高1・春
次の週、放送部の顔合わせがあった。
部長である知治一人が三年生、そして二年生が二人、残り六人が一年生の合計十人となった。だが男は知治と鉱山二人のみ。今後機材運びが仕事になるだろうと知治から言われ、項垂れた。
互いに自己紹介をしあった。
三年制の一年第一科である中田と江川。第二科の鉱山、宇佐美、梅田。そして六年制の井藤。
二年は三年制第一科文系コースの小西、六年制文系コースの須藤。
そして三年制第二科文系国公立コースの知治だ。
それが終わると放送部が放課後練習する発声練習の紙が配られた。練習自体は今度するということで、続いて昼休みの校内放送の日にち決めに移る。鉱山は知治と二人、火曜日の担当となった。
その後はちょっとした雑談がはじまった。黙って聞いてばかりいる鉱山を気遣ってか、二年の須藤が放送部に関する話題を持ち出した。
「みんなは大会出たいと思ってる? というか出たほうが楽しいと思うよ」
「どんな大会なんですか」
一年の誰かが尋ねると、知治が話の続きを受け取る。
「簡単に言うとアナウンス部門と朗読部門が個人でやるもの。ほかにもいろいろあるんだ。僕と二年の三人は、今年は個人の部門以外にラジオドラマに挑戦しようと決めてるんだ」
新放送部員の誰もが、どれに出るかを話し出す。鉱山が入る隙のないほどに、女子たちは群れている。
「鉱山くんは何か興味あるの」
二年の小西はお菓子を食べながら訊いてきた。きれいに切られたボブに、おっとりした目をしている。
「どっちでもいいかなと思ってます。小西先輩は去年どちらに出たんですか」
「うちはアナウンス部門出たよ。特に意味はないんだけどね。でも須藤ちゃんは文章を考えるのが好きだからアナウンス部門にしてるって聞いたよ」
何やら先輩の間でもやる気の差があるようだ。須藤は将来アナウンサーないし放送局での仕事に憧れを持っており、よって放送部に所属したのだとか。一方小西はというと、たんに音楽のかけられる放送部という認識で入ったと言う。
「もともと先輩から、部長が朗読上手って聞いてたからね。それなら後輩ができたとき、アナウンス部門を教えられるようにって、そっちにしたの」
鉱山は納得した。筑紫も言っていたことである。
「知治先輩」
「どうかした?」
「先輩の朗読、聞いてみたいです」
即座に知治は了承し、鞄に入っていた本の一部分の朗読をはじめた。ほかの放送部員の声も鳴りを潜め、彼の朗読に耳を傾けた。
朗読が何たるかをすべて把握してない鉱山だが、感心した。知治の声は風だった。心地よく聴こえて、やがてどこか遠い彼方に綿毛を乗せるような音をしている。
ストーリーは適当に選び抜いたと思われる。内容は、好きな相手に告白するか否かを迷う心情と、それに合わせて自転車を漕ぎつづける主人公の描写がされている場面だ。妙に暑い夕方の照り具合や、汗と涙の混じった新鮮な想いが足を動かす原動力となる。主人公の悩みと熱意と切なさが、静かに語られた。知治の実力を思い知る放送部員は、しだいに声を出すことさえ憚られた。
知治の独壇場が終えたあとも、鉱山含めた放送部員はまだ物語の中に立ちすくんだままだった。