02 イルフとアル
やっと二人の名が登場します。こういう手法は古臭いかもしれませんね。
まだ樹狼達が居るのをあえて無視して青年は改めて意識を失ったままの少年を確認する。
年は10かその辺か。
髪は白っぽい金髪で、長さは耳が出るくらい。
両目の中寄の前髪の細い二房だけ濃い金髪が入っている。
手足は華奢で、力仕事をしてるようには見えない。
「手足に擦り傷とひっかき傷。顔にも…ああ、うん俺のせいか?きっと違うだろう。うん。」
そう言う割には顔が引きつってる…。
「あとは…骨は大丈夫そうだな。左上腕に浅めの噛み傷2箇所。こりゃぁ樹狼達弱い獲物と殺さず追い回して狩を楽しんでやがったな?」
と樹狼の頭が居た辺を見ると樹狼達は居なくなっている。気配が遠ざかるのは見ずとも感じていた。
「ふう。大人しく帰ってくれて良かった。取り巻きはともかくあの頭はやりあうと面倒臭そうな相手だったからな。」
ボヤきながら、戦闘前に放り出してあった荷袋から水筒ときれいな布を出し、泥や血糊を軽く落とす。
噛み傷に毒消し薬を施してから回復薬を各所の傷に振り掛ける。
服の下には怪我はなさそうだった。
深手の傷は咬み傷だけだったので白煙はすぐ消える。
「さっきの取引分2本にこの坊主の分解毒と回復1ずつ二本…地味に痛い出費だなぁ。つい勢いで助けちまったが、何で俺はわざわざ厄介事拾っちまったんだか。」
今更に後悔してるようだ。
「にしても、変わった格好だなぁ。ろくに耐久性のなさそうな腰丈のローブに、赤と黄色の長袖シャツとカーディガン。見かけない素材の青いパンツ。靴もこんな所歩くにゃ向かなそうな革靴。丈夫さはともかく作り方や生地はその辺の露天で買える質じゃない。」
う〜ん…と暫く考えた後、気持ちを切り替えて少年の頭を胡座をかいた足に乗せ、に気付け薬を嗅がせる。
軽くむせた後、少年は焦点の合わぬ目で軽くぼんやりとしている。
「おい、坊主。大丈夫か?もしかして頭打ったか?あの獣ども、酷いことするなぁ。」
誰かのおかげで間違いなく額は打ってるのだが、身に覚えがあるからこその発言かもしれない。
覗き込んで何度か呼びかけてると突然少年は目を見開き、飛び起きながら
「Вол―
バゴッ!!
「Бо、Больно!」
「痛ったーっっ!」
少年の頭は青年の顔面を直撃し、双方痛みに悶絶する。
「ぼ、坊主、お前助けた俺に恨みでも!あ…あるっちゃあるか。」
最後の方は声が尻つぼみになるのであった。と、少年は初めて青年に気づき詰寄る。
「Во、Волк!!?Дядя ha dare!?kokoГде?」
「まてまてまて!落ち着け!何言ってるか全っ然わからねーぞ!後声でかい!違う獣が来たらどーすんだ!」
青年はゼスチャーで何とか落ち着かせる。分かったのか分からないのか、少年は困惑したように何やら話しては首をかしげたり首を振ったりする。
「参ったなこりゃ。どっかの辺境民族の語かなんかか?」
とりあえず、周りを見ろと、グルっと周囲を指差すと、少年は目で追い…ゴロゴロ横たわる樹狼の死体を目にするや悲鳴を上げて青年の腰に飛びつき震えだした。
次にすぐ側に突き立っていた大剣を見て、今度は目を丸くする。
そのまま青年へと目を移し格好を改めて見つめ一瞬ポカーンと口をあけ、今度は目をキラキラさせんばかりの好奇心いっぱいといった表情になる。
「涙目で怯えたり驚いたり笑ったり忙しい坊主だなぁ。まあ、とりあえずそこに座ってろ。俺はやる事がある。」
青年は苦笑い少年の頭をポンポンしながら一度立ち上がり、地面を指差しそこに座ってろとゼ地面を叩く。何となく理解してくれたらしい。それを確認すると、彼は樹狼の死体に向かい、なれた手付きで毛革を剥ぎ始める。
樹狼の毛皮は結構丈夫で、皮の部分の樹皮の様な模様が付加価値となり、普通の狼の毛皮より良い値で売れる。
出費もあるし、倒して全て放置では勿体無いというもの。とはいえ、予定外の獲物な上に助けた子供というお荷物が出来てしまった。出来れば死骸から早く離れておきたい。
若干値は下がるが胴体部分の毛皮のみ回収する。ちなみに、樹狼の牙は形が悪く価値が低いので青年は回収するする気がない。
2頭目にかかった辺で青年の後ろから何だか異音が聞こえ始める。
「うわぁ、今度は吐いてやがる。皮剥ぎ初めて見るのか?死体は大丈夫でこっちはダメとか意味わからんぞ。」
涙目の色々酷い状態の少年に後ろを向いてろとゼスチャーして作業を続ける。4頭目を処理してると、後ろを向いてる少年再び…。
「またやってるよ…あれか、匂いか? それとも音で想像しちゃいましたって感じか? 分かった分かった!これじゃせっかく使った回復薬が無駄じゃないか。はぁ…これで最後にするか。」
手早く4頭目を処理すると、まだ重い毛皮を担ぎ、ダメージが抜けない少年の手を引きその場を離れる。
暫く歩くと木漏れ日の刺す場所を見つけ、青年は周囲の太い枝に毛皮を引っ掛けると、喋る気力も無いのか黙って付いてきた少年を座らせ
水を飲ませる。
「坊主、ちょっと休憩だ。」
すると、少年はこっちをじーっと見た後、小さな声で、
「バ…ウ…シュ?」
てた呟きフルフルと首を振り
「АрсенийkadomorigaИмя。」
と呟く。
「何だ坊主。それお前の名前か?」
指を指しそう言うと、コクコク頷いてる。
「アルセ何とか?いや長いだろぉ。俺よりながいじゃないか。お前貴族か何かか?っても分からんか。呼びづらいな。」
青年は手を広げ首を振ってみせ、今度は指で隙間を作り少年を指差し、
「とりあえず坊主は嫌らしいな。じゃあ今から…ア・ル…だ。ア・ル。」
少年は首を傾げながら少し考えた後、
「ア………ル。」
とゆっくり言い首を縦に振る。
「通じたっぽいな。じゃぁおれの番だな。俺は…イルフでいい。イ・ル・フ。イ・ル・フ…だ。」
「イ…ル…フュ?」
「惜しいな。そんなに難しくないと思うんだが…まあいいか。」
苦笑しながらイルフはアルの頭をグリグリ撫でてやるのだった。
撫でてやるとアルの表情が少し緩んだので、スキンシップとしては、まあ正解だろうとイルフは判断した。
イルフはアルが名乗った時の言葉全部が名前だと思ってます。だから「長い」と感じたわけです。
※5/9
話の流れは変わりませんが、アルの説明などいくつか加筆しました。
文章のおかしな所を修正しました。