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 「それが、どうして同級生殺害に?」

 「学校を卒業した俺は、伊豆から、いやこの日本から離れたくて、ビスタ大学に入学した。最も俺は、この大学に入るために、ガキの頃から親父に勉強させられた。生まれてこの方、遠足も学芸会も、修学旅行も経験したことはないし、皮肉にも生涯の大親友がこの倉田だ。

  俺はアメリカで医学を学びながら、倉田への復讐の方法を模索していた。

  その時、俺は考えたんだ。地元の警察もマスコミも倉田の見方だ。中央に知らせようとしても小林みたく抹殺されるのがオチだ。かといって、彼よりも強い権力的力を持つには時間がかかる。

  だったら、権力的でなく暴力的に解決した方がいいんじゃないか?それは、人類の歴史が証明している。話し合いによる平和を謳いながら、紛争地帯への空爆を指示する馬鹿な大統領だって、立派な見本」

 「そんなときに、君はオコナー教授と出会った」

 「彼は、立派な人だ。俺に賛同し、力になってくれた。

  魔術師と知った時には、アメリカンジョークだと思ったが、彼の力は素晴らしかったさ。俺は魔術師のイロハ、魔術師世界の事を教えてもらい、倉田の兵隊すら凌駕できる力を持つことができた。それが、ゴーレムという訳だ。

  俺は、教授の遺志を継いだ。そして日本に帰国し、手始めに土橋を殺害した。エアメールが一度だけ送られてきたから、住所の特定は簡単だったよ。

  ただ、計算外な事態が起きてしまった」

 「同時期にラセツの復讐が起きた事、そして、私達トクハンの捜査介入。

  ラセツとは、どこで知り合ったの?篠乃木里菜に送った仏具とミニカー、死装束はあなたの仕業でしょ?ラセツは死装束のエピソードは知らないと言っていたから」

 雨が止んできた。渡部は続ける。

 「大阪でゴーレムが岡田と間違えて人殺しをした日さ。ホテルから出てきたラセツに気付かれてな。後をつけると、奴は淀屋橋駅に消えていった。後をつけると新幹線に。新大阪駅を出る最終列車のなかで彼に話しかけたのが最初だった。彼もまた、倉田に復讐したがっていた。そこで手を組んで一緒に殺そうと持ちかけた。だが―――」

 「犬馬は断ったのだよ」

 不意にラセツが現れた。

 「仕事は1人でやる。誰かの手は借りたくない。第一、犬馬は倉田と、病室から出てきた篠乃木里菜しか標的にしていなかった」

 「だから、彼のダイイングメッセージを使わせてもらった訳だが」

 「不幸にも、それが引き金になって、私たちに捜査が命じられた」

 「トクハンという妖怪犯罪専門の部署が、日本警察内部に存在しているという噂は聞いていたが。

  その上、ラセツは予告文を送る、列車に乗り込む。要らんことを・・・」

 それを聞き、あやめは話を止めた。

 「その言い方じゃあ、列車もろども全員を葬るつもりみたいじゃ・・・」

 「当初はそうだった。当日は風邪だとか口実を作って休み、君達が対峙した爆弾入りのゴーレムで特急を爆破、脱線させ、伊豆の海に沈めるつもりだった」

 「んで列車爆破の容疑を、ラセツになすりつける」

 「そうだ大介。君たちが介入したおかげで、この計画は直前で頓挫した。国木田を殺し、ダイイングメッセージを置いたはいいが、そこでカオス・プリンセスの登場ときた。この倉田は調子よく、あやめとエリスを自分のモノにしたいとほざきやがる始末」

 「父親を殺したのも、か?」

 「あなた達に正体を暴かれそうになりましたからね。変わり身を使ったんですが、流石に無理がありました」

 するとエリスが言う。

 「ミスターラセツ。彼の目論みを、あなたは知っていたんですか?」

 「初めて聞いたよ。彼がイベント列車を狙う可能性は大いにあった。大勢が犠牲になるのは何としても避けたかった。後は、取り調べで話した通りだ」

 「話は分かるが、どうしてラセツだったんだ?

  彼は妖怪で、その存在は表立っては認知されていない。もし、殺人の罪をなすりつけるなら、人間を立てればいいのに、何故?」

 あやめの質問に、渡部は笑いながら答えた。

 「もう1つの目的のためです」

 「目的?」

 「私は、ある機関から任を受けましてね。ラセツ、あなたを私が所属する機関のメンバーに加えたい。

  あなたの剣裁きを、もっと役に立てられるチャンスです。どうですか?」

 3人はすべてを理解した。

 列車爆破と連続殺人の罪をラセツになすりつけ、それを使って脅そうとした。メンバーに加わらなければ、警察に引き渡す、と。

 だが

 「断る」

 ラセツは即答した。

 「犬馬の目的は、倉田への復讐のみ。それ以外に興味はない。

  それに、犬馬も老いた。老害は去るのみ、だ」 

 彼はため息をつき、首を横に振る。

 「そうですか・・・残念です。

  あ、機関からは要求を断った場合、あなたを始末するように任を受けています。無論、カオス・プリンセスの皆さんも」

 「最後に聞かせろ。小林殿の話は本当か?」

 「ええ。

  彼言ってましたよ。篠乃木里菜のやった事は全て水に流す、とね」

 これで、全てがつながった。

 「何故、そのことを伝えなかった!!」

 「もしかして、それを聞いたら復讐を止めるつもりでした?」

 「当然だ!!」

 渡部は、彼を睨む。

 「ラセツ!あなたは共感できるはずだ。暴力に対抗できるのは暴力のみだ!この私が、倉田がそれを証明したのだから!」

 「違う!暴力に対抗する暴力が生み出すのは、終わらない悲しみと怒りの坩堝だ!」

 「ええ、彼の言う通りよ。暴力が暴力をねじ伏せたところで、新たな暴力の種が生まれる」

 「姉ケ崎さん。それは、ただの綺麗事に過ぎない。

  結果論を見ましょうよ?人間は本質を突き詰めれば、サルと変わらない。そんなサルが、暴力以外の画期的な解決策を見いだせると思いますか?」

 「私は、人間を信じるわ。人間の“心”って言うのかな?そういうのをね。

  それに、あなたは人間じゃないわ」

 「どうして、そう言えるんです?」

 「自分の利益のために、自分の父親を殺せるなんて、普通はできないわ」

 「家族ですか?そんな不確定要素を・・・もういい、こう話していること自体、無駄なことだ」

 大介は叫ぶ。

 「諦めろ、渡部!お前をゴーレムによる連続殺人の容疑で逮捕する」

 「俺はもう渡部ではない!」 

 「?」

 「渡部琉輔の名前は捨てた。俺はミスカトニック大学オコナー図書館長後継者、リュウスケだ!」

 渡部―リュウスケはそう叫ぶと、倉田を突き飛ばし、足元に弾丸を発射する。

 すぐに彼をこちらに引っ張り、銃を構える大介。

 その間にミニチュアに隠していたアダッシュケースを拾うと、中身を取り出す。

 分厚い大きな本。ページは黄ばみ貫録を醸す。

 「エリス、あれがせーフェル・イツェーラーか?」

 彼は本を閉じるベルトを引き抜くと、小さな声で素早く呪文を唱える。

 「イア イア バロ ルトゥム

  プルヴィア ブルグトム

  ブグトラクル フラール

  アイ アイ バロ ルトゥム!」

 足元のコンクリートやジオラマを突き破り、ゴーレムが次々に姿を現した。

 「そうみたい。でも、外見は・・・まさか!」

 本の外見は、人間の皮膚でできていた。見るからにおどろおどろしい雰囲気を醸し出す。

 「ルルイエ・・・異本?

  まさか、魔術の力でこの2つを融合したとでも言うの?」

 「だから、出来たのよ。ガバラの基本に反したゴーレムの精製が!

  ルルイエ異本は太平洋に沈んだ古代遺跡から発掘されたといわれる魔導書。異世界の者を召喚することができると言われているが、志も知識も無いものが読めば、その体は一瞬にして灰になるという。

  分かっているの?ルルイエ異本を持った魔術師は、操ることができても、まともな死に方をしなかったわ。ましてやせーフェル・イツェーラーと融合させた書ともなれば」 

 「妖怪崩れの貴様らに心配される筋合いはないわ。この融合魔導書“偶像召喚イードル・ヴィゾーフがあれば、何も怖くは無い。

  行け!我が僕たちよ!ここにいる全ての命をその手で奪い去れ!」

 無数のゴーレムが、行動を開始した。

 怪力でフェンスを壊し、巨大な模型を踏みつぶし、こちらに向かってくる。

 「どうするね?あやめの話が本当なら、こいつらは並みのゴーレムじゃない」 

 「あら、怖気づいた?」

 「んな訳ねーだろ」

 微笑すると、あやめは赤袴に挟んだワルサーP99を取り出した

 「怖いのは、私の方かもね」

 彼女は天を仰いだ。

 「綺麗な夕焼け。もう、雨は望めない。頼りになるのは、この聖弾だけ」

 そんなエリスは、武器換装のための葉を取り出し、剣に変えた。

 「でも、無いよりましよ。どうする?」

 「渡部は、大学時代にあの本を作り出した。つまり、今目の前にいるゴーレムと、伊豆に出現したゴーレムは大差ないって事」

 「つまり、通常運転でいいと?」

 「多分ね。ラセツ、協力してくれますか?」

 ラセツは夜刀を鞘から抜いた。

 「いいでしょう。小林殿の真実を知った今、復讐なんぞ糞くらえですわ」

 「よし、行くわよ!」

 あやめの言葉を合図に、まず大介とあやめが、一斉射撃を始める。

 以前は大介の銃では一発で吹き飛んでいたが、倒すのに3発もかかる。

 「前のと同じだと思うな。こいつは強度を上げている」

 リュウスケはゴーレム軍団の奥で、彼らを笑う。

 「銃がだめなら飛び道具よ!やあああっ!」

 エリスは2人の上を飛び越えると、ゴーレムの前に着地。すかさず3体一気に、その頭を切り裂いた。

 それを火ぶたに、彼らの攻撃が始まる。

 次々と倒れるゴーレム。だが、それと並行して新たなゴーレムも生まれていく。

 「さて、親玉を召喚するか」

 戦場を見た彼は、再び本を開いた。

 「ゲーエン ゲーエン

  ダカオ エヴァ キャッセ!」

 山脈の向こうから唸り声が聞こえる。

 「何だ!?」

 突如、飛び越える物体。それはリュウスケが投げ飛ばした岡田。

 顔の筋肉が剥き出しの死体は、凄まじい形相で、彼らに迫る。手には、体を直撃した旅客機の模型。

 それを振りかざすと、一直線にあやめへ。

 他のゴーレムの相手をしていた彼女に、避ける隙はもうない。

 「あぶない!」

 剣を軸にエリスの回し蹴り、岡田は吹き飛んだ。飛行機の模型は手を離れ、傍のゴーレムに当たり大破。ゴーレムは無傷で進行する。

 「アヤ!」 

 「平気よ」

 彼女らは戦闘を再開させる。

 一方で、ラセツの夜刀は強力だ。一振りでゴーレムを瞬殺する。

 大介もマガジンを取り換え、次々と聖弾を撃ち込む。

 「ほう、その銃・・・貴様が人魚の血を持つ人間か」

 「え?」

 「イリジネアで、この事を知らない奴はいねえ。

  カオス・プリンセスに大介殿は、正に鬼に金棒。渡部殿を止めることは、そう難しく無いでしょう」

 「ああ。そう言われると、ほっとするよ」

 「ですが、注意して下せえ。その力は、正義にも悪にもなる。渡部殿の二の舞の可能性は、十分にあるんですからな」

 同じことを、ローマでも言われた。やはり、俺の力は・・・。

 そう思った矢先、大介に岡田が襲いかかる。

 エトワール凱旋門の模型を振りかざし、唸る亡骸。受け止めた彼の手に力が入るが、劣勢になっているのは確か。どんどん後ろへ押されていく。

 「うううううう」

 瞳孔の開いた目玉が、口から滴る体液が、顔の筋肉が切れる音が、嫌でも大介の耳に入ってくる。

 「大介!」

 「大介殿!」

 その時だった。

 「あああああっ!」

 「動くな!」

 「いやああああっ!」

 エリスの断末魔。

 振り返ると、ナイフを手にした倉田がいた。

 その腕の中にはエリス。左腕と右脚の太ももから血が出ていた。

 この期に及んで、倉田はアクションを起こした。最悪以外、適当な言葉が見つからなかった。

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