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事件4日後 PM1:45
静岡県下田市 白浜海水浴場
シーズンオフの海水浴場。青い空に紺碧の海。そこにいるのはあやめと大介の2人だけ。
彼女の手には花束。
「大介、観た?」
「ああ、昨夜スタートした“ペイン・シー”だろ?なかなかの出来じゃないかな。
最も、シナリオは倉田作じゃあないんだけど」
あやめは微笑し、続ける。
「ねえ、どうして人間は、あんなに美しいものを生み出せるのに、その手で簡単に人を傷つけられるんだろう?
絵画に建築、小説。心を動かす事の出来る素晴らしい手。でも、それは誰かを騙し、殺す事の出来る手と全く同じ」
「集団心理学とか脳科学とか言ってしまえば、簡単に済まされてしまうんだろうな。そういうのって。
日本じゃ毎年多くの学生が、いじめで命を絶ってる。死ぬまでいじめが分からなかったケースだって数えきれない。
だが、それを止めようとする仲間や教師もいることは、紛れもない事実だ。
素晴らしい手で、汚れた手を止める。そんな勇気が、人間には必要なんだ・・・人間じゃなくてもね」
あやめは穏やかな海に向けて、花束を放り投げた。
全ての事件の始まりであり、終わりでもある小林リョウのために。
沖へ流されていく花束を見送り、あやめは言った。
「行こう。潮風が、傷にしみる」
「そうだな」
2人は、海を背に車がある方へ砂浜を歩き始める。
pain seaに別れを告げて。




