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「次に、仏具の線から何か?」
次に寺崎が立ち上がる。
「現場に置かれていた仏具から、指紋は出ませんでした。
香炉と鈴、線香は大量生産されているもので、流通ルートからの特定は難しいですね。
で、皆さんが興味あるカルト的なメッセージの件ですが、それも見当たりませんね」
「さすが寺の息子。
仕事が早い」と神間
「関係なかっ!」
「はいはい、次にミニカーの線」
宮地が立ち上がる。
「ミニカーですが、フランスのバジョレック社製のダイキャストミニカーで・・・」
「それって、お菓子売り場で売ってる?」
「ああ、ラムネ菓子が付いている」
「そうよ、あやめちゃん、エリスちゃん。
ミニカーの制作会社からも、トラックに描かれている大手運送会社もこれと言って手掛かりにはなりませんね。
流通ルートも膨大。
付着していた血痕は今、沙奈江さんのところで鑑定してもらっていますが」
すると隼の顔が険しくなる。
「それなんだが、さっき鑑定結果が出た。
指紋も出たんだが・・・」
「どうしたんです?」と横山。
「・・・死人の指紋が出たんだよ」
『はい!?』
全員が驚いた。
当然だが。
スクリーンに顔写真が出た。
「小林リョウ。
3年前に発生したバス転落事故の被害者だ」
「確かこれも伊豆でしたよね?」と峰野。
「ああ、海岸沿いの道路を走っていた路線バスが、ハンドルを切り損ねて海に転落し、運転手と乗客8人全員が死亡した事故だ」
「どうして、死んだ人間の指紋が。
まさか、血も!?」
「母さんもそう言ってた。
血液型はA型。
被害者の血液型とも合致する」
「怖いわね」
「それだけじゃないよ、エリス君。
実は、これと同じような事件が起きていたことがわかったんだ。
場所は広島県広島市。
被害者は広島・平和大学に通う大学生、土橋功」
「一流の国立大学じゃない!
犯行があったのは?」とあやめが聞く。
「8日前の午後10時前後。
第一発見者は、彼の恋人だ」
「8日前というと、難波事件の直後ね」
「学生寮で、首を絞められた状態で発見され、彼の自転車のバスケットには香炉と鈴が置かれていたそうだ。
目撃者は、残念ながら。
ミニカーが発見されてなかったから、広島県警に再捜査をさせたところ、2つの事実が分かったんだ。
1つは、彼の部屋から血はついていなかったがミニカーが発見された。
百円ショップに出回っている、安物のダンプカーのミニカーだ。
証言によると、被害者は車に興味がなかったそうだから、十中八九、犯人が置いて行ったものだろう。
残念ながら指紋は採取できなかったとのことだ」
「トラック自体に、深い意味はないのか?」
「それと、もう1つは、今回殺害された大学生と、事故で死んだ小林、死を免れた社長子息が同じ高校の出身ということだ」
「つまり、彼も伊豆の?」
深津が聞く。
「県立の踊子高校。
君なら知っているだろ?」
だが以外にも、反応が大きかったのは宮地だった。
「県立踊子高校!?」
「どうかしたか?」
「それって、篠乃木里菜の出身校じゃない!」
全員が「?」
「あの・・・どちらさま?」
「知らないの、深津君?
絶賛ブレイク中の、売れっ子新人声優よ。
今は確か・・・深夜アニメ「新世紀ギルティー大戦」の」
「ああ、主人公の妹役の声優か。
今度・・・おい、待てよ!」
「どうした、大介?」
「親父、彼女も伊豆に大いに関係があるぜ!」
「それは、出身校―――」
大介は父の言葉を遮る。
「そうじゃない!
彼女は今度、伊豆が舞台のアニメに出演するんだ。
このアニメは、伊豆の観光業界が後押しをしていて、新しいレジャー施設の宣伝としても使われる予定なんだ」
『宣伝?アニメで?』
岩崎とエリスの質問に答えたのは高垣だった。
「ご当地アニメによる“聖地巡礼”。
つまり、アニメに登場した舞台をファンが自分の足で訪れる行為の事で、昨今、この聖地巡礼を狙った観光客増加キャンペーンが各地で行われているんです。
今はパソコンの普及で、舞台の特定は容易になってますし、巡礼による経済効果は無視できないレベルになってます。
今回のようにアニメに地元自治体や企業が協力することもしばしば。
今はアニメが“攻める”時代なんです」
「ほおー。
巨人の星とか天才バカボン世代の儂にはどうも・・・分からん」
「日本人はアニメに対しても信心深いということなのでしょうね」
「親父。
もし、犯人の狙いがこの高校関係者、ないしは伊豆に建設予定のレジャー施設を狙った犯行だったら、つぎに彼女が狙われる可能性は十分にある!」
「分かった。
ともかく、その篠乃木里菜が何か知っている可能性は高い。
彼女に合って話を聞こう。
大介、あやめ。
こういうことは、お前たちに任せる」
『了解』
すると宮地が言う。
「篠乃木さんは、ひばりプロダクション大阪支社の所属よ。
支社ビルは、新大阪駅の近くのハズ」
「なんで、そんなに知ってるんだ?」
横から深津が口を挟む。
「メイコはアニメオタクなんだ。
コスプレのファンコミュニティーに入っているし」
「アニメのタイトルだけで、それに出ている声優の名前、全員言えるわよ」
「わお・・・」
「とにかく、彼女から話を聞きましょう。
残りのみんなは、そのまま捜査を続行。
パパは、静岡県警との合同捜査になってもいいように準備を。
この事件は伊豆に何かがある。そういう気がするの。
エリスは私と来て」
「よし、会議はここまでだ。
解散!」
隼の言葉で、全員が席を立ち、それぞれの仕事に戻る。
大介、あやめ、エリスの3人は地下へ向かい、Z33に乗車。
地上に出て、大阪方面へ車を走らせる。
多数の有名声優が所属する大手事務所、ひばりプロの大阪支社は宮地の言うとおり、新大阪駅近くの高層ビルに入っていた。
問い合わせると、彼女は先輩声優としての講義と自身のレッスンのため「雲雀塾」にいるとのこと。
ひばりプロが運営する声優養成学校「雲雀塾」
その大阪校が、市営地下鉄御堂筋線の江坂駅近くにある。
大介らはそこへ向かった。




