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スイセイムシ  作者: 小角
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高1・春

 部活紹介での放送部は地味だった。

 講堂では一年生に見えないと承知しているであろうに、ポスターを掲げて話していた。唯一の特徴といえば、部活紹介の進行を務めているのが放送部員の一人だと言うこと程度である。

 髪を後ろに一つ束ねた、清潔感のある女だった。とはいえ鉱山の好みの顔ってわけでもなければ、心を突き動かされる司会進行でもない。はきはき話せる、それだけだった。

 部活紹介のあったその日の放課後から約二週間、部活体験期間となる。そして明日からは本格的に授業がスタートする。

 部活紹介で配られた冊子―多数の部活名と意気込みが綴られた―を改めて読んでいると、廊下で声をかけられた。中学時代の塾仲間である。


「どっか部活行くのか」

「悩んでる。そっちは?」

「漫画研究会には行くつもり。部誌が欲しいからな」


(こいつ……。まぁ塾が同じときもよく漫画について話してたな)

 呆れて何も言い返す気のない鉱山に友人は首を動かす。お前はどこに行くんだと再度尋ねているようだ。


「そうか。まぁ俺、今日は調理部行くことにする。お菓子食べながらまったりしましょうって冊子に書いてあるし」

「お前もおれと一緒かよ」

「うるせ。こっちは自分でお菓子作るぶん、ましだろうが」

「いいや。調理部なんて女子の集まり。それに比べてこっちは漫画キャラだぞ。部員の女子が可愛いかはわからないし、明らかそっちのほうがいかがわしい、けしからん!」

「そこまで言うならお前も来たらいいだろ」

「遠慮しておく。おれは明日行って女子にちやほやされるためにも、お前とはいかない」


 もうどうでもいいや、鉱山は首を横に振った。

 友人とは適当に別れて調理室へ赴いた。家庭科室では賑わっており、すでに調理部員が作ったと思われるお菓子が皿に美しく並べられていた。


「入部体験ですか」

「あ、はい」


 その後エプロン等を借りてクッキーを焼いた。

 なるほどお菓子作りは、料理とは違った面白みがありそうだ。と、普段作りもしない料理について考察する。

(クッキーはいろいろな型ができるのもそうだが、チョコチップやシンプルなバタークッキーといった彩りがあってきれいだ。作ったという達成感に加えて食べられるんだから調理部というのはお得な部活だなぁ)

 鉱山は一瞬、ここなら入っても楽しめそうだと心が揺れ動いた。が、友人の話していた調理部は可愛い子の集まりというのは幻想だった。

 しかし調理部に入るだけあって手際のいい人が多い。クッキーを焼いている間に片づけをするのは当たり前かもしれない。けれどそれを手際よくこなせるのは、やはり調理部こそだろう。

 考察を繰り返す鉱山だった。



 翌日入部体験したのは文芸部だ。文化祭には小冊子を作るらしく、鉱山は過去の作品をひたすら読んだ。短編で読みやすく、ちゃんとした落ちがあることに満足した。

 また、高校生向けの賞があって出したい人は出すと部員が話してくれた。彼にとって読書は趣味でも、書くことに興味はないので外れかなぁと思いつつ、とりあえず文芸部の部室を後にするのだった。

 料理部のように丸一日時間は潰せず、どこかもう一つまわれそうな時間ができてしまう。


「今から行くなら、どこだろう」


 階段を降りる。二階で大きな音が聞こえた。文芸部の部室からも薄らと聞こえていたが、どうやら文芸部の下の部室がその音の原因らしい。

 吹奏楽部が演奏会や入部体験に来た生徒が楽器を触ったりしているのが、聞こえてくる音で想像できた。彼は足早にその場を立ち去ろうとした。


「あれ。鉱山じゃないか」


 友人だった。


「おう。俺は帰るところだけど」

「そうか。……なぁ、付き合えよ」

「何に」

「今から行く入部体験、一緒に行こうぜ」


 友人の発言に呆れを為す。

(帰るところだって言っただろ。その耳は節穴か?)

睨みつけたあと、ため息を吐いた。鉱山は、この友人がなぜ自分より受験の成績が低かったのかをたった今理解した。問題文ちゃんと読まないやつなんだろうな、と。


「……じゃあ行くか」

「おい。俺の話を忘れたことにするなよ」


 ここまで拒む理由は単純明快、もう部活に入らないと決めたからだ。鉱山が興味の湧いた部活は全部見た。見て、入ろうと思った部活はない。何よりこの校舎に居続けるのは鉱山にとってまずいのである。


「――鉱山くん?」


 彼の予想はみごとに的中した。


「や、やぁ。筑紫さん」

「お久しぶりです。私は今から放送部に行くんですけど、よかったら一緒に行きませんか」


 鉱山はすぐさま首をぶるぶる振って、断りの態勢に入る。

 この学校の部室の配置は、文化部は文化部、運動部は運動部で一つの校舎にまとめられている。入部体験する際の移動は楽だけども、文化部校舎練に足を踏み込むということは、必然的に放送部の部室との距離も近くなる。そして勧誘してくる女――筑紫に出会う可能性は高い。だから帰宅部を決めた今の鉱山は、瞬足で帰らねばならなかったのだ。

 放送部は昼休みに校内放送をしなければならない。放送している人の名前を注意深く聞いていると、一週間で同じ名前を何度か聞いた。つまり週一以上放送部の校内放送をかけながら昼飯を食え、ということだ。

 飯は一人で食べたいという彼の願望には程遠い部活なのである。


「なんだ。お前、筑紫さんから誘われてたのか。なら一緒にいけないのも当然だ」

「知り合いか?」

「昨日調理部で顔を合わせました。しかし松林さん、私はあとから誘ったようなので構いませんよ」

「そっか。サンキューな」

「勝手に話を進めるな。俺は帰るって言ったんだよ……!」


 結局、両方から逃れることは無理らしい。

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