降魔ガ時に出会う
今度ははっきりと、ディテールまで観察できるくらい近くだった。
近くのコンビニからの帰り道、曲がり角を曲がった先にアレはいた。
躰は艶のない黒色で、人のように手足があるが、極端に細く、両手は垂れ下がったまま、脚を引きずって進んでいる。ゆっくりと此方へ歩いてくる。距離にして十メートル。
このぐらいの時間はあちらとこちらが近くなると、小さい頃近所のお寺の住職に聞いたような気もする。
近くで見た感じ、二メートルどころではなく、ほぼ三メートルあるように感じた。
ただじっと俯いて通りすぎるのを待つ。
視界の端に真っ黒な脚が見えた。構造は人と似ているが化け物の脚。ごつごつしていてまるで岩肌のようだ。
離れていても聞こえる荒々しい息づかいが、僕の鼓動を急き立てる。
完全に視界から頭のない妖怪がいなくなったとき、パタリと気配が消えた。
もうそこには何もないという確信が持てるほど、やけに静かになった。
振り返るかどうか思案する前に、体は反射的に後ろを振り向いていた。
こちらを見ていた。
頭がなければ眼もない。
けれどもこちらを覗いているのだと分かった。
足がすくんで尻餅をつく。咳を切ったように冷や汗が零れる。立ち上がろうとしても、足が棒になってしまっていてただ、「あっあっ」と息だけが漏れる。
頭のない妖怪は脚を引きずりながら近づいてきて、躰を屈め、ちょうど頭があるはずのところを、俺の目と鼻の先に近づける。
息躰は艶のない黒色で、人のように手足があるが、極端に細く、両手は垂れ下がったまま、脚を引きずって進んでいる。
頭が無くても息づかいが聞こえる。吐く息は冷たく、生きている物の臭いではない。生気を吸い、地獄からの空気を漏らす、そんな風に感じる。
どうにもしようがなかった。ピクリとも指を動かせば、その不気味な長い腕で絞め殺されそうな不安や、どこに逃げてもいずれは追い詰められるという恐怖を、無理矢理にでも押し付けられるほど感じた。
だんだんと視界が灰色に滲んでいって、微かに夕焼けがのこった西の空だけが見えると、自分が仰向けに倒れたことに気づく。
意識が遠退くなか、カラスが鳴く声が聞こえた。
「カラスはどうして鳴くのか知ってる?」
どこからか声がする。
その問いかけを最後に意識は途絶えた。