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 事件の始末を市川警部に任せ、3人は東名高速を使って東京に向かうことにした。

 伊豆長岡を後に、Z33は伊豆中央道料金所に差し掛かった。

 この周囲にはイチゴを栽培するビニールハウスが並んでおり、春にはイチゴ狩りを楽しむ観光客でにぎわう。

 ここのイチゴは、地元土産の菓子やホテルの食事にも出される。

 あやめは、通行料金230円を機械に投入した。

 神社の賽銭箱みたいに、硬貨を投げ入れる面白い作りだ。

 だが、彼女らが入った長岡北インターから料金所先のトンネル出口まで、約2キロの区間しかないのに高い通行料金を取るのには疑問がある。

 狩野川を渡り、下田街道を三島方向へ走る。

 しかし日も暮れ、東名沼津インターに向かう道は混雑し始めた。

 エリスとあやめも、同じく夜の、もう1人の姿へと変化した。

 改めて、車の中で捜査会議が始まる。

 「どう思う?」

 吸血鬼状態に変化したエリスが話す。

 先程、市役所のトイレで、いつもの戦闘服に着替えていた。

 白いシャツに紺のフレアスカート。

 大介にとっては、久しく、あの記憶を呼び覚ます代物だ。

 「どうって?」

 雪女状態に変化したあやめが言う。

 先程までの烏天狗の血が混じっていた時より、大人しい。

 「あのG7とかいう連中さ。

  どこかいけ好かない」

 「私もよ。

  彼らは、何かを隠している。

  多分、自分たちが狙われる理由も承知しているハズ」

 「それなのに私たちに、その事を隠している。

  自分の命を危険にさらしても隠したい事って・・・」

 「皆目、見当が付かないわ」

 すると大介が言う。

 「その前に、根本的な問題だ。

  どこに妖怪犯罪の要素があるかだよ。

  妖気って言っても、ホテルで検出されただけだ。

  確かに仏具に死装束、死人の血と来れば、マジで“怪奇大作戦”だが、ラッシュの影は全く見えない。

  なんか、お門違いに思えてきたんだがなぁ」

 そう言うとあやめが後ろを振り向く。

 「そうでもないわ」

 「前、見ろよ」

 「この渋滞、しばらくは動きそうもないわ。

  話を戻すけれど、この事件は間違いなく、私たちの専門よ。

  下手をしたら、ISPも介入してくる可能性もあるわ」

 「ISP?

  インターポール内に組織された、妖怪犯罪専門のセクション・・・。

  だけど、妖怪の要素なんて何も」

 「ラッシュに指定されるのが、妖怪だけだと思ったら大間違いよ」

 「・・・そうか!魔術師だ!」

 「そう。

  犯罪を犯した妖怪は、“Lashラッシュ-広域指定異端者”としてバチカンとISPから指名手配を受ける。

  だけど、それは浅い部分」

 「もっと深くまで言えば、魔術師、そしてそれに関連したアイテムもラッシュに指定される。

  前者は人間社会の警察が敷く指名手配とセットになる上、万が一に備えて警官には発砲許可のおまけがつく。

  ラッシュに接することが少ない、生身の警官が魔術師と対峙したら、それこそ命に関わるからな」

 「じゃあ、アイテムってのは?」

 「魔術師が持つ、あるいは狙っているアイテムには、大きな被害を生みかねないものも少なからず存在している。

  だから、そのアイテムにラッシュ指定・・・まあ、ナンバリングみたいなもんだわな。それをすることでアイテムの所在を把握し、捜査を潤滑に行えるようにしてあるって訳。

  因みに、アイテムは“Lash-B”ってナンバリングされている。

  実を言うと、ダイスケが持ってるその銃も」

 「伐折羅も?」

 あやめが言う。

 「依然話した吉野の寺社襲撃未遂事件。

  あれがあったからよ。

  ナンバーはLash-B297」

 「ほう・・・まあ、ナンバリング講座はこのくらいにして、この事件に魔術師が関わった証拠でも見つかったのか?」

 「断片的にだけど・・・。

  私とエリスの見当が当たっていれば、この事件に“Lash-B1208”が使用された疑いがあるわ。

  だけど、あれは・・・」

 「なんだい、それは?」

 「まだ、確信が持てないから、大介に話すのはここまでにしておきます」

 その時、エリスがバックミラーを見て、言う。

 「なあ、アヤ。

  あのクラシックカーみたいなの、料金所からずっとつけてきてないか?」

 あやめはサイドミラーで、大介は気付かれぬ様、そっと振り返って確認する。

 Z33の3台ほど後ろに、丸いライトを光らせた、ワインレッドの1900年代中頃風の自動車がいた。

 大きく長い車体で、運転するのは大変そうだ。

 「そう?

  トンネルを抜けた時には気付かなかったけど・・・」

 「相当、古い車と見える」

 そんな2人に大介は

 「あれは、光岡みつおか自動車のラ・セードじゃないか。

  2000年に100台限定で生産された、クラシック風クーペさ。

  本物は初めて見たなぁ」

 「じゃあ、現代の車?」

 「そうだよ、エリス。

  確か、ベースは日産 シルビアさ。

  メンテナンスが容易な反面、小回りが利きにくくて、運転は大変らしいけどな」

 「よく知ってるわね、そう何でも」とあやめ。

 「車に詳しい知り合いが、プライベートにいるからね。

  考えてみろよ、エリス。

  あんな目立つ車で尾行する奴がいるかよ」

 「ふーん。

  あの車のボディ、昔見た“101匹ワンちゃん”を思い出すわね。

  映画の悪役も、あんな 車に乗っていたわ」

 「まさか、クルエラが尾行していると?

  俺達はダルメシアンか」

 「もしかしたら、温泉の宿泊客で、帰る道が同じなのかも」

 そうあやめが言った時には、車は渋滞の先頭にいた。

 車が止まっている交差点、国道一号線と立体交差しており、彼女らはここを左折する予定だ。

 信号が青になり、Z33が発進。

 左折し、国道へ。

 尾行容疑のかかっているラ・セードも左折、前の2台を追い越し、Z33の後を走る。

 車は、国道一号線を道なりに走り、裾野バイパスへ。

 新幹線の線路をくぐれば、後はインターまで一直線だ。

 それでも、ラ・セードはピッタリとZ33の後を走る。

 「いい加減、気味が悪くなってきたわね」

 「どうする?」

 「次の交差点でカマ、かけてみましょ」

 そう言うと、あやめは車を減速させた。

 目の前に、交差点が現れる。

 頭上の歩道橋が、X印のように交差している。

 信号が赤に変わる時間を狙う。

 停止線に近づくと、信号が黄色に変わる。

 Z33はピタッと、停止線手前で停止した。

 後続のラ・セードも同様に。

 黄色、赤。

 「GO!」

 エリスの叫びを合図に、ギアを入れ替え、アクセルを踏み込む。

 Z33は急発進し、赤信号の交差点でスピンターン。

 来た道を引き返し始めた。

 「成功ね」

 「スピンターンするなら、言ってくれない?

  後ろが・・・すっげェ・・・」

 「ごめんなさいね、大介君」

 あやめは、豪快なカーアクションを決めたにも関わらず、涼しい顔をしていた。

 「それで、あっちは?」

 エリスと大介は後ろを見る。

 もう、追って来ないだろう。

 尾行していたのは、気のせい。

 3人は、そう思った。

 何と、ラ・セードも急発進し、青信号で一般車が進入せんとする交差点でクラクションが鳴る中、スピンターンを華麗に決め、Z33の後を猛烈に追ってきたのだ。

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