23
「連続性のある犯罪の場合、その手口に、犯人のこだわりが出てくる。
あやめ、犯人は必ず、ゴーレムで襲ってくるよ」
大介とあやめも、この話をしていた。
3号車、荷物置き場近くの、進行方向左側のドア。
ウェルカムドリンクを傾けながら。
その紙コップにまで、アニメキャラがプリントしてある徹底よう。
「ねえ、大介?
大介が犯人なら、どう襲撃する?
最初に唱えた、脱線転覆説を抜きにして」
大介はコーヒーを一口含み、答えた。
「そう・・・俺なら・・・。
襲撃ポイントは、伊豆半島内」
「その根拠は?」
あやめは、オレンジジュースを含む。
「熱海以降は、単線区画が多い。
その上、山と海に挟まれ、トンネルが多い。
車両10両が、余裕に入るトンネルに差し掛かった時に、列車の前後をゴーレムで挟んで、車内が混乱しているうちに」
「まあ、妥当な判断ね」
「だが、犯人も、こちらがその手を使うと考察している上で、行動してくるだろう。
となると・・・」
アナウンスが流れた。
声の主は、篠乃木里菜。
「みなさーん。
今日は、アニメ「pain sea」ラッピング列車試乗会に参加していただき、ありがとうございます。
アニメで主演を務めます 篠乃木里菜です。
間もなく、アニメイベントが始まります。
横浜を出発した後、近くのモニターで、アニメのプロモーションビデオを上演します。
席について、お待ちくださーい」
大介は、窓の外を見た。
赤い京浜急行の電車が、横切る。
「もうすぐ、横浜か」
「危険な響きね、横浜って」
「どういうことだよ」
大介は苦笑する。
「・・・あぶないデ」
「やめなさい」
そこへ、神間。
「夫婦漫才中、失礼しますよ。
さっき、寺崎から連絡が入ったよ。
“レッドスパルタ”が、撤退した。
これで、一難去った訳だ」
「宮地さんがやってくれたのね」
「いえ」
宮地とエリスが、来た。
「エリスちゃんのおかげよ。
命を削って、倉田を説得したのよ。
怖かったろうに・・・」
そんなエリスに、大介は近寄り、自分の手を、彼女の頭に置き、そっと撫でた。
「頑張ったね、エリス」
「ダイスケ・・・」
頬を赤らめるエリス。
しかし、説得は成功しても、まだ襲撃が回避されたわけではない。
列車は減速し、横浜駅のホームに入った。
駅員と、カメラ小僧の歓迎を受けるが、ドアは開かない。
わずかな停車時間。
カメラ小僧たちは、ホームを走り回り、その姿を収める。
AM11:22
定刻通り、発車。
熱海まで、この列車は止まらない。
ヘリからも、異常なしの連絡。
列車は、高台の丘陵地を貫く線路を走り抜け、再び、街中へ。
踏切の少ない区間に入った時、アニメのPVが上映された。
アニメの内容が公開されるのは、これが初めてだそう。
過去の傷を背負う主人公の少女 海羽が、生まれ故郷である伊豆に戻ってくるところから、話が始まる。
その少女が、転校初日に出会った謎の男子に引かれ、彼が所属する廃部寸前の部活“シーサイクリング部”に入る。
伊豆の海を自転車で回る、この部活の仲間との交流の中で、彼女たちの青春と恋愛模様を描く、ハートフルラブコメディ。
これが、アニメ「pain sea」の概要だ。
背景となる伊豆の自然も綺麗であり、登場するヒロインたちも魅力的。
1週間後、つまり来週の土曜日から、全国ネットで放送がスタートする。
遠目で、大介らもPVを見ていた。
「なかなか、面白そうなアニメね」
「ええ、主人公も、結構可愛いし」
それが終わると、声優によるトークショーが始まった。
モニターに、サロンでのトーク風景が映される。
その間にも、列車は走り続ける。
大船、通過。
異常なし。
平塚、通過。
異常なし。
国府津、通過。
異常なし。
鴨宮を出て、新幹線と並走。
すぐに、小田原通過。
「異常なし」
進行方向左側に、相模湾が見えてきた。
声優も、乗客も、感嘆の声をあげた。
「早川通過」
ため息交じりに、あやめが言う。
「根府川、真鶴、湯河原、そして」
「熱海。
そこから先は、JR伊東線、伊豆急行へ乗り入れる。
本当の戦いは、これからだ」
「ダイスケの言うとおりね。
・・・それにしても、海は綺麗ね」
海沿いの線路、快晴。
ミュージックホーンが、青い世界へ吸い込まれていく。




