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転生マグナム  作者: 真水登
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プロローグ

     プロローグ



 銃声を上回る数と音の大きさ、それは悲痛な叫び声に他ならない。

 とある小さな町クリノスで、戦いとは呼べない一方的な殺戮(さつりく)が起きていた。

 刺々(とげとげ)しい格好のいかつい男達が剣や(おの)などを振るい、町の男達を容赦なく斬り捨てている。あるいは、襲いかかってくる者や逃げる者を拳銃で撃ち殺していた。町の男達も武器を取り、果敢に立ち向かってはいるのだが、虚しく血を流すだけだ。ほぼ同じ割合で銃を持っているのにもかかわらず、結果は同等とは言えない。

「逆らう者は殺せい。我らに刃向かう愚かな人間共に裁きを与えるのだ!」

 肉付きのいいリーダー格の男が部下達に怒号を上げる。そして、自分を殺さんとする者に拳銃デザートイーグルを撃つ。マグナム弾を喰らった町の男は、胸に風穴を開け、血と肉をまき散らしながら吹き飛んでいく。

 町の男達にとっては、勝算があって臨んだ戦いだと思っていたのだろう。ただ、予想外のことが起きて、総崩れといった有様になっている。

 町にいる数少ない銃の射手は、敵に向かって銃弾を放ち、決まって驚いた風にこう言うのだ。

「な、何でだよ……何で弾が当たっても死なねえんだ!?」

 そして、わけもわからずにその言葉を最後に殺されてしまう。

 町の者は、屈強な男達のことを知っている。何者なのかも、その比類なき強さも。しかし、誰が考えるだろう――銃を撃っても撃っても死なない人間など。

 ただでさえ数が少ない銃が、勝利への希望とも言える銃弾が、あまり効果を発揮しないという。その現実は、戦う者の戦意を根こそぎ奪うには十分だった。

 一人を除いて。

(おく)するんじゃないわよ! よく狙って撃ちなさい!」

 凛とした力強い女性の声が戦場に響く。その声の持ち主は、町で唯一戦いに参加している女性で、幸いにも彼女はまだ生きていた。

 乱雑にまとめた青い髪のツインテールをたなびかせて、状況を(うかが)う。

 ウィンチェスターライフルを手に、狙いを定めて敵の頭を確実に撃ち抜いている。

 サファイアのように輝く青い目は、未だ光を失っていない。どんな状況でも諦めない、意志の強さを物語っている。

「あたし達が今までこいつらにどれだけ苦しめられてきたか、忘れたわけじゃないでしょう。これは、理不尽な略奪のような重税から解放されるための戦い。さあ、みんな死力を尽くして戦うのよ!」

 味方の士気を上げるために、彼女は勇ましく言葉を紡ぐ。しかし、誰もその鼓舞に応えようとしない。そこで彼女は気付いた。いつの間にか阿鼻叫喚が収まっていて、不気味なほどの静けさが、自分の周りを囲んでいることに。

「お嬢ちゃん。もうお嬢ちゃん以外は死力を尽くして、死んじまったぜ」

「うそっ!?」

 リーダー格の男の言葉に、彼女はぐるりと辺りを見渡す。そこには――いたるところに死が転がっていた。右を見ても左を見ても前を見ても後ろを見ても、血に染まる死体しか見えない。さっきまで共に戦ってきた仲間が、ほんの少し前まで話をしていた者達が、今は変わり果てた姿になっている。

 彼女以外で生きているのは、敵である大柄な男達だけだ。その男達は今、彼女を品定めするような目で見ていて、その視線に彼女は生理的な嫌悪を覚える。

「お前達は神郷(じんごう)様に従わない()(らち)(やから)……いわば国賊だ。体をバラバラにして見世物にされてもおかしくない。ただ、お嬢ちゃんはどうだろう。美しい顔といい、豊満な肉体といい、申し分ない。どうだ、俺の女にならないか? そうすれば命は助けてやるぞ」

 ぶっふふふふ、と、だらしない体を震わせて笑うリーダー格の男。舌舐めずりする男を青い目で鋭く(にら)みつけ、彼女は言う。

「ふざけるんじゃないわよ! 誰があんたみたいなブタの女になるか!」

「だ、誰がブタだって!?」

「あんたの他に誰がいるってのよ。あんたの指名手配書に書かれている名前がどんなのか知ってる? 鋼鉄の豚(アイゼンシュヴァイン)よ」

「ぶふふ、それがどうした? そんなもの、俺達に勝てない保安官共が勝手に付けた名前だ。指名手配されようがブタと言われようが、何にも気にならないね」

「とにかく、あんたの女になるくらいだったら野犬にレイプされて野垂れ死んだ方がマシよ! さあ、あたしを殺して他の女のケツでも追っかけてな、ブタ!」

 彼女は啖呵を切ると同時に、ウィンチェスターライフルを男に向けて撃つ。放たれた銃弾は、正確に人体の中心部である心臓へ命中する。

 が、直後に金属音が響いた。

 撃たれた男は微動だにせず、何事もなかったかのように笑みを浮かべる。撃った彼女は驚きを隠せないようで、青ざめた顔で男を見ていた。

(うそっ……確かに当たった。何で生きているの? こんなの、信じられない!)

 彼女はグリップ部にあるレバーを上下動させて(はい)(きょう)し、次弾を装填する。そして、同じく心臓を狙って撃つ。しかし、金属音が響くだけで男に銃弾は全く通じていない。

「なっ、何で!? どういうこと! 何で死なないのよ!」

 銃で殺せない相手に、彼女は動揺する。

 町の男の誰かが言っていた言葉を、彼女は履き違えていたのだ。ごつごつとした装備に当たったとか、急所を外しているとか、そんなことだろうと彼女は思っていた。まさか、本当にそのままだなんて、誰が思うだろう。

「ぶっふふふふふ。お前達は知るまい。俺達は、体の半分が金属でできている機鋼化(ハイブリッド)なんだよ。そんな豆鉄砲で心臓の装甲は貫けん。貫けて人工皮膚だけだ」

「――ッ!」

 男が指をさしたところを見ると、彼女が撃った場所の皮膚がめくれていて、(にび)色の金属が露出していた。銃弾が当たった部分は、彼女からは凹んでいるようには見えない。測ってみなければわからないが、それでも、そんなのは誤差とも言える凹みだ。

 そして、彼女の心は凹むどころか砕け散る。

「ささやかな希望も無くなり絶望したか、お嬢ちゃん? もう心変わりしても遅いぞ。俺を侮辱する言葉を散々吐いてきたんだからな。辱めて犯して後悔させて死なせてやる」

 死に対する恐怖よりも、男に対する嫌悪感で彼女は体を震わせた。膝が自重を支え切れず、地面に座り込む。両手は銃を捨てて、肩を抱いている。

「い、嫌だ。し、死にたくない、よ」

 彼女が怯えるように声を漏らし、男がゆっくりと近付こうとしたその時、

「おい、そこのデブタ」

 彼女の背後から、若い男の声が聞こえた。町の中心部、広い荒野にいる全員が、声のした方へと注目する。

 そこには、全身黒ずくめの男がいた。それは、男が黒のロングコートを羽織っており、膝下から(のぞ)くジーンズも黒色だからそう感じるのだ。

「誰がデブタだ! そもそも、デブタとは何だ、デブタとは! いきなり出てきておいて何を言うか。おい、お前ら、あいつを撃ち殺せ!」

 リーダー格の男の指示で、銃を持っている部下達が一斉に若い男に向けて発砲する。

 ベレッタやグロックなど、様々な拳銃の弾が飛び交う。数人からの集中砲火に(さら)され、男はなす術もなく銃弾を次々に喰らっていった。撃たれる度に、男の体がびくびくと震える。やがて、全員が弾切れを起こしたところで、銃声が止んだ。

「ぶふふ。立ったまま死んだか、馬鹿めが」

 若い男は仁王立ちしたまま動かない。その光景を見た青髪ツインテールの彼女は、しかし、これが当然の結果だと納得していた。

(一人ではヒーローになんてなれやしない。カッコイイ登場を決めても……銃弾の一発で死んでしまう。現実はそんなもの。力のある者が勝つんだ)

 むしろ何でこんな時に若い男は出てきたのだ、と思っていた矢先、彼女は信じられない光景を目にする。

 死んだはずの男が、俯かせていた顔を上げてこっちを見たのだ。

 そして――笑っていた。男は口角を異常なまでに吊り上げて、歯茎を見せつけるように笑っている。

「なっ!? こいつ、生きている! 確かに銃弾が当たったはずだぞ。はっ! まさか、こいつは機鋼化(ハイブリッド)か!」

 リーダー格の男の動揺は、すぐに部下にまで伝わる。と同時に、若い男はロングコートの胸の辺りをがばっと開き、右手を内側に滑らせた。すると、コートの内側から手を取り出した時、男の手には拳銃が握られていた。

 それは拳銃というにはあまりにも大き過ぎた。銃身は長く、グリップは太くて分厚い。全てが規格外で、圧倒的な存在感を放っていた。

 若い男はその拳銃を右手一本で持ち、照準を合わせて引き金を引いた。

 激しい銃声。ベレッタやグロックなどの銃声が豆鉄砲に思えるほどの大きな銃声が響き渡る。

 放たれた銃弾は――装甲が施された胸板をいとも容易く貫いて風穴を開けた。

 スライドが反動によって後退し、薬莢は排出され、同時に撃鉄を起こして、元の位置に戻ることで次弾を装填する。弾き出された空の薬莢が、遅れて地面に落ちた。

 全てが、リーダー格の男が叫んでから起きた一瞬のことだ。

「馬鹿な! 胸の装甲が破られるなんて!」

 胸を穿たれた男が崩れ落ちる前に、若い男は既に他の者に狙いを定めて撃っていた。

 片手での射撃なのに、若い男は正確に敵の胸や頭を貫いていく。間断なく連射される銃弾に、次々と倒されていく男達。反撃しようにも、若い男は最初に銃を持った者達を撃ち殺しているので、撃ち返すことはできなかった。

「落ち着くんだ! 怯むんじゃない。相手はたったの一人だぞ!」

 リーダー格の男が部下達を一喝するが、部下達は今まで体験したことのない死の恐怖にパニックを起こしていた。なので、若い男の拳銃が弾切れになってリロードをしていても――落ち着きを取り戻せずにいる。そして、一瞬の静寂の後に再開された銃撃によって、残りの男達も一掃された。

 ここまでの殺戮劇も、わずか一分足らずの出来事だ。

「我が隊が全滅? そんな馬鹿な! その銃は一体……」

「.500 S&Wマグナムカスタムオートマチックハンドガン。名を『煌々たる地獄(ヘレグランツ)』。こいつを喰らって無事な機鋼化(ハイブリッド)なんていない」

「.500 S&Wマグナム……世界最強のマグナム拳銃弾! その弾を撃てるのはリボルバー式しか無いはず。オートマチック式なんて、人間が扱える代物ではない。やはり、お前は機鋼化(ハイブリッド)なのか!」

「いいや、違うね。俺は正真正銘の人間様だ」

 若い男は「そんなことより」と動揺しているリーダー格の男に声をかける。

「デブでブタのお前にデブタと言って何が悪い? こんなにも肥えた体しやがって……お前は指名手配中の鋼鉄の豚(アイゼンシュヴァイン)だろ?」

「ぐう……俺をブタ呼ばわりしやがって。俺が指名手配中だなんて関係ないだろ! そういうお前は何者なんだ!」

 若い男は拳銃『煌々たる地獄(ヘレグランツ)』をリーダー格の男に向けたままで言う。

「俺はただの賞金稼ぎだ。だから、賞金首のお前を殺しに来たんだよ。捕まえるのなんてかったるいからな。《Dead or alive no ask》。オーケイ?」

「何だと? お前、俺が神郷様直属の四天王が一人と知って言っているのか?」

「ああ、知っているさ。そして、お前が一番賞金額の少ない雑魚だってこともな」

「いいのか? 俺を殺せば、神郷様や他の四天王が黙っちゃいないぞ」

「なら手間が省ける。もともとこっちから殺しに行くつもりだからな」

 リーダー格の男は、若い男の物怖じしない態度に恐怖した。全身から脂汗が滲み出て、殺される、という思いが体を震わせている。

 しかし、男はそこで、自分のそばで座り込んでいる青髪ツインテールの彼女の存在に気付いた。そして、すぐさま行動に移す。

「おい、動くなよ、賞金稼ぎ」

 男は座っていた彼女を片手で抱き上げて、もう片方の手で、デザートイーグルを彼女のこめかみに突きつけた。

「あっく、ううう……離せ、ブタ野郎!」

「ぶふふ。動けばこの女の頭が吹き飛ぶぜ。俺のデザートイーグルでな」

 人質を取ってにやにやと笑みを浮かべる男。だが、若い男に動揺した様子は見られず、「ハッ!」と失笑していた。

「デザートイーグルだと? 笑わせるな! この俺にマグナムを語るか! 弱い弱い、弱過ぎる! そんな豆鉄砲で俺とまともに勝負ができるのか!」

 が、若い男から出た言葉は、今の状況を全く無視した言葉だった。それは、人質にされた彼女も人質を取った男も驚いている。

「お前、見てわからないのか! 女の命がどうなってもいいってのか?」

「彼女も覚悟の上だろう。だから、お前が引き金を引いた瞬間、お前も死ぬ。それにな、お前では彼女を絶対に殺すことができない。絶対にだ」

「何を根拠に言う?」

「……安全装置が外れていないぜ」

「その手には乗らねえぜ。俺の視線を外そうっていうんだろう? 無駄だ」

「彼女が安全装置をかけたことも気付かないのか? デブタが」

「何ッ!?」

 男はデザートイーグルに目をやるが、しかし、安全装置は外れた状態だった。そして、はっと気付く。が、その時には既に銃声が聞こえて、男の頭は粉々になっていた。

「嘘だよ、デブタが」

 『煌々たる地獄(ヘレグランツ)』による銃撃によって頭を吹き飛ばされた男は、そのまま天を仰ぐようにして倒れた。仰ぐ頭は消し飛んでいるが。

 すぐそばを銃弾が通過した彼女は、腰が抜けたのかその場にへたり込む。

 若い男はゆっくりとした足取りで彼女に近付いてくる。馬鹿でかい拳銃は既にコートの内側に仕舞っているようで、今は何も持っていない。

「女……名前を聞こう」

 白髪交じりの黒髪に、色合いが違う二つの黒目。口に葉巻をくわえている男が、彼女を見下ろしながら言う。

「……私はリオンよ。リオン・サンラムル」

 あまりの衝撃にぼうっとしているリオンは、言われるがままに名乗った。すると男は、「いい名前だ」と笑った。

「では、リオン。助けてやったんだ、礼の代わりにここへ台車を持ってきてくれ」

「へっ? 台車?」

 その急な要望にリオンは、整理されていない頭が更にぐしゃぐしゃになる。

「こいつの首だけを持って行こうと思ったんだがな……生憎吹き飛ばしちまった。体全部持っていかねえと賞金が出ねえんだ」

 男の言葉で、リオンはようやく得心がいった。この男は賞金首である鋼鉄の豚(アイゼンシュヴァイン)の体を運ぶために台車が必要なのだ。だからあたしに頼んだのだ、と。

「わ、わかったわ」

 立ち上がろうとして、しかしリオンは失敗した。すると、見かねた男が手を差し出した――全身の色と同じ、黒色の手を。

(これって手袋? いや、見た感じ金属のような……義手? それにしてもでかいわね)

 リオンはその手を取って立ち上がり、疑問に思いながらふらふらと歩く。そこで、一度振り返って男を見る。

「あ……あんたの名前は?」

 訊かれた男は「俺か?」と言ってにやりと笑う。


「ジョン=クラウド・マグナムだ」


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