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小品集

人を攫う竜巻

作者: 魚住すくも
掲載日:2016/06/13

 ママが死んだ時、一日中雨降っていた。

「さぁ、お家に帰るよミナ」

 喪服のおばあちゃんが声をかける。

 何も言わないわたしの手を取って、おばあちゃんは歩きだした。

 これからおばあちゃんと暮らすことになるのだ。おばあちゃんの家は遠いらしい。


 どこかの町で、竜巻が発生したと人伝いに聞いた。

 おばあちゃんは表情を固くして、早く帰らなくてはと呟いた。

 目指す家はまだ遠い。

 山の向こうに巨大な竜巻が渦巻いているのが見えた。禍々しいほどに大きい。

「おばあちゃん、あれ」

 わたしが指差すとおばあちゃんは顔を顰めて、

「あまり見るもんじゃない。攫われてしまうよ」と言った。

「さらわれるの?」

「あぁ、あたしの若い時に近所の叔父さんが攫われたんだ」

 そう言って、おばあちゃんは口を閉ざして、歩く速さを少し上げた。


 いつまでたっても家はまだ遠く、わたしはひたすら歩き続けた。

 ふくらはぎはパンパンで、足の裏は痛かったけれど、わたしは泣き言を言わなかった。


 視線の端に竜巻がちらついていたから。


 見るなと言われれば言われるほど、見てしまう。

 気にするなと言われれば言われるほど、気になってしまう。


「あ、」


 わたしは声をあげた。

 おばあちゃん、竜巻がこっちにくる。


 わたしの言葉に、おばあちゃんは舌うちをして、

「愚か者、竜巻に気を取られてしまったね」そう言うや否や、わたしの手を取り走りだした。


 すぐに息がきれた。喉をひゅーひゅーと鳴らしながら、身体に酸素を取り込もうと必死であえぐ。

「とりあえず、あそこに避難するよ!」

 おばあちゃんが叫んだ。目の前には煉瓦造りの建物があった。

 駅だ。


「さあ、早く中に入りな!」

 できるだけ奥の方へ! おばあちゃんはそう言ってわたしの身体を突き飛ばす。

 その時、すさまじい轟音と振動がわたしたちを襲った。


 ふりかえると、おばあちゃんが吹き飛ばされていくのが見えた。

「おばあちゃん!」

 叫び声さえかき消して、竜巻は全てをなぎ倒していく。


 遠くで悲鳴が聞こえる。

ある日に見た夢がモチーフです。


2016.6.16

ラストを修正しました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  夢のなかでの出来事を物語におこされたのですね。  臨場感があり、読んでいてとても面白かったです。  素敵な作品をありがとうございます。
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