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彼女の愛車、日産フェアレディZ Z33に飛び乗り、大介はトクハン本部に向かった。
安全上、場所は口外できないとあやめから言われたが。
車は大学を出ると北上を始め、京都府に入った。
場所はけいはんな精華台。
かつて関西文化学術研究都市として奈良北部から京都南部に造られたニュータウンのセンターエリア。
道路の両側に真新しい住宅が並ぶ。
ガラス張りの国会図書館を過ぎた辺りで、
「着いたわ」
車が停車した場所は
「おい、まさか」
「そう。
ここよ」
こちらもガラス張りの近未来的な建物。
全長は200メートルはあるだろうか、第一印象は巨大かつ派手。
その周囲は手入れされていない、荒れた草木で覆われ、正面玄関スロープのコンクリートさえ、雑草が突き破り、顔を覗かせている。
西暦2003年にオープンし、赤字補填の無駄遣いなどの批判や国家予算削減などを受け、2010年に閉館した厚生労働省管轄の職業体験施設、「私のしごと館」
「こんな場所が?」
「表向きは年間13億の負債を生み出す、行政のお荷物。
しかし、その裏は妖怪犯罪を取り締まる警察機構の日本本部」
「成程。
廃墟の有効活用ね。
でも、どうやって入るんだ?
入口は閉鎖されているし、それ以前に、人のいる気配すらないんだが」
「まあ、見てなさい」
Z33は建物を後に発進。
すると裏手に回り、隣接する空き地へ。
やはり入口はフェンスで閉ざされている。
「ここが入口。
ETCの機械に、このICカードを差し込めば・・・」
ポケットから出した無地のカードを差し込み、フェンスへと直進する。
フェンスがゆっくりと開き、そのまま中へ。
敷地中央に向かうと、一部分がスロープ状に変形し、地下への入口が出来上がった。
車は暗い通路を道なりに、地下へと進む。
突然、視界が明るくなる。
そこに現れたのは、広大な空間だった。
鉄骨とコンクリートに囲まれ、大型クレーンが吊るされたそこには、ヘリや数々の車両、機器が置かれている。
無論、難波事件で出動したUH-60T ささごいの姿も。
駐車スペースに車を停め、降りる。
「スゲー。
まるで秘密基地だ。
ウルトラセブンもビックリだぜ!」
大介の声が、構内に反響した。
「“まるで”じゃなくて“まんま”よ。
総敷地面積8万3千平方メートルに総工費581億円の建物と設備。
その全てを有効活用しなきゃ、それこそ無駄ってものよ。
あの大型クレーンも、元は展示品」
「大丈夫なのか?」
「ええ。
本物のクレーンを使って職業体験をさせてたみたいだから。
以前、ヘリを吊り下げたけど、びくともしなかった。
まあ、こういう話は置いといて、上に行くわよ。
皆、待ってるわ」
そう言い2人はエレベーターに乗る。
業務用の大型貨物エレベーターを改造したものらしく、中はとても広い。
一気に上昇し、地上へと向かった。
1階に到着し扉が開くと、ガラス張りの正面玄関ホールが2人を出迎える。
エレベーターの方を向くと、壁に「しごとシアター」の文字。
どうやら、ドームシアターをぶち抜いて、このエレベーターを作ったみたいだ。
ホール内にいくつかある電光掲示板には、日本地図とリアルタイムで全国各地の映像が表示されている。
館内は廃墟とは程遠いくらい綺麗で、本当に警察の建物なのか疑ってしまう。
「こっちよ」
大介は、あやめの後を追い、2階へ向かうスロープを歩くのだった。




