表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/72

35

 「概要は分かったわ」

 エリスは、露天風呂で、あやめに、言った。

 長湯で火照った体に、夜風が心地いい。

 湯煙の中、重たいガールズトークは、続く。

 「これを聞く限りでは、3年前のバス転落事故には、何か裏がありそうね。

  それが、今回の事件の、根底にある。

  だけど、何者かが、小林リョウの復讐を行っているとして、それが何者か。

  親族や、かつての同級生という線は、この報告を見る限りじゃあ、可能性は低い。

  あるとすれば、彼の死後、家に出入りしていたという存在」

 「もし、現場に置かれていた仏具が、堀井さんの指摘するように、いじめを指しているとするなら、踊子高校の同級生が、小林に代わって、加害者への復讐を行っているという仮説が、立てられるけど」

 「それは、低いと思うわ。

  アヤやダイスケの様に、何者かが、自らの正義感で行動したとしても、既にクラタが感付き、兵隊を使って、その人物を消していてもおかしくない。

  1人で戦うには“倉田悠生”という力は、大きすぎる。

  それに、どうして3年経った今なのか。ゴーレムを操れるほどの秀才が、あのG5以外にいたのか。死装束とミニカーは、何を示しているのか」

 「そうよね・・・」

 あやめは湯船から立ち上がり、傍の岩にもたれかかった。

 その時、携帯端末が鳴った。

 隼からだった。

 新たな報告だったが、それは2人を驚かせた。

 ―――伊豆長岡の現場で発見された腕時計なんだがな。

 「何か、分かったの?」

 ―――裏に掘られた刻印を頼りに捜査したら、この腕時計は20年前、浜松市にある楽器製造会社が、創業60周年を記念して製作し、従業員に記念として配った物だと判明した。

 「殺害された国木田選手は、旧清水市生まれの下田育ちですよね?

  チーム側が公表している情報も、そのように。

  どうして関連の無い、浜松市の企業の記念品を?」

 ―――調べてみると、3年前に事故死した小林リョウの父親が、この会社に勤務していて、記念品の腕時計を貰っていたんだ。

   時計に刻印されたシリアルナンバーも、彼に渡されたものと一致した。

 「つまり、あの時計は、小林リョウの父親の形見だったんだ。

  じゃあ、犯人が置いて行った・・・」

 ―――ああ、俺も、そう思っていた。

   でも、真実は、違ったよ。

   2年前の3月、国木田が、所属チームと契約を結んだ事を伝えるスポーツ紙に、その答えがあったんだ。

   添付資料を、そっちに送ったから見てくれ。

 あやめは、画面をタップし、資料を出す。

 “Jリーグ期待の新人 国木田の大きな一歩!”という見出しの、新聞記事。

 国木田が、チームオーナーと握手している写真。

 その手首を、拡大すると。

 「あの腕時計!」

 エリスは叫んだ。

 「確かなの?」

 「この目で見たもの。間違いないわ」

 隼も、話を続けた。

 ―――それだけじゃない。

   バス転落事件後に行われた、高校サッカーの記事にも。

 再び、添付記事をタップする。

 “踊子高校イレブン 初快挙!”という見出しの、高校サッカー静岡県大会決勝の記事。

 この試合で、長年県内高校サッカーの、頂点に君臨した、浜松勇輪館高校を破り、県内1位の座を、踊子高校が勝ち取った。

 国木田が、プロに目を付けられるキッカケとなった試合でもあったのだが、その写真でも、国木田は腕時計をしていた。

 あの、小林父の形見の。

 ―――県警本部の聞き込みでも、あの腕時計を、国木田がつけていたと、所属チームの選手全員が証言した。

   周囲が時計の事を聞いても、アンティークものが趣味、と答えていたらしい。

   最新のファッションを取り入れ、新型スポーツカーで駆ける彼が、そんな趣味の持っているとは思えないと、周囲は見ていたそうだがな。

 「待ってください。

  つまり、殺された国木田選手は、小林リョウの父の遺品を、自分のモノにしていたって事ですか?」

 ―――今のところ、そうなる。

   死亡した小林リョウの遺品から、それらしい腕時計は発見されていない。

   とすると、国木田は、小林が死ぬ前に、彼から手に入れたと思われる。

   でも、自分の親の形見を、簡単に、他人にあげるとは考えにくい。

 「ええ。有り得ない。

  ・・・パパ。もしかしたら、堀井さんが指摘した仮説は、当たらずとも遠からず、かもしれないわ」

 ―――つまり、あの高校で、G6が小林リョウを標的に、いじめ行為を行っていた。

   ダイイングメッセージは、その際行われたであろう“葬式ごっこ”を指している。

 「時計は、いじめの過程で取り上げられ、国木田の所有物となった」

 「もしそうなら、スポーツマンシップの風上にも置けやしない!」 

 「しかし、これは仮説の域を出ないわ。

  突破口・・・そう、小さくてもいい!

  何か、彼らを謳わせられる突破口を、見つけることができたら・・・。

  今、全員は?」

 ―――倉田は、東京駅に駐車していた車を引き取って、今、東名高速を西進中。

   例の、ラ・セードだよ。

   尾行中の車両によると、現在、厚木付近だ。

   岡田は、沼津市内の社宅に戻った。今、県警本部が張っているよ。

   渡部は、篠乃木里菜のいる病院で、経過を見守っている。

 「病院には」

 ―――深津と、伊東署の警官が。

 「そうですか・・・」

 ―――こっちは、引き続き下田周辺を洗ってみる。

   君達は、妖怪犯罪方面で、さらに調査を続けてくれ。

 「了解、気を付けて」

 ―――そっちもな。

 無線連絡を終えた。

 「まだ、全てが、闇の中か・・・」

 そう、エリスが、湯煙の中で、呟いた。

 次いで、携帯端末に、連絡が入る。

 大介からだ。

 ―――今、部屋にいるんだが、このホテルの前の道に、赤いクライスラー 300が2台。

 「・・・そう」

 「やっぱり、倉田が、仕向けたのか。

  でも、どうやって?」

 「多分、ここへ向かう途中、尾行されていたんでしょうね」

 「明日の葛城山での聞き込みは、少し危険ね」

 ―――そう言うと思ったぜ。

   幸運にも、さっき、市川さんから、葛城山ロープウェイスタッフの1人から、重要な話があるとの連絡を受けたと、こっちに知らせてきたよ。

   そこで、別の場所で待ち合わせて、話を聞くことにしたよ。

   場所と時間は、既に、相手と相談して、決定したよ。

 「分かったわ。

  場所は・・・午前10時・・・伊豆三津いずみとシーパラダイス」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ