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 神奈川県足柄郡

 東名高速道路上り線 鮎沢PA


 何とか強引に、パーキングエリアに入ることができた。

 山に囲まれた広大な駐車場に、たくさんの大型トラックが停まっている。

 大介が話を聞くと、既に先にある大井松田ICに捜査網を敷いたそうだ。

 上手く目をかいくぐって、道路上に車を放置した疑いもあるので、それも確認中だ。 

 一方、車を降りたエリスとあやめは、すぐに反応した。

 「分かる?エリス」

 「ああ、ものすごい妖気だ」

 2人は、気配の方向へ走り出した。

 レストランや売店が入る建物を横目に、傍にあるドッグランへ。

 そこに、妖気の根源があった。

 ドッグランの入り口脇に大量の泥が積もっている。

 それを見て、エリスが言う。

 「すごい、妖気。

  これは十中八九、読みが当たったわ」

 「運転していたのは、こいつだったのね。

  それに、泥の中に・・・スーツ?」

 「気づかれないように、擬態化させていたのね。

  まさに、いや、まんま着せ替え人形」

 「兎に角、これで2003年から行方不明になっていたアイテムが、顔を出したってことは事実ね」

 「はあ・・・ISPの介入かぁ~」

 一足遅く、大介も駆け付ける。

 「一体どうしたんだ?」

 「大介、さっき言っていた読みが、的中したのよ」

 「もったいぶらずに言ってくれよ、あやめ。

  何なんだよ、そいつは」

 あやめは、大介の目を見て答えた。

 「ゴーレムよ」

 「ゴーレム?

  それって、アレか。RPGとかに出てくる、土とか煉瓦のモンスター」

 「まあ、素人的に言えば、そうなるわね」

 語り手はエリスに変わる。

 「ゴーレムってのは元々、ユダヤの秘術とされる神秘主義思想、ガバラ伝承の、ある種の生命が注ぎ込まれた泥人形のコト」

 「神秘主義思想?」

 「仏教でいえば、密教に相当する部分よ。

  神から伝授された知恵とも、モーゼが口伝した律法とも言われているけどね。

  元々は、律法の真意を神から学ぶものだったんだけど、その神秘性から、キリスト教徒による魔術に取り入れられるようになったの。

  それを裏付けるように、中世以降の西洋魔術の系統には、ガバラの要素を組んでいるものもある。

  これ以上の宗教話は時間がないから省略」

 「確か、作り方も、結構有名だよね」

 「その通りよ。

  山で掘り出してきた、生のままの土を、新しい泉の水で練って、体の各部分に応じた言葉を唱え続けながら人の形に作り、額に「emethエメト」の文字を刻む、あるいは、それを書いた羊の皮、もしくは聖書の一部分を体に刻むことよって完成する。

  怪力を持ち、主の命ずるままに行動する」

 「聞いてるだけで、無茶苦茶面倒な作り方。

  本当に作れるのか?」

 「可能よ。

  ただし、作れるのはごく一部、創造の書を完璧に理解した魔術師だけ。

  しかも、世に出回り発見された書のほとんどが偽物。

  本物も発見されてきたけど、度重なる戦争に巻き込まれ、ほとんどが焼失しているわ。

  たった1冊を除いて」

 「その1冊が、さっき言っていた」

 「そう。

  Lash-B1208、ガバラ基本書“セーフェル・イツェーラー”初版 2-17。

  1979年にソ連が軍事介入したアフガニスタン紛争の終わり頃、記憶が正しければ1988年にヘラートという町の近郊で発見されたの」

 「それが、オンリーワンのモノホン」

 すると、あやめがその後を話す。 

 「だけど、アフガニスタンは当時、断続的に紛争が起きていて、これをどうするかが最大の問題になったわ。

  結局、国連本部で開かれた、元魔術師で組織された極秘の博識者会議の結果、国内にとどめることは危険だと判断されたの。

  かといって、ペレストロイカで国内が混乱しているソ連で保管することには、西側諸国だけでなく東側も猛反対。

  ソ連も、アメリカへの保管を反対」

 「まあ、時代が時代だからね」

 「その混乱に紛れて、どういう訳か書物はイラクへ運び込まれてしまったの。

  アメリカの情報によると、当時の大統領サダム・フセインの私有物になっていたみたいだけど。

  博識者会議は、イラクの動向をうかがいながら書物を奪還し、国連が永久封印する形で合意したわ」

 「ところが?」

 「合いの手どうも。

  2003年、イラク戦争のどさくさに紛れて、書物はまた姿を消したわ。

  処刑されたフセイン大統領の周辺からは発見されず、国連と博識者会議は「開戦当初の空爆により書物は焼失したものとみられるが、再び、その姿を現さんとも限らないため、バチカン協力の元、書物にラッシュ指定を行う」という最終結果を提示、会議は解散。

  そして現在、ココ日本の静岡県に、消えたはずの遺物が姿を現そうとしている」

 「そういう歴史があったのか・・・」

 エリスは、泥の塊を見て言う。

 「羊の皮も、聖書も見つからない。

  額に直接、のパターンね」

 「伊豆長岡の現場で付着していた泥もゴーレムのモノで、大阪のホテルで会社員を殺したのもゴーレムだとすれば、犯人は魔術師で、ゴーレムを生み出して連続殺人を起こしていることになるわね」

 「でも、どうして?

  踊子高校の卒業生に魔術師が?」

 「まだ分からないわ。

  でも、これだけは言える。

  ゴーレムを生み出せる輩よ。相当頭がイイ奴よ。

  裏の裏までかいて行動しているものとみて動きましょう」

 エリスと大介は頷いた。

 「問題は泥ね。

  どこで作られているのか。

  幸か不幸か、伊豆半島は自然豊か。

  山の土も、新しい泉の水も容易に手に入る」

 そんなあやめに、大介が

 「研究機関に持ち込んだらどうだろう?

  確か、釘宮の高校時代の旧友が駿河大学に通ってるって言ってたから」

 「駿河大学って言ったら、富士山や伊豆半島専門の地質学研究所を持っていたわね。

  よし、朝一で釘宮君に連絡しましょ。

  次は、あの車が消えたトリックね」

 「消えたストーカー」

 「面白くないわよ、ダイスケ」

 冷やかすエリスが、何かを発見した。

 わずかな泥。

 泥は駐車場へと続いている。

 3人はその後をたどるが、途中で途切れた。

 泥を車が引いて、消してしまっていたのだ。

 「消えたわね」

 しかし、すぐにあやめが何かを見つけた。

 路面にきらきら光るものが。

 寄ってみると、スーツのボタン。

 泥の中に埋もれていたスーツのものと同じだ。

 その近くには、2本のこすったような線。

 「あーあ・・・。

  分かったわ、どこに消えたのか」

 『えっ?』

 エリスとあやめは驚いた。

 「単純な子供だましに引っ掛かったんだよ。

  絶対やらないであろう程、馬鹿馬鹿しいトリック」

 「いいから、話しなさい」とエリス

 「ここに、前もってトラックを用意しておく。

  パーキングエリアにラ・セードが進入して、ゴーレムと運転交代。

  荷台から簡易スロープを出して、車を入れる。

  で、ゴーレムの術を解除して、トラックでココを後にする。

  80年代の刑事ドラマで、よく使っていた演出だね、こりゃ」

 『・・・えーーーーっ』

 2人の驚きの声は、落胆の表情へ。

 「じゃあ、何?

  私達、バカ?」

 「それじゃあ、捜査網突破して、今頃は・・・

  はぁ、頭痛い」

 それぞれが崩れ落ちたが、大介は言う。

 「まだ、希望はあるさ」

 「まさか、私の車についた傷?

  車が処分されていれば、追跡は困難よ」

 「そうじゃない。

  忘れたか?

  あの車、光岡ラ・セードは100台限定で生産された車だ」

 「そうか、購入者リストを手に入れて、そこからワインレッドのラ・セードを持っている所有者を追えば・・・頭いいわね大介」

 「いや、普通に思いつかない?」

 そう言われ、あやめはふてくされた。

 「だって・・・アドレナリン出し過ぎて体、だるいんだもん。

  頭、ぼんやりしているんだもん。

  雪女だから、熱くなれないんだもん・・・」

 「はいはい、分かった。

  とにかく、ここは高速警察隊に任せて、日付が変わらないうちに東京へ行こう。

  冷たいジュースでもおごるから」

 そう言われて、あやめとエリスの顔が明るくなった。

 売店に向かう大介の背後、2人はハイタッチを交わした。

 日もどっぷりと暮れ、夜のハイウェイを3人は出発した。

 途中、海老名で夕食を取り、東京料金所に到着する頃には、午後9時を回っていた。

 高垣刑事から、篠乃木里菜と堀井初の状況報告を、神間刑事と宮地刑事からJR側の動向を聞く。

 篠乃木里菜は終始、何かに怯えているようだったそうだ。

 JRも怪文書が届けられた以外、これといった異常は無かった。

 全員はその後、品川駅近くのホテルに入った。

 明日は、ついに戦いの日。

 ベッドに横になった3人の寝つきは早かった。

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