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PM12:56
熱海市 熱海サンビーチ
温泉街の人工海岸。そこの遊歩道で、あやめ達は護送車襲撃とラセツ逃亡を聞いた。
「で、ラセツは?」と大介はあやめに聞く
「本部が警戒しているわ。
ほら、難波事件の時、生駒山の異常磁場を知らせた警報システム。あれを使って」
「あれって、磁場が変化しないと作動しないんじゃ」
「こちらから操作すれば、妖気を警戒する役割もできるの。
現在、新丹那トンネルと足鷹山、柿田川湧水地の警報システムを探知状態にして捜索しているそうよ。
修善寺から手っ取り早く遠ざかるとなれば、伊豆箱根鉄道に乗って三島まで行くルートを走るはず」
「ラセツはクラタを殺しにかかることは確実よ。大切な人を殺されたのだから」
「兎に角、ラセツは親父たちに任せよう。こっちは、小林リョウ殺害の動機を探すんだ」
『OK!』
3人は歩いて、現場へ。
当時、熱海一美しいホテルがあった場所は、今は空き地となっている。かろうじて残っている土台が、そこに建物があった事を物語るだけ。
封鎖線を乗り越え、雑草生い茂る空き地に立った3人。
「ここで3年前に、40人以上の死傷者を出した火災があったのか」
「今は、それを感じさせない静けさね」
潮の匂いを感じ、手櫛で髪をかき分けるエリス。
「火事から3年。もう、何も残ってないわね」
「せめて、倉田達が関与した証拠があれば」
すると、背後から1人が近づく。
「あのー」
声の主は初老の男性。彼は言う。
「警察の方ですね?」
「どうして、私たちが警察官だと?」
あやめの質問に、彼は答えた。
「長年染みついた、勘ってやつです。
申し遅れました。私は草壁良純。去年まで駿河新聞の熱海支社でカメラマンをしていた者です」
草壁は首から下げた一眼レフを名刺代わりに、3人に見せた。
場所を寛一お宮像近くのベンチに移し、話を始める。
像の前では、団体が像と同じポーズをしたり、写真を撮ったりしていた。
草壁は、話を始める。
「今日は、ここに警察の人が来ると思って待っていたんです」
「待っていた?」
「ここ最近、倉田悠介と親しい人物が次々に殺され、伊豆では外部の警察官が、彼の権力を崩した。そしてウチの新聞が出した特ダネ。
恐らくその警官は、熱海大火災について調べるであろうと思いましてね。隠居先の湯河原から出てきたんです」
「新聞社のカメラマンと聞きましたが?」とエリス
「私はあの日、熱海海上花火の取材で、ここに立っていました」
『!?』
3人は興奮を抑え、話を聞く。
「あの日は蒸し暑い中、花火の写真を撮っていたんです。
フィナーレとなる「空中ナイアガラ」という巨大花火が打ちあがった直後でした。ホテル・グランヤシャから激しい爆発音がしたかと思うと、白い外壁が紅蓮の炎に焼かれた」
「まさか、その時の写真を」
「無我夢中で撮りました。あの時ほど、自分の仕事癖を後悔したことはありませんでした。
そして本社で写真を現像した時・・・」
草壁は懐から茶封筒を取り出し、あやめに手渡した。
「拝見します」
そこには3枚の写真。アングルはこの先の遊歩道からだ。
奥には燃え盛るホテル。その手前には―――。
「倉田に国木田?」
2人の人物が路肩に停車する車に乗り込もうかという瞬間。車はワインレッドの光岡ラ・セード。
その顔は笑っていた。
「炎で顔が鮮明に見える。間違いない」
「クラタに気付かれはしなかったんですか?」
エリスの問いに草壁は
「そう思って、自宅に封印したんです。あの時、現場にはカメラを向ける大勢の人がいましたから、新聞社に持ち込まない限り、この写真の存在は、ないも同然。
この時が来るまで、誰にも見せなかったんです」
その時、大介は倉田の後ろに停車する車に、目が移る。
「なあ、これデロリアンじゃないか?」
「何ですって!?」
確かに、最初の写真だけだが、ガルウィングを開いたデロリアンが停車している。そこにいたのは岡田と土橋。
「やはり、殺害された全員が、いえ岡田は分からないから省くとして、全員が熱海大火災にも関わっていたのね」
「でも、アヤをつけていたデロリアンが、この車と同じかは分からないでしょ?」
「いえ、ナンバーは記憶しているわ。後はこの写真を県警本部に持ち込めば・・・」
草壁は言う。
「倉田の悪事を暴く役に立ったでしょうか?」
「ええ、充分過ぎます」
「私は以前から、彼の所業には伊豆に住む人間として、腸が煮えくり返る思いでいました。ですが、新聞社は彼の力に屈して、記事を書いてもお上には送られませんでした」
「じゃあ、あの告発文は」
「私ではありません。ましてや私は、カメラマンですぞ。
ですが、あの記事に勇気づけられたのは確かです」
「分かりました。この写真は証拠物件として押収します。
この後万が一、生命の危険を感じる様であれば、最寄りの警察署に駆け込んでください。
私の名前、姉ケ崎あやめの名前を出せば、最優先で身柄を保護してくれるはずです」
「ありがとうございます。若いあなた達を信じましょう」
草壁は3人と別れると、駐車場に向かい車に乗って立ち去った。
その時、大介が言う。
「倉田が熱海大火災に関わっている事は分かったよ。だけどさ、それが小林殺害と何の関係があるんだ?それにこの写真じゃ、篠乃木里菜と渡部の関与は見られない」
すると、あやめは言った。
「だから、篠乃木里菜は殺されなかった」
『えっ?』
驚く2人。話を続ける。
「思い出して。彼女が意識不明になったキッカケは?」
「ゴーレムとレッドスパルタの交戦!」
「さっき、倉田と渡部がつながっているって言ったけど、伊豆高原の襲撃自体が、2人が手を組んで行ったとしたら?
伊豆長岡での会談で、彼女は3年前の有力な証拠を握っていると、倉田達に示した。これがバレると進行中のペインシープロジェクトは水の泡になるどころか、自身の運命すら危うい。
そこで倉田は渡部に、篠乃木里菜殺害を持ちかけた。チャンスは、自分たちが彼女と接触するイベント列車。でも、そこには1つ問題があった。
もし列車で襲撃を行えば、最悪自分たちも命を落としかねない。だから、陸路による避難ルート上での襲撃というシナリオを作った。
それは恐らく、こんな感じよ。
渡部は富戸駅でゴーレムを用いて列車を襲撃して時間稼ぎをする。その間に倉田は兵隊を伊豆高原駅へ向かわせ引き込み線を破壊。伊豆急行の車両基地がある、あの駅に緊急停車することは容易に想像できるからね。かといって、そのまま終着駅の伊豆急下田まで運転することは危険。目論見通り列車は、伊豆熱川駅への緊急停車を余儀なくされる。
伊豆熱川駅以降をレッドスパルタに制圧させ、他の部隊も下田へ向けて南下させることで、警察に富戸港からの海上ルート以外の方法を遮断させた。その上で、あらかじめ用意していたゴーレム達と爆薬で私達を篠乃木里菜から遠ざけ、サナトリウム建設現場に近い、あの場所で襲撃を敢行した」
「それは分かるが、彼女を乗せたパトカーを襲ったのはゴーレムじゃなく、赤のクライスラー 300だ。何故だ?」
「渡部は篠乃木里菜殺害には乗り気じゃなかった。この2人は、倉田と縁を切りたがっていたから。でも手を組んでいる以上、彼女を攻撃しなけれないけない。そこでゴーレムを用意する際に、人形に攻撃意思を持たせないように命令したと考えられるわ。あくまで、倉田の兵隊が勝手に暴れ、彼女の乗った車と事故を起こすようにさせて」
「現にそうなったしな」
「でも、倉田にとっては誤算、渡部にとっては幸運な事態が起きた」
エリスが言う。
「リナが死ななかった。ICUで一命を取り留めた事」
「そう。渡部に彼女への攻撃意思がなかったとすると、ゴーレムが病院に現れなかったのも納得できる。一方の倉田も病院を攻撃すれば、いくら手中にある所轄署だろうと飛んでくるから下手には手出しできない。そして現在に至る」
「すると、倉田は渡部を利用している事になるな」
「いえ、その逆も」
「逆?」
「渡部が倉田を利用した。
いくら殺したくなくても、踊子高校のエリート卒業生である彼女だけ襲撃されないなんて不自然に思われる。でも、殺したくない。脅しのためにプロダクションに送った仏具とミニカーも、何の意味も無く、イベントは敢行。そこへ倉田が殺害計画を持ちかけたことで、これを利用しようと考えた」
「もしそうだとしたら、ワタナベはすごく頭の切れるヤツってことになるわ。
でも、分からないのは、大阪に荷物を送ったのがワタナベで、それ以前の2件の犯行でダイイングメッセージを残したのがラセツ。この2人はつながっているのか否か。伊豆長岡でのクニキダ殺害でも、ゴーレムが殺し、ダイイングメッセージが置かれていた」
「それを知るには、逃亡中の2人をひっ捕らえてからの方が早いわ。兎に角、これから静岡県警本部へ向かいましょう」
3人はZ33に乗り込むと、熱海を後に。サイレンを鳴らして熱海街道を函南へ、そこから東駿河湾環状道路を走行し、東名沼津インターへと向かうのだった。




