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 東京の堀井宅に届いた篠乃木里菜の手紙。

 あやめは、それをFAXで送ってもらった。

 「内容は・・・これを見ると中間って感じがするが」

 「もしかして、ラセツが言っていた、ミスターコバヤシの遺書」

 「そう考えた方が自然ね。すると、残りは・・・」

 熱海署で吟味していた3人に、トクハン本部から峰野刑事が連絡してきた。

 雲雀塾大阪校宛てに、篠乃木里菜から手紙が来たと、着物講師の新垣成美から連絡を受けたという。

 送られてきた手紙は先頭部分。

 この段階で読み解くと、踊子高校で倉田達が行ってきた、おぞまし所業の数々が綴られていた。

 「小林は、自分が殺されると感じていたのね。だから、告発文を」

 「だったら、3つある遺書の残り1つに、ミスターコバヤシを殺した動機が記されている。

  でも、一体どこに?それに、どうして、リナが?」

 大介は、エリスの質問に答える。

 「もしかしたら、小林は死ぬ間際に、遺書を篠乃木里菜に託したのか!?」

 「そんな・・・自分をいじめた加害者なのに?」

 「都合がよすぎるのかもしれないが、彼女は嫌々、小林へのいじめに加担されていた。

  葬式ごっこで、死装束を着せた後その場を去ったのも―――」

 「良心の呵責に耐えられなかったから。

  熱川駅で、彼女が言っていた“私を許したハズ”って言葉も、もしかして」

 大介は頷き、言う。

 「そうだよ、あやめ」

 「でも、どうして今更・・・篠乃木里菜は“ペインシープロジェクト”を潰す気だった!?」

 「小林が殺害された直後に遺書を公開すれば、全てがもみ消される。それより、自分が声優として有名になり、その力とコネに倉田が食らいつくのを待った。そして、伊豆観光のてこ入れを目的とした“ペインシープロジェクト”が始動し、目論見通りにタイアップアニメの主役に抜擢された」

 「そして、頃合いを見計らって、全てを暴露する気だったのね。

  伊豆から離れた東京や大阪なら、クラタの兵隊“レッドスパルタ”は手出しできないし、証人保護を警察に申請すれば、身の安全は保障される」

 「万が一、小林の様に消される可能性を視野に入れて、遺書をプロダクションと、養成所時代から顔見知りだった堀井さんに託した。それなら、辻褄が合うわ」

 小林リョウが篠乃木里菜へ、そこから堀井初、姉ケ崎あやめへと、バトンの様に託した希望が、見え始めた。

 あやめはケータイを出すと、堀井に電話した。

 手紙について、他に何か言っていなかったかを聞くために。

 ―――実は、イベント列車の日なんですが、待合室で里菜が私に手紙を送ったと言ったんです。

  私の身に何かあれば、姉ケ崎あやめに送ってくれと。

 「私に、ですか?」

 ―――ええ。

  手紙は、全部で3つ。1つは私に、1つは大阪の雲雀塾に。

 「それで、最後の1つは?」

 ―――それなんですけどね、聞くと、彼女はこう言ったんです。

  “最後の手紙は、沼津に埋めた。そこは、飛行機が永遠に飛び続ける場所”

 「飛行機が永遠に飛び続ける?」

 ―――私には、分かりません。

 そんな中、大介のスマホが鳴った。見慣れない番号。

 「もしもし?」

 ―――市川だ。

 「市川警部!?」

 ―――隼警部につながらなくてな。

  伊豆長岡で国木田選手殺害事件の証拠隠滅を図った捜査員、覚えているか?

  ついさっき、懲罰委員会で、倉田悠介の傀儡となっている所轄署署長の指示で証拠隠滅を行ったと、2人が証言したよ。

 「本当ですか?」

 ―――それだけじゃない。バス転落事故の一件も、倉田が指示を出して、事故として早期に片付けさせていたことも分かった。

  県警本部は、該当する署長を拘束するように指示を出した。

  俺はこれから、三島の湯煙国際観光本社に、家宅捜査に入る。そう隼警部に伝えてくれ。

 「了解しました!」

 大介は通話を終えると、隼のケータイに。

 やはり、繋がらない。

 「何事も無ければいいが・・・」


 一方、隼たちの車列は県道18号を走行していた。

 途中で現れる分かれ道。

 ダミーの車列はバイパスを直進。本命はそのまま本線へと折れた。

 18号本線はここから、修善寺温泉を突っ切る。

 修善寺温泉は弘法大師によって開かれた、伊豆最古の温泉街だ。病気の父親を行水させる息子の姿を見て、仏具の独鈷で川底の岩を砕き湧出させたという言い伝えが残っており、現在でも、その場所は観賞用温泉「独鈷の湯」として保存され、観光名所となっている。

 中心部にはその他、桂川に架かる赤い欄干の橋や、竹林といった情緒あふれる風景が広がっている。

 車1台がギリギリ通れるかというほど狭い国道、通称「墨宮の小径」を走る車列。

 「大丈夫でしょうか?」

 ―――心配ない。ここいらは隠れるような場所は全くないからな。

 先頭を走るパトカーから、膳場刑事が無線で宮地に言う。

 車は旅館の並ぶ区間を抜け、開けた場所へ出た。

 左手に修善寺、右手に赤い欄干が印象的な桂川が流れている。

 何事も無く、先頭車が修善寺前を通過。再び狭い小径に入ろうとした。

 「!!」

 宮地は川のせせらぎに混じった音を、ヤマネコ譲りの耳で捉えた。

 「小豆を研ぐ音?」

 「何だって!?」

 宮地は無線を引っ張った。

 「膳場刑事!サイレンを鳴らして、スピードを上げて!」

 ―――え?

 瞬間、右側に架かる橋から出てきた国産乗用車が、対向車線を逆走し、道を塞ぐように停車した。

 すかさず停車する覆面車。すると、乗用車の影から何かが飛んでくる。

 パラ、パラ、パラ・・・。

 「ん?小豆?」

 膳場刑事がそれを認識したと同時に、まるで爆竹の如く大音量で弾ける。

 驚く刑事たち。後続のスパシオ、覆面車も停止。

 更に間髪入れず、修善寺前の道をマイクロバスが猛スピードで突っ込んできた。

 「逃げろ!!」

 乗っていた刑事たちが車外へ。

 バスは門前に架かる橋を渡ると、停車する覆面車の横腹に躊躇なく突入!石階段に乗り上げると、ようやく停止した。

 銃を構えながら、宮地と隼が車外へ。

 すると、バスから1人の青年が出てきた。以前、あやめ達が伊豆三津シーパラダイスで話を聞いた、踊子高校の卒業生、本田ケイゴだった。

 スパシオの方を見ると、ケイゴは叫びながら、手にしていた鉄パイプを振り上げる。

 「倉田ぁーーーーっ!」

 直後響く銃声。隼が空へ向けて威嚇射撃。

 「動くな!」

 彼の足が止まった。だが次の瞬間、修善寺に植えられた樹木が、風も無いのにざわざわと揺れ出したのだ。

 それを見て、宮地は銃を下げた。

 「そう、あなたが木霊だったの?」

 「そういうお前はヤマネコか?

  同じ妖怪としての願いだ。そこをどいてくれ。俺は倉田に人生を滅茶苦茶にされたんだ!」

 そう言って、Tシャツを脱ぐ。腹に縦一文字の火傷跡。

 「根性焼き・・・ひどい」

 「小林君が盾になったからこそ、これで済んだんだ。今でも死ぬほどの痛みが体を襲う。

  だから、俺をこんな体にした、小林を殺した倉田が憎くてたまらない!

  後生だ!俺にヤツを殺させてくれ!」

 宮地は一瞬目をそらした。だが

 「それは、出来ないわ」

 「なんだと?」 

 「殺害を許せば、あなたはもっと傷だらけになる。

  人間を殺した良心の呵責。そこからくる底なしの傷・・・。

  彼を裁くのは人間でも妖怪でもない!そんな権利は、我々には無いわ!」

 「黙れ、良心の呵責など―――」

 「それに、この車に倉田は乗っていない」

 それを聞いて、木霊は狼狽した。

 鉄パイプを石畳に落とし、膝から崩れ落ちた彼に、宮地は妖怪用手錠をかけた。

 それと同じく、乗用車の窓ガラスが割られ、中から女性が引きずり出された。

 木霊と同じく、あやめ達に倉田のいじめを告発した富樫レイ。

 「どうして、あなた達が?」と宮地

 「教えられたんだ。倉田が下田で逮捕されて、今日護送されるって。

  それで護送車を修善寺前で封じ込めて、彼を殺そうとレイと話して・・・」

 2人への情報提供。そして覆面車へ投げられた小豆。

 嫌な予感がしてきた。

 「その情報、誰から?」

 その時!

 再び爆音。

 「爆発だ!」

 スパシオの車体から煙が出てきた。たまらず、神間と寺崎が車外へ。

 「大丈夫か?」

 隼が走り寄る。

 「ねえ、ラセツは?」

 宮地が気付いた時、煙に包まれたスパシオからアラームが。妖怪用手錠が破壊されたことを知らせる警報音だった。

 「しまった!」

 ラセツは妖気で、存在を人間の前から消していたが、妖怪である彼女にはお見通しだ。

 道を塞ぐ車の屋根を飛び越え、逃走を図った。

 「待ちなさい!」

 走り出した時、彼女の足元に小さい人影がしがみつく。

 「やめてくれ!見逃してくれ!」

 「イズミさん!?」

 彼は足にしがみつき、同じ言葉を連呼した。

 その間に、彼の姿も気配も見失った。

 「メイコ君!」

 「神間さん!車に積んである夜刀やとの確認!急いで!」

 「はい!」

 彼は煙のおさまった車内へ。後部に積んでいた刀は無くなっていた。

 「畜生!やられました!」

 「ラセツは倉田を殺す気ね。

  イリジネア一危険な妖刀を、もし人口密集地で振り回されでもしたら・・・!」

 すぐに隼は、トクハン本部に連絡し、静岡県全域にレベル5の警戒態勢を敷くよう指示を出した。

 妖怪犯罪でレベル5は、超危険レベル。前代未聞の事態が進行し始めた。

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