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 大介達は、正面玄関を出た。

 一旦、立ち止まり

 「えーと、あやめ。車、どこに停めたっけ?」

 「左側よ。建物の影」

 その瞬間、エリスの獣耳が動いた。

 (何か、嫌な予感がする!)

 彼女の、獣人たる予感が、向かい側のコンビニへと、その視線を向けさせた。

 こちらを向く国産車。

 ずっと、アクセルをふかしている。

 鋭角なヘッドライトが、警察署を睨む。

 あやめが、エリスの様子に、気付いた。

 「どうしたの?」

 「・・・嫌な予感・・・2人共、逃げて!」

 刹那!!

 凄まじいスキール音を響かせ、国産車が、こちらへと突っ込んできた。

 ブレーキを踏む気配すら無く。

 「おい!何だ、あの車は!」

 道路を横断する。

 しかし、目をつぶっている男に、自分の置かれている状況は、理解できていなかった。

 「あぶない!」

 道路を渡りきろうとした時、クラクションを鳴らしながら、ダンプカーが、国産車の左後部に接触。

 バランスを崩し、横倒しになった。

 ここから、玄関まで、距離は無い。

 エリスは、あやめと、大介の手を引いて、署内へと戻った。

 すぐに響く、衝撃と、ガラスの割れる音。

 3人は、その場に崩れた。

 滑走した車は、正面玄関に衝突。

 幸い、柱にぶつかったため、建物内に突っ込むという、最悪な事態は、避けられた。

 エリス達が起き上がると、出入り口を塞いでいた車は、元の、タイヤが地に着いた状態に戻った。

 辺りには、ガラスが散乱し、サッシがひしゃげている。

 一瞬、何が起きたか、理解できていない3人と、下田署の面々だったが、すぐに事態に対応した。

 「車が、突っ込んだぞ!」

 「救急車だ!早く!」

 「爆発するかもしれん!消火器だ!」

 大声を上げる署員。

 3人は、すぐさま、大破した車に、駆け寄る。

 奥から、寺崎、宮地も。

 車内では、頭から血を流した男が、ぐったりとしていた。

 周囲からは、ガソリンの臭い。

 「漏れているの!?」

 「でも、どうすれば。

  ドアは変形しているし、レスキュー隊を待たないと」

 心配する大介を横に、あやめが、男の置かれている状況を、冷静に確認。

 「大丈夫ですか?私の声が、聞こえますか?」

 男は、頷いた。

 「意識は、しっかりしている」

 次いで、足の状態を確認。

 「足は、挟まれていないわね。

  ・・・いける!

  誰か、水を!」

 叫んだあやめに、宮地が答えた。

 「あやめちゃん!」

 宮地が指差した場所は、市民の待合室。

 そこには、富士山天然水のウォーターサーバーが。

 「OK!」

 右手を向けると、水の詰まったタンクが、勢いよく破裂し、あやめへと向かう。

 そして、彼女は叫んだ!

 「氷花!鎖鋸さこ!」

 大量の水は、彼女の右手を主体に、1つにまとまり、その姿を、現した。

 氷で出来た、チェーンソー。

 「すごい・・・」

 「大介、エリス。離れて」

 あやめは、車に向かうと、運転席側に回り込み、左手でエンジンを作動させる鎖を引いた。

 五月蝿いエンジン音を響かせ、刃が回転を始めた。

 両手で、しっかりと握ったチェーンソーを、ドアの接続部に当てる。

 氷で出来ているため、周囲に火花が飛び散らない。

 金属音を響かせ、ドアの切断を始めるが、彼女の手は、震えている。

 やはり、彼女には、少し重たすぎたのか。それとも、相手を傷つける恐怖か。

 チェーンソーが、溶け始めた時、大介が、後ろから、あやめの手を支えた。

 「しっかりとな。あやめの力が、必要なんだ!」

 「うん!」

 チェーンソーの溶解が、止まった。

 その氷の刃は、徐々に、ドアを引きはがしていく。

 そして―――。

 ドスン。

 ドアが、アスファルトに落ちた。

 チェーンソーを止めると、寺崎と、署員数名が、男を車内から、救助した。

 水の塊となって、地面に吸収されたチェーンソー。

 大きく息を吐いたあやめに、大介は、肩を叩いて、言った。

 「頑張ったな」

 「ありがとう。支えてくれて」

 「あの手つきじゃあ、切るもんも切れないかなって思っただけさ」

 「意地悪」

 あやめは、舌を出しながら微笑んだ。

 「しかし、どうして車が、突っ込んできたんだ?

  ブレーキと、アクセルでも、踏み間違えたか?」

 エリスは、断言した。

 「いえ、違うわ。

  この車は、確実に、私たちを捉えて、走ってきた。

  クロルークの勘が働いたのよ。間違いないわ」

 それを裏付ける発言が、署内から、聞こえてきた。

 「北城きたじょう先生!どうしたんですか!」

 署員の1人が、男の名前を叫んでいた。

 「先生ですか?」

 「はい。

  北城先生。踊子高校に勤務する、現代文の教師です」

 「踊子高校!?」

 倉田達の出身校。

 そこの教師が、車で、あやめら目掛けて、突っ込んできた。

 嫌な予感がする。いや、それしかしなかった。

 「兎に角、脳震盪を起こしている危険性もあるわ。

  救急隊が来るまで、安静に」

 そう言った直後、遠方から、救急車のサイレン。 

 「良かった。すぐに来たぜ」

 次第にサイレンが大きくなり、車両の姿が現れたが、それとは別に、ある車の影が。

 「あれは」

 ワインレッドの、光岡 ラ・セード。

 駐車場入口から進入する救急車を避けるように、ラ・セードが、背後を通過。

 「待ちなさい!」

 救急車と入れ違えに、あやめは、外へと走り出す。

 左折し、ラ・セードの背後を捉えた。

 車は、ゆっくりと走り、まるで、彼女を待っている様。

 (富士山ナンバー。エリスが、東京駅で見たのと、同じ・・・)

 もう少しで、車に追い付く。

 すると。

 「あっ!」

 車が、急加速。

 すぐに、姿が見えなくなった。

 あやめは、立ち止り、膝を押え、車の去った方を見ながら、荒い息を整えた。

 「くっ!」

 一点を睨む彼女に、エリスと大介が、走り寄る。

 「さっきの車、まさか東名高速ハイウェイの?」

 「間違いないわ。

  やっぱり、倉田が、指示を出していたのよ。

  あの先生に、私たちを襲わせるように」

 すると大介。

 「さっき、親父から、話があってね。本部からの、連絡だ。

  伊豆長岡で目撃されたのと、同じナンバーのトラックが、過去2件の殺人現場付近の、防犯カメラに映っていたそうだ。

  1件目は、JR広島駅付近。2件目は、梅田の、曽根崎新地。

  どちらも、しっかりと車の姿が、写っているとのことだ」

 「・・・」

 「それと、ラセツの方だけど、あの話は、本当だった。

  横山刑事が、確認したよ」

 「・・・まず、倉田。

  それと渡部に、揺さぶりをかけましょう。

  何らかのアクションが起きれば・・・」

 「でも、話によると、倉田は、政治家にもコネがあるんでしょ?

  そっちから、圧力があったら、どうする気?」

 エリスが、心配そうに聞くが。

 「それこそ、当たりって、ものよ。

  いざという時には、私が、責任を負うわ。

  恩師を利用するなんて、人間のやることじゃない。

  馘首の勢いで、奴を追いつめてやる!」

 静謐な振る舞いの彼女。

 その眼は、怒りにも、狂気にも似た力を帯びていた。

 あやめは、目撃した車のナンバーを、すぐに照会した。

 富士山ナンバー、光岡 ラ・セード。

 所有者の割り出しは、簡単だった。

 倉田悠生の父親。

 彼の、愛車だった。

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