03 イルフとアル2
多分05まで投稿した所で章を序章に変更することになるかと思います。
少し落ち着いた所で、イルフは思案する。
『アルを青の回復薬で怪我は治した。だが回復薬は治療薬であって、体調は戻らない。あれだけ追い回されあれだけゲーゲーやってて、さらに場を離れる為に10分くらい歩かせちまった。どう考えても体力の限界だろう。
…かといってじゃあ体力の回復をと考えても、俺が持ってる体力回復薬は子供に飲ませるには強力すぎて反動がでちまうかもしれない。
俺一人なら月が上る前に調査しに行って最短で街道まででれるが……まあ、拾っちまったもんは仕方ないか。』
荷袋から薬草袋を取り出し、中から子供の小指位の太さで長さ10ソミルほどの硬い茎を取り出し、ナイフで半分に切り、片方の皮を半ばまで剥きアルに渡す。
「ノノルの茎だ。俺が夜営の準備してる間咥えてろ。煎じてない分効き目は薄いが弱った胃を整え少し食欲が出る。不味いけどな。」
と、剥いてない方を咥えてみせる。
それを見てアルは茎を咥えて
「ウエェッ!Эта трава слишком горькая!」
渋面のままイルフに突き返す。
「ダメだ、苦いだろうが我慢して咥えてろ。」
首を振って再び咥えてろとゼスチャーする。イルフが大まじめな顔なのを見て、アルは渋面のまま渋々ノノルの茎を咥える。余程苦いのかちょっと涙目になっていりる。
「それでいい。いい子だ。」
頭を撫でてやるとイルフは簡易拠点造りを始める事にする。
毛皮をかけた木の横を中心に決め、赤い五芒星の魔方陣が書かれた巻き布を広げる。よく見ると魔方陣の外周には小さな文字がびっしりと刻まれている。
魔方陣の中心には丸い穴にが空いてて、そこに小さな黒い巾着袋のついた銀の飾りナイフを突き立てると、今度は半透明の太い糸が巻き付いた糸巻きを取り出し、端を飾りナイフの柄に結ぶ。
糸を引きながら木の幹を地面すれすれで回り糸をピンと張るように加減しながら戻り、柄に糸を引っ掛け、起点にして違う木へ…。
同じ作業を繰り返しながら大体十字の4方向、8~10ミル程度の距離の木に糸を張り終える。
アルが不思議そうに見てるのに気付き、イルフは、
「このナイフの袋にはな。触媒の精霊石と守護の護符が入ってて、一度だけ使える。で、一度発動すると危険のある場所でも一晩くらいその場所を守ってくれる。本来は周囲5ミル程度の範囲なんだが…て、まだアルは言葉分からんかぁ。」
飾りナイフに手の平を当てながらイルフは小さく早口で、
「護り手の力は地と風。敵意を払い惑わす陣をここに定める。」
飾りナイフが淡く光りはじめる。イルフは続ける
「囲を示す力を捧ぐ。囲うは道の示す先。道補うは我が力。増幅陣展開。」
すると、魔が五芒星の各頂点から赤い光りが上に伸びる。
赤い光りは螺旋を描きながら中心のナイフに収束する。
ナイフに繋がる糸が弾かれたように振動し、ナイフがキンッと金属音を響かせると糸の振動もナイフの発光も収まる。
「これで良し。さてアルにこいつの説明しなきゃなんだが…」
作業の邪魔になるので脱いでおいたローブを片腕に引っ掛け、頭の上に“?”マークがいくつも浮いてそうな表情のアルを手招きする。
どうせ言葉が通じないならと、ことばを使わず説明してみることにする。
魔方陣とナイフをグルッと指差し、次にアルを指差してから、上からばさっとローブ羽織らせて見せる。
次に立ち上がり、目を指差し手と首で否定をしてみせ、空中を手で大きく包むゼスチャーをする。
その後自分達のつもりで地面に大小二人の人っぽい絵を書き、上に半円を書いて見せる。
今度は糸を指差し、両指で見えない糸をひっぱるゼスチャーをして、アルに被せたローブを取り去って見せる。
再び糸を指差し、離れるゼスチャーをする。
分かるか?と首を傾げて見せると、アルは少し、うーんと考えた後、糸を張ったそれぞれの木を指差し差して、ローブを羽織りイルフに首を傾げる。
「おう、そう、そうだ!糸を引いた木の内側はここを包み込むように守護陣で覆われてるんだ。なかなか賢いじゃないか。」
確証はないがまあ、大まかには通じただろうとイルフはアルの頭を雑に撫で回す。
それからの作業は普通の夜営と変わらない。
魔方陣の近くの地面が少し窪んだ場所に広い集め、乾燥した落ち葉と枯れ草に火打石で火をつける。
手早く細い枯れ枝から組んでゆく。
火が回るまでに、用意したのは一食分サイズの小鍋と、その中には数種の食用ハーブ、乾燥雑穀を1掴み、干し肉もスライスして用意しておく。
炭化し始めた太めの薪を少し崩し、土台にする。
枝を組み小鍋に水を入れ火にかける。
煮立ち始めたら干し肉を入れ、微量の岩塩粒で味を調整した辺でアルのお腹がキュルキュル鳴く。少しはノノルを咥えさせた効果があった様だ。雑穀が柔らかくなったら火から下ろし、粥の出来上がりだ。
木皿に入れ木のスプーンと一緒に渡すとアルは恐る恐る口にする。
「Ох Вкусный…」
と、パクパク食べ始める。
「食欲が出たか。気に入ったようだしなによりだ。今日はしっかり休んでおくんだな。」
アルを寝かせた後、イルフは焚火の側で夜を明かす事にする。
彼の張った守護陣は一定の距離を指定した対象から守る半円形の障壁を作り出すが万能ではない。だから見張りは必要だ。しかもここは木こりや狩人も安易に奥に立ち入らないと言われる森。尚更である。