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 2日前

 さえずりの丘展望


 「土橋が殺され、里菜に脅迫状が来た。犯人は、完全に、俺たちを狙っている」

 倉田は、3人に話した。

 「どうして、俺たちが?

  まさか、小林の仲間が!?」

 国木田が言う。

 「いや、アレに親しい身内も、トモダチもいない。

  だとすれば、あの事件・・・」

 「それは、単なる過剰反応じゃないか?」

 「黙れ!岡田!

  お前が、徹オケのためにプライベートを犠牲にしたから、難を逃れたんだ。

  ただの、幸運さ。

  そうでなかったら、今頃、大阪のホテルに転がっていたのは、お前なんだぜ!」

 そう言われ、岡田の顔が真っ青に―――。



 「そうか。

  体調を崩しているにもかかわらず、岡田が、カラオケ店にいたのは、そういう訳だったのか」

 「徹夜カラオケのために、大阪旅行を中止していたのね。

  直前でのキャンセルとなると、多額のキャンセル料が、かかってしまう。

  宿泊料は、会社の経費。そして、宿泊するホテルは、高級ホテル。

  そこで、同時刻に商談で大阪に訪れた、彩京物産の社員が・・・不運ね」

 あやめが、そう言うと、レイは、話を続けた。


 

 「でも、どうして、今なんだ?」

 「もしかしたら、俺とお前の会社が関わっている、新しいレジャー施設が関係しているかもしれない」

 「それと、あの事件と、どういう関係が?」と渡部

 「知るか!俺が聞きたいくらいだよ」

 「ところで、レジャー施設は、完成できるのか?

  風の噂だと、お前が計画している“ペインシー プロジェクト”には、間に合わないと」

 倉田が、黙る。

 「どうなんだ?」

 「・・・ああ、そうだよ!

  どいつも、こいつも、社員どもは、役立たずだよ!

  地元出身の県議会議員を脅して、条例を改正したまでは良かったが、その先は、全く動かずさ」

 「土肥沖に人工島を作り、そこにレジャーランドを建設する。

  遊園地、ホテル、スポーツセンターと、規模は東日本最大級。

  さらに、土肥に連絡橋を、淡島、沼津に高速遊覧船を走らせる。

  まさに、社運を賭けた、一大プロジェクト」

 「そうさ。

  そのために、条例を改正して、国際線航路を変更したが、人工島と連絡橋の建設に、時間がかかっちまった。

  資材不足と、人工島の建設に困難な場所が、原因さ。

  畜生、何のための棚ボタだったのか、分かりゃあしねえ」

 「まあ、あの一件に、私は無関係ですからね」

 「何を言ってやがる、渡部」

 「あれは、君達のフラストレーション・トレランスの低下が招いたんだ。

  最も、バスの時は、共犯に引きずり込むために、警察を利用して、私の病院に小林を運んだみたいだが・・・ついでに聞くが、あれも、お前の仕業か?」

 「何の話だ?」

 「小林の死さ。

  人工呼吸器が外れるなんて、通常、有り得ない。

  意識不明の重体の人物なら、尚更だ。

  倉田、正直に答えろ!

  小林を殺したのは、お前か?

  熱海のホテルやバスの様に、無慈悲に殺したのは、お前か!?」


 

 レイの証言に、3人は戦慄した。

 やはり、熱海大火災とバスの事故は、繋がっていたのだ。

 犯人は、G5。

 だとして、理由は何か。

 渡部が言っていた「フラストレーション・トレランスの低下」

 これは心理学用語を用いた言葉で、欲求不満による耐性が乏しい、つまりは、忍耐力がないということだが。

 「欲求不満の捌け口が、倉田には無かった?」

 エリスの言葉に、誰かが待ったをかけた。

 「そんな筈、ありません」

 フロアに、別の人物が入ってきた。

 レイと同い年くらいの男性だ。

 「誰です?」

 大介の問いに、レイが答えた。

 「私が呼んだんです。

  彼も、踊子高校の出身で、G7と共に、学校生活を送った1人です」

 その男の名は、本田 ケイゴ。

 伊豆長岡の南方にある有名温泉地、修善寺温泉のホテルで、ボーイをしているという。

 「そんな筈ないとは?」

 沈黙したケイゴだが、レイと目線を合わせ、言った。

 「・・・倉田たちは、小林君に、日常的に、暴力を振るっていました」

 その情報は、3人を驚かせた。

 堀井初が立て、あやめが可能性として睨んでいた仮説は、辛くも当たっていたのだ。

 「本当なんですね?

  倉田たちG5が、小林君をいじめていたのは」

 「そうです。

  ひどいモノでした。

  彼には、身内がいませんでしたし、それ程親しい友人もいませんでした。

  つまり、いじめを告発されにくい環境にあったんです。

  そこに目を付けたG7は、彼をサンドバック代わりと言わんばかりに、攻撃しました」

 「殴ったり、蹴ったり?」

 「そんなの、易しい方ですよ。

  彼らは、人間が考える以上の、残酷な仕打ちを、彼に浴びせたんです。

  ある時は、岡田をフッた女生徒の前で、自慰行為を強要。

  ある時は、シュートの練習と称して、国木田がゴールに縛り付け、ボールを腹目掛けてぶつける。

  ある時は、土橋が解剖したカエルやフナを、生で食べさせる。

  極めつけは、倉田です。

  彼が趣味で集めていた車のコレクションを引っ張り出しては、それを使って、市中引き回しですよ」

 「車は光岡 ラ・セード?」

 「そんな車もありましたね。

  彼は、豊かな財力を使って、古今東西の車を、実家に集めているんです。

  日本車から、ベンツ、BMW、ルノー、ヒュンダイ、ボルボ・・・。

  あのバス事故の前だったと記憶しています、ランボルギーニを出してきた事もありました。

  帰ってきた時・・・彼は・・・」

 「ひどい・・・」

 エリスは、引きつった顔を背けた。

 「誰とも関係なく、暴力を振い、財に言わせて、全てをもみ消し支配する。

  だから、倉田がG7を支配している節も、いくつかありました」

 「倉田が、G7を支配?

  そう言える、根拠は?」

 すると、レイが言う。

 「篠乃木里菜と渡部隆介ですよ。

  2人は、あまり倉田たちと関わりたくなかったようです。

  ですが、声優の卵と、病院の御曹司。

  自動的に、倉田の下に入っていったんですよ。

  その証拠に、こんな話もしていました」

 


 それからしばらく、誰が関係ある、ないで、言い争っていたそう。

 だが、それを破ったのは

 「ああ、全く!

  責任の擦り合いだなんて、馬鹿らしい」

 里菜が、展望台の柵を蹴り、言った。

 「な、何を言い出すんだ」

 「馬鹿らしいから、馬鹿らしいって、言ってんのよ!

  客観的な立場から、言ってあげるわ。

  岡田、国木田、土橋、そして倉田。

  あんたたち4人が第一の事件を起こし、渡部を巻き込んで、第二の事件を起こした」

 彼らは、狼狽する。

 「き・・・君だって!」

 「何?」

 「見舞いと称して、小林の収容されていた病院に行っただろ?

  渡部が、見てるんだよ。なあ、渡部?」

 そう倉田が言うと、里菜は笑った。

 「確かに、病院に入ったわ。

  でも、私が行った時には、彼、死んでいたわ」

 「証拠は!」

 「無いわ。

  でもね、知っているのよ。

  あなた達が、水面下で、小林君に出した、いじめを終結する条件」

 『!?』

 「確か、発起人は、私にプロポーズした、国木田君」

 すると、国木田は、里菜の胸ぐらを掴んだ。

 「お前!」

 「そうよ、そういうトコ。

  スポーツマンシップのカケラもない、そういう所が嫌いなの。

  だからフッた。この意味、分かる?」

 「あの事件も、条件も、誰にも言うんじゃないぞ!」

 「それは、無理な注文ね」

 「どうしてだ?」

 「丁度、アニメの主演って大役を、貰ったでしょ?

  だから、過去の膿を、全部吐き出したいって、思ったの」

 「お前、まさか・・・」

 「そう、その、まさか。

  小林君を消して、めでたしめでたしって思っていたみたいだけど。

  あんたたちの所業を、告発文にさせていただきましたよ。

  最も、それを書いたのは小林君。

  病室で、それを見つけたんだけどね」

 国木田は、柵に、里菜を打ちつけた。

 「うぐっ」

 「吐け!

  その告発文は自宅か?事務所か?」

 「信頼できる人物に、送ったわ。

  大半はね。

  どうする?声優を、片っ端から問い詰める?

  今の私みたいに」

 「残りは?

  それさえあれば・・・」

 「いいことを、教えてあげる。

  残りは、国木田君。あなたの足元よ」

 「この展望台の下!?」

 「馬鹿?

  こんな場所に埋めるわけないでしょ?」

 里菜は、国木田を振り払うと、展望台を降りた。

 「明日のイベント列車以降、私は、あなた達と縁を切るわ」

 「そ、そんな。

  俺たち友達だろ?」と倉田

 「そうだったかしら?

  倉田君とも、アニメの放送が終わったら、それまで。

  いままで、小林君に暴力を振るうあなた達を、反吐が出るのを我慢して、付き合っていた。

  ただ、それだけよ」

 里菜は、そう言い、ロープウェイ乗り場へ向かった。

 「おい、待て!」と言いながら、倉田たちも。

 レイは、ここで、現場から離脱し、ショップへ大急ぎで戻ったということだった。



 「これが、私の知っている全てです」

 彼らは、外へ出て、イルカショーの行われるスタジアムのベンチにいた。

 ショーは、終わったばかりで、会場は空いていた。

 「最後に、いいですか?」とあやめ

 「倉田たちが、所謂“葬式ごっこ”を行ったという事実は、ありますか?」

 レイとケイゴは、無口になった。

 時間だけが、流れた。

 「・・・ありました」

 「強制的に・・・参加させられました」

 「それはいつ?」

 ケイゴが答えた。

 「3年生の春だったと思います。

  後で聞いた話によると、倉田達は、小林はいじめてすぐに、自殺するか、精神的に錯乱すると思っていたそうです。

  しかし、いじめて半年、1年。

  なかなか死なない小林に、腹を立てた倉田が、彼の存在を強制的に消そうと、葬式まがいの事を、行ったんです」

 「それに、クラス全員が?」

 「いえ、学年全員です。

  参加を拒んだ生徒は、“次に、お前の葬儀も執り行う”と脅していました。

  最も、篠乃木里菜は、小林に、死装束を着させた後、どこかに消えていきましたが」

 大阪の声優事務所に送られた死装束は、そういうことだったのか。

 だとすると、ミニカーは?

 「全員が、順番に焼香しました。

  教卓に、仏具を置き、遺影の代わりに、本人を前に立たせ、ウォークマンに繋いだスピーカーから、経文を流していました。

  終わった後には、泣き出したり、不登校になった生徒もいました。

  嘘か真か、鬱になった人もいるとか」

 「それでも、小林は、くじけなかった?」とエリス

 「はい。

  倉田は、彼が死亡した理由が定かでないから、小林にとって現実味が無かったということで、死因を決定し、葬式ごっこを、完全なる葬式のレベルにまで、上げたんです」

 「死因とは?」

 「交通事故です。

  小林は、下校途中、トラックに撥ねられて死んだ。

  だから、葬式が執り行われた・・・と。

  倉田達は、小林に、トラックのミニカーを執拗に、何回もぶつけていました。

  時には、出血することも・・・」

 ケイゴは、口を閉じた。

 レイも、下を向いている。

 これ以上は、彼らに精神的に負担をかけると見たあやめは、ここで聴取は終了した。

 

 

 2人と別れ、あやめ達は、熱帯魚たちの中をゆっくり歩き、出口へ向かう。

 「こんなに核心を突く話だったなんて・・・。

  彼女が列車から降りるときに言っていた事は、この告発文の事だったのね」

 するとエリス。

 「だけど、彼らが熱海大火災と、バス転落事故を起こしたとして、その理由は何かしら」

 「なあ、こんな仮説は、どうだ?」と大介

 「倉田たちは、自分の欲求不満の捌け口として、小林をいじめていた。

  しかし、それがエスカレートして、いよいよヤバくなった。

  スーパーカーで引き回すくらいだ。いつ死亡事案を起こしても、おかしくない。

  大勢がいる学校内で死亡したら、さすがの倉田でも、隠蔽はできない。

  とうとう、小林に手出しができなくなった。

  そこで、彼は、自分の会社が買収しようとしていた熱海市のホテルを破壊することで、鬱憤を晴らした。

  だが、その事実を、小林に知られた。

  それを告発しようと、小林はバスに乗り、熱海を目指した。

  倉田は、身の破滅を防ぐため、どんな手段を使ったかは知らないが、バスを海へと転落させた。

  これらの一件、あるいは、そのどれかが引き金となり、今の事件を引き起こしている」

 「成程、確実性があるわね。

  でも、謎は残るわね。

  どうして、3年経った、今なのか。

  そして―――」 

 「犯人は、誰なのか?」

 「そうね、大介。

  とにかく、この時間よ。

  次は、大室山へ向かうわよ」

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