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 関係者は全員、ロープウェイ乗り場近くにある伊豆の国市役所の会議室にいた。

 部屋に入ってきた3人を見て、いち早く里菜が反応した。

 「また、あなた達なの?」

 「そうです。また、ですよ」とあやめ。

 「もう、話すことは県警の刑事さんに言いましたわ」

 里菜の横に座る男が立ち上がった。

 「どういうことなんです?

  我々、踊子高校の卒業生が殺されているなんて。

  国木田君は、とっても明るい好青年だったのに・・・」

 「失礼ですが、あなたは?」

 「あ、私は渡部琉輔わたなべ りゅうすけ

  つい先日までアメリカに留学していた医大生です」

 「医大生?」

 すると横で茶髪の男が言う。

 「そうですよ。彼の家は富士見温泉療養病院を運営しているんです。

  これでお分かりでしょう。私、倉田悠生は湯煙国際観光。

  岡田椋太郎は彩京物産沼津支社。

  そして篠乃木里菜は現役の声優。

  私達、そして殺された2人は合わせて、踊子高校では「G6―Gold 6」と呼ばれていたんです」

 「開校以来、稀にみる秀才と逸材の集まり。

  それを羨望して、生徒や先生方がこう呼んだんです。

  幸いにも、私たちは仲が良かったから、この呼び方に異論は出なかった」

 「すると、高校時代に敵はいなかったと?」

 「さあね。

  私達に嫉妬していた連中もいたみたいだし・・・」

 「小林リョウは、どうです?」

 藪から棒にダイスケが言うと、全員の表情が変わった。

 恐れている?

 それとも・・・。

 「彼がどうしたんです?」

 「ご存じなんですね。倉田さん」

 「一応、同級生でしたからね。

  実に痛ましい事故でした。

  同じ、公共交通機関を運営するものとして許せませんよ」

 「まるで、バスに非がある言い方みたいですね」

 「その通りでしょ?

  大勢の命を握るバスの運転手には、大きな責任がのしかかるんです。

  ハンドル操作を誤って海に落ちるなんて、言語道断。

  私からも一言言わせてもらいますが、余所者に、私たちの何が分かるというのですか」

 加えて、里菜から。

 「早く解放していただけないでしょうか?

  明日の事もありますから」

 そう聞いて、エリスが強めに出た。

 「これで3人が死んだんですよ!

  それでも、まだイベントを開催するんですか?」

 「文句なら、JRさんに言っていただけませんこと?」

 「先に言ったのは、あなたでしょう?

  仕事仲間にも知らせず」

 「そうでしたっけ?」

 大介はエリスを止めた。

 これ以上の言い合いは無意味だ。

 「分かりました。

  今日のところは、お引き取りいただいてかまいません。

  また、お話を聞かせてもらうかもしれませんので。

  それと、里菜さん。

  明日のイベント警護に私たちも就くことになりましたので、ご安心を」

 「そう。

  話を聞くも何も、彼らは明日、イベント列車に乗ることになっていますわ」

 「何ですって!?」

 あやめの表情が固まる。

 すると岡田が言う

 「前から、篠乃木さんの晴れ舞台を祝おうって言っていたんです。

  私たちも、このアニメプロジェクトに関わっていますから」

 「もっとも、このプロジェクトを提案したのは倉田君なんだけどね」

 あやめは、思考をめぐらす。

 もし、一連の犯人の目的が踊子高校のエリート卒業生ならば、彼らを一同に亡き者にできる千載一遇のチャンスを犯人に与えてしまうことになる。

 すると、エリスが彼女の耳元に囁く。

 「あなたの考えていることは分かるわ。

  でも、これは願ってもないチャンスでもあるわ。

  さっき考察したみたいに、一連の犯罪がアレを使ったものだとしたら、トクハンの目に引っ掛かる可能性はある。

  そうでなくても、列車を爆破する危険性は減ったことになるし、放っておいてもISPが介入してくるわ。

  アヤメ、私達ならいける。

  今までそうやって、ピンチを乗り越えてきたじゃない」

 あやめはエリスの顔を見て、頷いた。

 「そうね。やりましょう。

  パパに言って、ポンプとブレットを大至急手配するように言ってくれないかしら?

  あなたなら、扱えるわよね?」

 「OK、任せてよ」

 その間に、大介が言う。

 「最後に1つだけ。

  この一連の犯人は、殺害現場に仏具とトラックのミニカーを置いています。

  その内大阪とココ、伊豆長岡の現場に置かれていたトラックのミニカーからは小林リョウの血が検出されています。

  何か、心当たりはありませんか?」

 彼らは黙った。

 やはり、何かを恐れているのか?

 すると、倉田が言う。

 「すみませんが、今は思い出せません。

  大事な親友が殺されてしまった直後ですからね。

  何か思い出したら、すぐに知らせますよ。

  警察への協力は、市民の義務ですからね」

 「分かりました」

 倉田たちは、会議室を後にした。

 その後に、市川警部が入ってきた。

 「市川警部、あのG6とやらの身辺捜査をお願いできますか?

  それと、踊子高校の卒業生にも話を聞きたい。

  彼らの過去に、何かがあると思うんです」

 「良いですが・・・」

 彼は難しい顔をした。

 「あの倉田って男、実は結構ブラックな人物なんです。

  表向きは、あの帝都大学を現役合格し、将来は事業を受け継ぐ若きエリート大学生」

 「で、その裏は?」

 「過去に幾多もの犯罪を繰り返し、県内一危険とされる暴走族を統率する、黒将軍」

 「犯罪?」

 「その全てを、湯煙国際観光がもみ消している」

 その受け答えに違和感を覚えた。

 「待ってください。

  父親、じゃないんですか?」

 「高校生の時は、法曹界にも顔が効く父親だったんだが、熱海の大火災の後に倒れたんだ。

  彼は火事で焼失したホテルをひどく気に入っていて、買収前からフロアを大改修していた程熱を入れていたそうだから、そのショックと心労が来たんだろう。

  もしかしたら、その改修が火災を引き起こしたんじゃないかって声もあったしな」

 「その後は?」

 「うむ。

  倉田悠生の兄、つまり長男の倉田渉くらたわたるが会社経営を任されたんだが、あまり経営が上手じゃない人間で、その手助けを行ったのが―――」

 「倉田悠生、彼って事ね?

  そして今や、エリート大学生兼、大規模観光会社のCEOって訳?」

 「その通りです、姉ケ崎さん」

 「まあ、よくやるわ」

 「大学生兼巫女兼警察官のお前が言うなや」

 大介はツッコミを入れる。 

 「まあ、知っていると思うが、湯煙国際観光は伊豆の観光産業の3分の1を担っている。

  その分影響力が大きい。

  噂だが、一部の有力者は彼に、弱みを掴まれているそうだ。

  だから市会議員だろうと近所の魚屋だろうと、快く歌ってくれるとは思わんのだよ」

 「じゃあ、彼のしてきた犯罪ってのは」

 「弱みを握られた所轄署なら、そこの警察署長を脅して証拠隠滅。

  そうじゃなきゃ、被害者に莫大な賠償金を支払い口封じ。

  今まで、そうしてもみ消していたのさ。

  カツアゲ、賭博、未成年者飲酒・喫煙、交通事故、婦女暴行」

 「ひでえな」

 するとあやめ。

 「市川警部は大丈夫なんですか?」

 「私は県警本部の人間だからね。

  彼らの影響力の範囲は伊豆半島、ギリギリ沼津、熱海くらいだ。

  そこから出れば、何も怖くない。

  静岡や浜松で悪さをすれば、俺が心置きなくワッパをかけられるってもんよ」

 「内弁慶、外ねずみって事ですか」

 「そういうこと。

  あいつは静岡に巣食う大きな膿だ。

  やれ観光振興って言う前に、彼を黙らせる方が先決だ。

  俺はそう思っている」

 市川警部の語り口は熱かった。 

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