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 「残念だけど、何度アタックされても、答えはノーよ。

  私ね、しつこい男も嫌いなの」

 ケンは、ニヤリと笑った。

 「いいねえ、そんなに強気に出た女は初めてだぜ。

  だが、今回は仕事さ。雇い主からのな」

 そう言うと、兵隊たちが銃を一斉に向けた。

 「成程・・・やっぱ根に持っていたんだ。

  で?あなた達のご主人様は、何て?」

 「少し痛い目に遭わせろって言っていたが・・・どうやら、生温いみたいだ。

  俺の前で、倉田さんを侮辱したな」

 「御免なさいね」

 「それくらいで、許すと思うか?」

 「?」

 ケンは、懐からコルト パイソンを取り出し、Z33に向けると叫ぶ

 「殺してやるよ!俺は、自分の思い通りならない女は大っ嫌いなんだ!」

 あやめは深くため息をつく。

 「全く・・・」

 「さあ、どうする?命乞いでもするか?」

 すると、あやめは鋭い目を、彼に向けた。

 「やってみなさいな」

 「なにっ!?」

 「殺せるものなら、殺してみなさい。

  無論出来るなら、ね?」

 その言葉に、大介は凍りついた。

 「正気か?相手はマシンガンを持っているんだぞ!

  エリス!君からも、なんか言ってくれ」

 「ダイスケ。アヤを信じなさいな」

 「そんな・・・いくら拳でびくともしなかったからって・・・」

 すると、ケンは声を押し殺して笑った。

 「いいねえ。実にいい。

  死ぬ前の女に、好意を持っちまうなんてな。

  どうやら、俺にはリョナの気があるらしい。・・・撃てェ!」

 トンネル入口で列を組んだ兵隊たち。その銃口から弾丸が発射される。

 “ボニーとクライド”すら生温い、一斉射撃。

 銃声がトンネルに反響し、硝煙で視界がどんどん遮られる。

 「撃ち方やめ!」

 弾丸を撃ち尽くしたのを確認すると、ケンは叫んだ。

 硝煙が立ち込めるレトロなトンネル。

 ようやく視界が晴れてきた。

 その先にいるのは、一斉射撃を受けて・・・

 「そ、そんな馬鹿な!!」

 無傷のZ33。

 「あ・・・あれだけの銃撃だぞ!バケモノか!」

 沈黙していたZ33のエンジンが動き、ライトが怯える兵隊たちを照らす。

 「クッ!」

 ケンは、コルト パイソンのトリガーを引く。

 弾丸はチュインと音をさせ、ボンネットで弾かれる。

 何発連射しても同じだった。

 車内では、頭を抱え怯えていた大介が、周囲を見渡す。

 「あれ?生きてる。何でか知らんが、俺生きてる・・・」

 「ね?言ったでしょ」

 エリスは、振り返ってウインクを飛ばした。

 「脱出するわよ。2人共、何かに掴まって」

 あやめはアクセルを空吹かし、兵隊を威嚇する。

 かつてないモンスターを前に、彼らは後ずさる。

 「一つだけ言っておくわ」

 外部スピーカーで、彼女は言った。

 「この車はね、米国大統領専用車キャデラック・ワンよりも頑丈なのよ。いくら撃っても、無駄ってやつよ!」

 「う、撃て!撃て!」

 恐怖に引きつった表情で、ケンは叫んだ。

 それよりも早く、Z33はスタート。退散する兵隊を散らし、行く手を阻むクライスラーにぶつかりながら、夜の下山コースへ。

 全員は呆気にとられていたが

 「テメエら!あの車を潰して、女どもを皆殺しにしろ!

  パクられた西伊豆グループのリーダーの座もくれてやる!行け!」

 ケンの言葉に、兵隊たちは雄たけびをあげて、車に乗り込んだ。


 未舗装道路の全力ダウンヒル。

 車体が飛び跳ね、崖やガードレールにぶつけた反動でドリフトを決める。

 寡黙なあやめとは逆に、大介はギャンギャン騒ぐ。

 「聞いていないぜ!この車が、あれだけ頑丈だなんて」

 「それでもって軽い!」とエリス

 「どうすれば、こんな車が日本で作れるんだ?」

 「正確に言えば、この車は逆輸入車なんだ。アメリカに、歴代の大統領専用車を手掛けている錬金術師がいるんだけど、その人物がリオさんと仲が良くて」

 「それで、作ってもらったのか」

 「ニッサン フェアレディZ Z33をベースとした、対妖怪犯罪用捜査車両。

  装甲は一般的な同型車と変わらない薄さだけど、ミサイル攻撃すら無傷で交わせるわ」

 「核戦争が起きても生き残れるのは、あのキャデラック・リムジンだけじゃないって事か」

 あやめは無線を取り、捜査本部に追われている旨を知らせる。

 ―――こちらも、膳場刑事から聞いている。

 隼が答えた。

 「彼、無事ですか?」

 ―――ああ、事故現場には目もくれず、通過していったと。

 「よかった・・・宮地先輩、います?」

 ―――・・・代わったわ。

 「大至急、応援を。“レッドスパルタ”を一網打尽にするのよ。

  仕掛けるポイントは・・・河津七滝ループ橋」

 連絡を終えると、バックミラーに数多の光が。

 「追ってきた!」

 その光の先頭を驀進する、ビュイック リビエラ。角ばったクラシックカーからにじみ出る狂気が、ひしひしと伝わってくる。

 そのリーダーを押しのけ、子分のクライスラーが3台、Z33を囲み始めた。

 体当たりをしてくる車。

 「っつ!危ないわね」

 後ろの車が、せわしく左右に車体を揺らす。

 「何しようとしてるんだ?」

 「多分、横に出て、この車を押し出そうって魂胆みたいだけど、こんな悪路で車体を揺らしていたら―――」

 あやめの言いたいことは、すぐわかった。

 ハンドルを取られ、後ろの車がガードレールを突き破り、坂を滑り降りていく。

 「ほらね?」

 それでも、彼らは攻撃を止めない。

 再び、後ろから体当たりされる。道幅が広がり、横に1台並んできた。

 窓の奥から、血に飢えた眼が光る。

 だが―――

 衝撃音と共に、視界から車が消える。その先に、橋あることに気付けなかった。

 欄干に激突した車体は、飛行しながら横転し、後続車の上へと落下した。それを交わせなかった車が1台、また1台と衝突する。

 さらに、後ろでZ33をつつきまくる車。先にカーブがあることに、これまた気付かない。

 ドリフト走行に入ったZ33。曲がりきれなかったクライスラーが、崖に一直線。

 ある程度がリタイアしたが、それでも多い兵隊たち。

 「伊豆中の兵隊でも、呼んだのか?」

 「倉田ならやりかねないわ!とりあえずエリス、無線でパパに連絡して」

 「武士の情け・・・か」

 「倉田の手先だとしても、こんな事で死ぬなんて馬鹿げてる」

 「了解」

 エリスは無線で、救急車を旧道へ向かわせるよう手配した。

 河津方面からの応援は無理なため、修善寺方面からレスキュー隊と救急車が向かうそう。

 車は、舗装道路に出た。すぐ先に天城街道との接続ポイントがある。

 瞬間、Z33は速度を落とし、旧道最後の鋭角カーブをドリフトで交わす。

 その隙に、兵隊のクライスラーが数台、前に出た。

 「おい、どうしてスピードを?」

 あやめは無言で、ハンドルを握る。

 先頭を走るクライスラーが、天城街道へ出て道を塞ぐ。が、次の瞬間!

 ド―――――ン!

 右から現れた大型トラックが、クライスラーに衝突。視界から赤い車がいなくなった。

 Z33は、急停車したトラックとのわずかな隙間を縫って、街道へ。避けられなかったクライスラーが、トラックに突っ込む。

 舗装された峠道。Z33はスピードを上げ、必死に逃げる。

 それを必死に追う、1つのライト。ビュイック リビエラだ。

 「しつこいな!撃っちまおうか」

 大介が銃を取り出すと、あやめが制止する。

 「やめなさい。こんな状況で、まともに銃弾が当たるとでも?

  もう少しで、タッチポイントに差し掛かるわ。それまで・・・」

 さらに、無線を引っ張る。

 「先輩、準備は?」

 ―――いつでも。

 Z33の先に、巨大な急カーブの立体道路が現れた。

 正式名称を七滝高架橋。峠とふもとの高低差を解消するために作られた、総延長1.1km、高さ45m、直径80mの巨大ループ橋。

 制限速度30kmのルートに、突っ込んでいく。

 「おい、ブレーキ!ブレーキ!」

 「黙って」

 恐怖に蒼白する大介。前の2人は、何事も無いように静か。

 視界に、壁が迫る。

 「悪夢だ!」

 あやめはギアを入れ替え、ブレーキを踏みハンドルを切った。

 蜷局をまいた蛇の様なループを、ドリフトしながら下る純白のレディ。

 タイヤから、白煙が上がる。

 その様子を、リビエラを低速で運転するケンが呆然と見ていた。

 「バ・・・馬鹿な!

  並みのドライバーでも、これだけのスピードなら、遠心力で外へ放り出されちまうのに!

  あの巫女・・・人間じゃねえ!!」

 眼下をドリフトしながら下るZ33。

 だが、車体が保つバランスも、タイヤも限界だった。

 もうすぐループ橋の終点だ。

 「大介!エリス!何かにつかまって」

 あやめが叫ぶ。

 『えっ?』

 「早く!!」

 大介は咄嗟に、後ろの背もたれにつかまった。

 それを見ると、あやめはハンドルをいじり、車のバランスを崩した。

 『うわっ!』

 車体後部が縁石にヒットし、3人は声を上げた。

 あやめは間髪入れずハンドルを操作、車体が左右に振れながらループ橋を超える。

 その先の開けた退避ゾーン。Z33は体勢を戻し、速度を上げた。

 「し、死ぬかと思った・・・」

 「ごめんなさい。怖い思いをさせて。

  でも心配しないで、このドライブも、もう終わりだから」

 3人はバックミラーを見る。

 ループ橋を走り終え、アクセル全開で迫るリビエラのヘッドライト。そして、今まさに差し掛かったクライスラーの車列も。

 その時だった。目の前から、1台の車がパッシングしながら現れた。

 シルバーのカローラ スパシオ。運転席には宮地メイコが。

 「メイコさん?」

 「時間通りね」

 すると、無線から声が。

 ―――間に合ったみたいね。雑魚は任せなさい。

 スパシオとZ33がすれ違う。

 「何を始める気なんだ?」

 「見てなさい」

 リビエラとすれ違ったのを確認すると、メイコは無線を引っ張る。

 「特08より全車両に告ぐ!パトカーコンボイ、スタート!」

 すると、スパシオの背後から、静岡県警のパトカーが次々に現れた。

 5台、10台という数え方でもまだ足りない。脇道に待機していた所轄署の車両が続々と、ループ橋に向かって隊列を組み、赤色灯とサイレンで相手を威嚇する。

 クライスラーの兵隊たちは狼狽する。

 「サツだ!あんなにたくさん・・・」

 「どうしてだ?河津署の署長は、俺たちの手中にあるって言うのに」

 「構う事ぁ無ェ!前を走る一般車を撃てば、収まるさ」

 先頭を走るクライスラー2台が停車し、スパシオに向け一斉射撃を始めた。

 だが、こちらもZ33と同じく無傷。

 「流石、リオちゃんね。新車のZ33ならともかく、元しごと館収蔵品のコイツまで、完全装甲にしてくれるとは・・・さあ、気の済むまで撃ちなさい」

 撃っても撃っても、びくともしない。

 怖気づいている間に、ループ橋の大渋滞を県警のパトカーが挟み込んだ。

 警官は全員、深津や市川の息のかかった人物だ。さらに上空に“れいせん”が飛来し、サーチライトで地上を照らす。

 ―――銃を捨てて、投降しなさい!これ以上の抵抗は無駄だ!

 隼の声が響き、観念した兵隊たちが銃を捨て、次々と警官が手錠をかけていく。

 それに気づいたケンは車を停め、降りると、赤い光に照らされたループ橋を見る。

 「お、俺の“レッドスパルタ”を!」

 Z33は、先でスピンターンし、ヘッドライトが彼を睨む。

 あやめは車から出ると前へ。巫女装束をライトに照らし、彼に言う。

 「これまでよ。あなたも、レッドスパルタも」

 憎悪の眼差しをあやめに向けるケン。

 2人は、ほぼ同じタイミングで銃を出した。

 「愚かな手を選ぶの?」

 「そこをどけ!巫女!」

 「ここにいるのは、巫女わたしだけじゃないわ」

 そう言うと、車内から大介とエリスが出て、銃を構える。

 「あなたが劣勢なのは分かるでしょ?

  残された選択肢は単純明快。私に引き金を引かせるか否か」

 あやめはワルサー P99のセーフティーを解除した。

 それを見たケンは、銃を握る手を緩める。

 「お願いだ!見逃してくれ」

 すると大介は言う。

 「よく言うぜ。俺たちを殺しにかかったのにさ」

 「五月蝿い!このまま引き下がったら、倉田さんに顔向けできないんだ!」

 「顔向け?」

 「俺たちのグループは、伊豆でも弱小勢力だった。それを大きくしていったのは倉田さんだ。

  車を用意し、銃を与え、免罪符を与えてくれた。

  その恩にに応えるためなら、何だってした。していいと思った!

  警官を殺せと言われる日まで」

 その言葉は意外だった。

 「警官を殺そうとしたのは、お前たちの意思じゃなかったのか?」とエリス

 「地方から赴任してきた警官の中には、倉田さんの行いを警察のトップに告発しようとする連中がいた。倉田さんは、俺たちに口封じを命じてきたんだ」

 「倉田個人の事件か?」

 ケンは首を縦に振った。

 「何なんだ?その事件って?」

 「伊豆のバス転落事故さ。あんた達なら知っているんだろ?あれは、倉田さんがやった事だ」

 「・・・」

 「俺は嫌だったんだ。でも、“レッドスパルタ”と縁を切り、今まで倉田さんがもみ消してきた事件を全て、県警本部に告発すると脅してきたんだ。やるしかなかった!」

 そう言って、嗚咽を漏らしながら銃を下ろした。

 これで終わりか、あやめが前へ歩み寄った時、ケンは言う。

 「俺は、どうなるんだ?」

 「それを決めるのは、裁判所のお仕事よ。大丈夫、まだ更生の道はあるわ」

 すると、ケンは笑った。

 「そんなのねえよ。俺の手は血と倉田さんで一杯だ。

  あやめさん。その言葉、倉田さんと知り合う前に聞きたかったよ。

  暴力と快楽におぼれた若者に、明るい未来なんてない」

 すると、銃を放り、叫んだ。

 「只今を持って、レッドスパルタは解散する。残っている連中は、残らず自首するんだ!

  悪いのは全部俺だ。お前らは、命令されてやっただけだ!これからは、まじめに生きろ!」

 ケンはビュイック リビエラのドアを開ける。

 「あやめさん。倉田さんの命令を差し引いても、アンタに一目惚れしたのは確かだぜ。

  それに・・・俺には、リョナの気があるみたいだ」

 乗り込むと、アクセルを思い切り踏み込んだ。

 あやめ目掛けて一直線に車を走らせる。

 「あやめ!」

 「アヤ!」

 大介とエリスはZ33のボンネットを飛び越え、あやめの元へ走り、彼女を庇う。

 銃を取り出し、リビエラに向けた。

 瞬間、彼らには見えた。ケンの額を流れる涙を。全てを察した。

 3つの銃口から、弾丸がボンネット目掛けて発射される。

 ケンは気付いたのだろう。リビエラは3人の前で、右にハンドルを切った。

 「やめろっ!」

 紅い車体は、ガードレールを突き破り、テールライトが直角に闇へと消えていく。

 衝撃音が鎮まった後に、爆発音が。3人が見ると、リビエラが炎に包まれている。

 大介もエリスも、言葉を失った。

 あやめは目をギュッと閉じ顔を背けながら、銃のセーフティーをかけた。

 「何がリョナの気や。ドアホ・・・」

 そう呟いて。

 「レッドスパルタも、彼の手駒であり、被害者だった・・・まあ、してきたことを見る限りでは同情の余地はないけどね」

 「分かってる・・・分かってるわ、エリス」

 「アヤ・・・」

 エリスは、あやめの元に近づく。

 「倉田は、最大の切り札を失ったわ。ロイヤルストレートフラッシュ並みの、ね。

  もう、彼を守ってくれるものは、何もない。

  奴を落とせるのは、時間の問題よ・・・捕まえてやる。ゴーレムの犯人も、倉田も」

 3人は、燃え盛る炎を見下ろしながら、寡黙に立ち尽くしていた。

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