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 PM3:57

 伊豆の国市 伊豆長岡温泉

 葛城山ロープウェイ乗り場 駐車場

 

 西日が傾き始めた。

 事故現場は、綺麗に片づけられ、観光客の車が、あちこちに停車していた。

 だが、被害者の車があった付近に積まれた花やジュースの缶が、そこで1人のサッカー選手が無くなった事実を、主張している。

 3人は車を降り、話す。

 現場には、伊豆長岡署の刑事が2名と、市川警部の部下 近藤刑事。

 市川は、列車の一件で、熱海に向かったそう。

 「よし、どうする?」

 「近藤刑事、何か、有力な情報は?」

 彼は、横に、首を振る。

 「ダメですわ。

  犯人につながる手がかりは・・・。

  それから、もしかしたら、犯人は人間じゃないって話」

 「ええ、強くなってきました。

  2手に分かれましょう。

  エリスと大介は、この現場周辺の捜索。

  もしかしたら、何か手がかりが出てくるかもしれない。

  私は、近藤刑事と、聞き込みにあたるわ」

 「でも、有力な情報はないって・・・」

 「ゴーレムに使われた土は、大室山。

  生成されたのが、ここ、長岡温泉。

  凶器が、2本の包丁で、1人が2本使うとは、考えにくい。

  ゴーレムは、犯行現場に、2体いたことが、容易に推測できる。

  ってことは?」

 「大室山から、土を運んできた。

  それを運搬した車を、探すって事か」

 「一般成人男性の平均身長は、約170cm

  それだけのゴーレムを2つ作ったとなれば。

  とにかく、日没まで。時間との勝負よ」

 「よし、それじゃあ、取りかかってくれ」

 近藤の言葉で、全員が動き出した。

 大介とエリスは、白い手袋に、手を通し、駐車場周辺の捜索に入った。

 被害者が倒れていた場所から離れた場所も、捜索対象となった。

 植込みの裏、排水溝の中まで、徹底的に。

 その間、あやめと近藤は、聞き込みに走り回った。

 しかし、誰も、不審車両どころか、倉田らの話をしたがらない。

 何件か目で、あやめが立ち寄った、定食屋の主人は、こう話した。

 「ここだけじゃねえ。

  伊豆にいる地元民は、誰も、彼らについての話なんて、出来ねえんだ」

 「どうして?」

 「あの倉田社長の次男さ。

  湯煙国際観光は、伊豆で最も大きな会社だ。

  場所によっては、所轄署も手玉にしている」

 彼は、周囲を警戒して、こう話した。

 「ここだけの話にしてくれ。

  伊豆長岡署も、隣の韮山署も、その次男の手の中だ」

 「何ですって!?」

 「半月前、下田街道で、赤い外国車が、中学生をはねて、重傷を負わせた事故があったんだ。

  車は逃走し、中学生は全治3か月。

  それでも、事故は、無かったことになったんだ」

 「待ってください。

  交通量の多い道路で起きたひき逃げを、そう簡単に隠蔽するなんて、可能なんですか?

  被害者の方々が―――」

 「警察に手を回して、被害者にも多額の見舞金を積んだそうな。

  事故を起こした車は、次男が手懐けている暴走族のもの。

  彼らも、自警団を名乗って、伊豆中を巡回している。

  どれだけ奴らが、悪さをしても、警察は何もしてくれない。

  そのために、どれだけの人間が泣きを見て、伊豆を捨てた事か」

 「・・・」

 「今、新しいレジャー施設を建設しているそうだが、あの会社を潰さないと、伊豆に新しい光なんて見えてこない。

  かといって、潰せば、大勢が路頭に迷う。

  本当、住みにくい場所になっちまったもんだよ。

  なあ、あんた、お上の刑事さんなんだろ?

  どうにかしてくれよ」

 あやめは、黙ったまま、何も言えなかった。

 しかし、ある懐疑が。

 ロープウェイ乗り場で捜索中の刑事が、証拠隠滅にかかるんじゃないか?

 

 それは、現実のものとなった。

 手袋を外し、何かを掴もうとした刑事を、エリスが注意したのだ。

 「何、しているんです?」

 「いや、ちょっと・・・落し物を」

 そこに転がっていたのは、血のついていたシルバーの腕時計。

 かなり年季が入っている。

 「へえ。

  あなたは、血糊付きの腕時計をして、現場に入るの?」

 「くっ・・・」

 「どうして、こんなことをしたの?」

 「・・・」

 「話さないと、証拠隠滅罪で、逮捕することになりますが」

 それでも、刑事は話さない。

 大介がやってきて、あやめの話を耳打ちすると、やっと、事情がうかがえた。

 「すると、倉田悠生から、証拠の隠滅を図るように、指示された。違う?」

 「・・・」

 だんまりを決めているが、表情は狼狽している。

 「図星」

 「じゃあ、倉田は、この腕時計が、押収されてないことを知っていた?

  ・・・この腕時計は、どういった代物なんだ」

 「・・・」

 「だんまりか?

  あんた、警察官として、恥ずかしくないのか?」

 「・・・処分は、覚悟しています」

 そう話しただけで、何も進展は無かった。

 結局、戻ってきた近藤刑事に、彼と腕時計を渡した。

 一緒に捜査した刑事も、嫌疑がかけられ、一緒に、県警本部に送られた。

 予定していた、葛城山の聞き込みは、明日に回された。

 「ここでは、倉田悠生の思いのままに、事が進む・・・か」

 「でも、私達は、主人に尻尾を振る、従順な子犬じゃない。

  言うなれば、どんな真実にも食らいつき、離さない、オオカミ」

 そう、エリスは言った。

 近藤刑事を見送ると、3人は、宿泊するホテルへ。

 温泉街北側にある、ホテル マインバレー伊豆長岡。

 既に、隼が、予約を取ってくれていた。

 ロビーからは、外の日本庭園が、よく見える。

 その奥に見えるドーム状の建物は、大浴場。

 「隼様から、予約を承っております。

  本館、あやめ亭に2部屋ですね?」

 「へえっ!?」

 驚いたのは、あやめ。

 一瞬、ギャグかと思ったが、そうではない。

 このホテルには、あやめ亭という場所がある。

 というより、この伊豆長岡には、“あやめ”と名のつくホテルや施設がいくつも存在している。

 かつて、京の都で、宮内随一の美人とうたわれた菖蒲御前が、この伊豆長岡出身であることが由来らしい。

 ホテル側も、彼女の名前が、あやめであることに、驚いていた。

 「お客様も、菖蒲御前の様に、綺麗ですよ」

 「ありがとうございます。

  あ、1つ、よろしいでしょうか?」

 あやめは、国木田が殺害された前後、ホテル周辺に不審な人物や車がいないか、聞いてみた。

 すると。

 「そう言えば、土砂を積んだ幌付きトラックが、駐車場にいたな」

 フロントスタッフが、そう言ったのだ。

 「本当ですか!?」と大介

 「ええ、チェックインが始まった、午後3時を少し過ぎたくらいでしょうか。

  お客様から、駐車場入り口に駐車してあるトラックが、邪魔だ、という苦情がありまして、確認しに行きました。

  確かに、駐車場入り口に、トラックがいました」

 「そのトラックに、土砂が?」

 「ええ。

  でも、その割には、積まれている土砂の量が、少なかった気がします。

  あれくらいなら、車一台は、余裕に入るでしょうに」

 「そのトラックは?」

 「運転手に注意をしようと思ったのですが、無人で、しばらく待っていても、誰も来ないものですから、ロビーに戻ったのですが、改めて戻ると、そのトラックは、消えていたんです」

 「ナンバーは、覚えていませんか?」

 「警察に報告するために、メモに控えたものが・・・。

  えーと・・・静岡100 は 21-XX」

 「ありがとうございました」

 「まるで、刑事みたいですね」 

 「ええ、刑事だったりして」

 あやめは、微笑んだ。

 しかし、棚から牡丹餅。 

 意外なところで、有力な目撃情報ゲット。

 「では、お部屋の方へ、ご案内します」

 女将を先頭に、部屋に向かた。

 「では、行きましょうか。姫様」

 「うむ、好きに計らえ」

 「上機嫌になっちゃって」

 彼らの部屋は、敷地北側にある、あやめ亭2階の端。

 日本庭園を一望できる、良い部屋だった

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