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PM1:16
伊豆急行 伊豆熱川駅
熱川温泉の玄関口。
イベント列車は、乱暴にブレーキをかけながら、駅に停車した。
前方2両が、ホームからはみ出した形となった。
しかし
「ドアが、開かない!?」
一向に、ドアが開かないのだ。
苛立つ乗客。
そう言えば、襲撃の際も、車内放送は無かった。
「早く、開けろ!」
「お願いだ!助けてくれ!」
神間や高垣、宮地に、乗客が殺到する。
一部は、ドアに殺到した。
「このままじゃ、乗客が圧死する!」
あやめは、運転席に飛び込む。
「早く、ドアを開けなさい!
運転席からでも、ドア開閉ボタンは扱えるでしょ?」
「しかし、車掌と連絡が取れないんです!」
「責任は、私が取ります。
死人が出る前に、乗客を避難させないと!」
「わかりました」
運転士は、ホーム側に移動し、窓から指差確認、ドア開閉ボタンに手をかける。
同じタイミングで、熱川署の警官が、ホームに。
空気の抜ける音と共に、ドアがスライドされ、乗客がホーム、出口へと、我先に走る。
案の定、転倒したりするなどして、怪我人が出た。
「神間さん、高垣さんは、怪我人を駅出口に。
連中の襲撃も、心配よ」
『了解』
あやめは、彼らに指示すると、続けて大介らに
「私達は、里菜さんらを、救出するわ。
ただ、車掌が、沈黙を守っているのが、心配だけど・・・」
4人は、先頭車へ向かった。
声優陣は、無事だった。
しかし、里菜は怯えている。
「大丈夫ですか?」
「襲撃の時から、怯えているんです」と堀井。
里菜は、口を開いた。
「さっきのは・・・」
「予告通りに、襲撃してきたんです」
「どうして!」
「今は、この列車から、避難することを――」
「小林君は・・・あの時に・・・私を、許して・・・」
「えっ!?」
驚いた。
許して・・・?
「どういうことですか?」
大介は、彼女に詰め寄った。
「・・・お話ししましょう。
この列車から降りたら、全てを・・・」
「本当ですね」
「ただし・・・」
「何です?」
「いえ、何でもありません」
宮地警部とエリスが、降りてきた。
「ストレンジャー無し。
今なら、安全よ」
「倉田たちは?」
「先に、逃げたそうよ。
神間が確認したわ」
「自分の旧友置いて、さっさと逃げるかね!?」
「彼なら、やりかねないわ。大介」
あやめ、エリスを先頭に、声優陣、大介と宮地、という形で、避難することになった。
だが、その道のりは、遠い。
先頭2両が、オーバーランしているため、出口は3両目ということになる。
全員が、銃を構える。
1両目、クリア。
2両目、クリア。
3両目、クリア。
降車しようとした時だった。
列車後方、通路をJRの制服を着た人物が、歩いてきた。
車掌か。
「あ、車掌さん。
無事だったんですね」
エリスの呼びかけに、反応がない。
それに、右手を後ろに隠している。
近寄る、徐々に。
あやめは、咄嗟に動いた!
「エリス、ショットガンを!」
「えっ?」
有無を言わせず、あやめが、エリスからレミントンを奪ったと同時、車掌の右手が動いた。
4両目に突入する。
金属音が、刹那に響く。
車掌が、右手に隠していたのは、真剣だった。
あやめは、レミントンを両手で持ち、白刃取りを決めた。
両者の手に、力が入る。
よく見ると、車掌は、カトーマスクをしている。
これでは、誰なのか、分からない。
「あやめっ!」
大介が叫ぶ。
ようやく、事態を、だれしもが容認した。
声優陣から、悲鳴が上がる。
「早く、彼女を!」
「だけど・・・」
大介は、抵抗する。
「私の事はいいから!」
だが
「妖気!?」
宮地が、反応した。
次に、高垣の無線連絡。
―――飛行中の“れいせん”から、連絡。
熱川駅周辺で、高い妖気を、計測。
どうやら、トンネルを、ゴーレムが歩いているみたい。
「何てこと・・・“レッド・スパルタ”は?」
―――河津で、多重事故を起こして、立ち往生しているわ。
でも、北側から、何台か向かっているらしい。
「前門の虎、後門の狼、目の前には辻斬りってか?」
―――・・・深津から、緊急連絡!
熱海駅で、イベント列車の車掌が拘束された状態で、発見されたわ!
交代前に、襲われたって、証言しているわ。
その列車に乗っている車掌は、ニセモノよ!
「深津に言っておいて。
もう、遅いッちゅーの!」
「宮地さん、文句は後です!」
「そうね」
3人は、列車を降りた。
しかし、大介らの目に、熱海側のトンネルから、ゴーレムが出てくるのを、目撃する。
「もう、出てきたか」
そこへ、熱川署の刑事が2人、現れた。
「宮地警部ですね?
話は、深津さんから、無線で聞きました」
「深津?」
「はい。
深津さんには、県警時代に、お世話になりました。
宮地警部、ないしは姉ケ崎捜査官の指示に、従ってくれと」
「用意が良いわね。
彼女らを、駅出口へ」
「了解しました」
刑事は、4人を誘導し、改札へと向かった。
これで、ゴーレムと対峙できる。
レミントンを失ったエリスは、武装魔術に使用する葉、ナタールを取り出す。
葉の先端を口に含み、それを左手の平の上にのせると、右手を重ね合わせ、それを一気に指先へスライド。
剣へと、姿を変える。
「よし、行きましょう」
「でも、アヤが・・・」
車内では、まだ、2人は対峙していた。
何とか刃を離し、レミントンを構えるも
「弾切れ!?」
武器が、無い。
大介は、座席にレミントンを放った彼女を見た。
(このままじゃ、あやめが!
エリス同様、人間以上の治癒能力があるとはいえ、真剣で斬られれば・・・)
彼は、周囲を見回す。
「エリス、確かビュッフェは、5両目だったよな」
「そうよ・・・成程ね」
「頼む」
「OK。
ミス・ミヤジ」
「何とか、頑張るしかないわね」
3人は、列車後方へ。
途中で、大介は、5両目のドアから、車内へ。
ビュッフェに入り、ドリンククーラーから、ミネラルウォーターのボトルを掴むと、3両目へ走る。
刀を構え、あやめにじりじりと近寄る、車掌。
一筋の汗が、彼女の首筋を走る。
緊張を、大介が破った!
「あやめ!」
「大介?」
「受け取れ!」
ボトルを頭上目掛けて、放り投げた。
すかさず、CZ75を構える、が。
宙を走るボトルを、車掌が両断。
水が四散。
あやめは、すぐに、右手を伸ばす。
水滴が、指に触れる―――。
「氷花!、刃!」
水が凍りつき、刀を形成した。
彼女の能力―水を操り、具現化させる“氷花”。
その刀―村雨の刃先から、水滴が、滴り落ちる。
さらに、左手で服を掴むと、思いきり脱ぎ捨てた。
巫女装束の姿へ。
「デス・クロス・・・」
車掌は、初めて口にした。
「ということは、あなた、イリジネアの住人ね。
後悔するなら、今のうちよ。
私に、刃を向けた妖怪は、全て消えていったわ」
「よかろう。
犬馬めが、その口を閉ざして見せよう!」




