりした幽霊だなぁ。まるで妖精のようだ。」

 「どちらでもないわよ。精霊よ。せ・い・れ・い。失礼しちゃうわ。冒険者、ここじゃ遠いのだけど近くで話す気はないのかしら?」


 精霊は両手の甲を腰に当てて主張する。イルフは大げさにヤレヤレとゼスチャーしてみせる。


 「敵意が無ければ入ってこれるだろう?」

 「樹狼をあんなに殺されてはこの辺のバランスが崩れてしまうの。私は森を荒らされて少し怒っているのよ?それをこの陣が敵意と感じたのじゃないかしら。」

 「非力な子供を連れてるこちらも守りは必要でねぇ。それに、この子が手を離してくれないから君の側に行くのは無理だ。諦めてそこで会話してくれ。」


 アルが握りしめたローブを指して見せる。


 「いやよ。疲れるもの。」


 精霊は少し考え…。


 「いいわ、冒険者。初対面の挨拶は通したつもり。敵意も無いようですし、そちらに行かせてもらう事にするわね。」

 『まだ名乗られてすらいないような…』とイルフが思う間もなく精霊は姿を消し…


 「下からお邪魔するわ。改めて今晩は冒険者。」


 魔法陣のすぐ脇の地面からニョキッと顔を出しそう言うと、精霊は地面から抜け出してフヨフヨと飛んでくると、イルフと焚火を挟んだ位置で対面する。


 「私は迷いの森シャーリープラエタの精霊シルウアウィデーレ。この森のを見守るものよ、冒険者。」

 「俺はイルフだ。見ていたなら名前で呼んでくれ。」

 「あら、そちらの名前で良いの?初対面なのだから名乗りは必要でなくて? イルフ。」

 「精霊は色々見えるらしいな…まあいいか。で、森の管理精霊様が何の用だい?」

 「…予想は出来てる顔なのだけど?」

 「予想は予想だなぁ。掛け合いは良いから本題にすすんでくれないか?あと、呼びにくいんだが、シルで良いか?」


つれないわねとため息をついて


 「せめてシルウアにして下さいな。良くて?」

 「ああ、分かった。よろしくシルウア。」

 「ええ、よろしくイルフ。話の1つ目は、森への新参訪問者への忠告かしら。普段は姿を見せる事はせずに行うの。この森をあまり好き勝手荒らさないようにとやんわりメッセージをしたり脅かしたり、樹狼に手伝ってもらう事もあるわ。」


 話を一区切り。イルフの反応を探るように彼女は続ける。


 「その子の事を守る為にやむを得なかったというのは交渉(やりとり)を見て理解したのだけど…全く。あっと言う間に9も倒されて止める間もなかったわ。せっかく育てた若手をごっそり失って暫く縄張りも縮小だって、あの子落ち込んでたわよ?」

 「あの子って、樹狼の頭か?あの規模の群れを狩に率いてたんだ。まだ熟練の主力がいるのだろぅ? というかあれ一頭で大角猪(オオツノイノシシ)クラスも倒せそうだなぁ。」

 「群れ自体は崩れてなくてもあの子達が弱体化してしまうと色々影響が大きいのよ。せめて半数くらいで止めてほしかったのだけど。」

 「それはすまなかった。次から気をつけよう。」

 「…次……ね。まあいいわ。今はそれでよくてよ。 コホンッ…2つ目の話よイルフ。」


 咳払い1つ。シルウアは話を続ける。


 「貴方はこの先に行くつもりじゃなくて?」

 「ああ。カナーン街道を歩いてたら異変を見かけて、現地調査ってやつだ。」

 「そう…。その子も連れて行くのかしら。あまりおすすめしないわね。」


 少し眉をひそめる精霊の少女。イルフはその様子を見て問いかける。


 「シルウア。見ていたならアルの事何か知っているなら教えてくれないか?アルは何故この森に居た?一人でいたのか逸れたのか?言葉が通じないのは何故だ?何か、手がかりが欲しい。」


 そうね…と暫く考えた後。彼女は口を開く。


 「私も最初から見れた訳じゃないのよ。貴方と同じ、駆け付けた感じかしら。先に言っておくわね。異変の地には私も同行させて頂くわよ。」

 「ああ、それは構わないが…。」

 「あくまでも予想なのだけれど、その子は多分……【渡潜者(とせんしゃ)】もしくは【流落者(るらくしゃ)】だと思うのよ。」

*この世界の地名には、古英語やラテン語由来の地名人名が結構あります。

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