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エクストリーム・オーパーツ  作者: MIRAILIVE05
10/10

女神の過ぎた贈り物 10

  エピローグ  指し示すもの

         受け取るもの

         受け取らざるもの

         考え中



 ゴールデンウィークが明けて、由たちは大和大学のオーウェルの研究室を訪ねた。最後の謎、大本の所を聞かずにはいられなかったからだ。

 後はまあ、大学ってどんな所かという由の好奇心と、オーウェルにペイレーネユニットの処理結果を聞きにいこうと、ようは遊びにいきたかったのだ。

 研究室に通されると、薦められるまま年季の入った椅子に幸と小館は座った。木製で、長年使い込んだ椅子は見かけよりもはるかに座り心地が良かった。室内には古今東西の様々な古書、新書、専門書などがおかれ、その中に溶け込むようにワークステーション化された最新のパソコンがおかれていた。新旧が組み合わされて生きた研究室を形作っている。

〈古きを訪ね、新しきを知る〉を座右の銘とするオーウェルらしい研究室だと由は思った。

 由は持参した紅茶を入れて、オーウェルに出した。これだけは掛け値なしのプロ級といわれる由の入れた紅茶を一口飲むと、オーウェルは小さな目をまん丸にして驚き、絶賛した。実はオーウェルも紅茶党で、かなり味にはうるさかったのだが。

「良いお嫁さんになれるな、由君は」

「あ、やっぱり博士もそう思います?」

 などと変な所で盛り上がっているのは黙殺して、由は早速バッテリーがどうなったのかを聞いてみた。

「化学分解してしまったよ、電気分解できんのでな。予想通り何の変哲もない原子に戻ってしまった」

 専門的な化学の知識は由にはないので、詳しく説明されたがよく分からなかった。が、これで永久に最悪の事態は回避出来ることになる。由はほっとした。

「結局なんだったのですか、壺の中に入っていた液体は?」

 最後の最後。止の詰まり、中身は何だったのだろうか?

 由は再度聞いてみた。

「それなのだが……、発電の要因と思われる電解液の主成分を分析したのだが、どう結果を分析してもワインビネガー、つまり酢だったのだよ」

「酢? あのすっぱい酢ですか!?」

 由とその隣の幸は意表を突れてキョトンとしてしまった。「甘い酢などは無かりけり」と冷やかした小館も、それは口だけで、表情は同じだった。三人とも、すっかり未知の液体か何かだと思っていたのだ。

「電気による超流動性を示す以外は何の変哲もない、な」

「お酢自体も弱電解質だから、超流動性と何か関係が?」と幸。

 トレジャーハンターとしての習性か、知識の獲得には貪欲だ。

 オーウェルは使い込まれたイタリア製の椅子に深く掛け直した。

「不明だ。光を含めた電磁波的な調査が、まったくできんのでな」

 三人はがっかりした。さんざ苦労させられたペイレーネユニットだけに、多少なりとも正体が知りたかったのだ。

「だが、若手研究員の中に面白いことをいってた者がいてな。超心理学が好きで、〈気功やヒーリングを行える者がその力を込めた水、聖水とか命の水と呼ぶ物が似たような性質を示すことがある〉といっていてな。まあ、ペイレーネユニットに比べれば微々たる反応なのだが」

「まさか、それじゃあないのかといわれるのですか?」

 由は軽い驚きと共にオーウェルに言った。最も科学の中心に近い人が、オカルトやとんでも科学に関心があるとは思ってもみなかったからだ。

「まさか、だよ。学究の徒としてははっきりしない現象を信用したりはせん。が、可能性は捨てない。それは絶えず考慮する価値があるからだ」

 確りした根拠のある科学とインチキくさいオカルトを並べて考慮するということに納得は出来なかった。が、それをいったのが誰あろう科学の最先端に立つ人物なのだから、由は混乱してしまう。そういえば、進み過ぎた科学は魔法と見分けが付かないと有名な作家がいってたっけ。オーウェルのいっていることもそれと同じなのだろうと、由は思うことにした。

「超能力を持った水か。ちょっと惜しかったかな」

 小館が本音を口にした。生来の生真面目さ故に考え込んでしまいがちの由を、小館の軽口が浮上させた。

「それが本当かどうか使えるものになるかどうかは、後の学問の進歩にこう御期待だな」

 オーウェルは最初の質問の答えをそう締めくくった。ここら辺はやはり研究者らしいと由は思った。

 その後は、学校生活などの他愛のない雑談となり、それが一段落すると由はいよいよ最も聞きたかった疑問を口にした。

「博士、何故バクダットの壺電池と同じものが、アステロイドベルトなんて途方もない所にあったのですか? そこが一番分からないんです」

 オーウェルはしばし考え込んだ振りをした後、自説を展開した。

「何故アステロイドベルトに壺があったのか?」

 わざとらしく、厳かに前置きをする。

「アステロイドベルトは、太古には惑星だったという説が有力なものとしてある。が、その総質量を計算してみると火星の六〇〇分の一位しかない。これでは、とても知的生物が存在していたとは考えられないな。諸説はあろうが、もし知的生物が存在しえる最小質量の惑星を火星程度と見積もり、その惑星が存在し、何らかの理由で崩壊したと考えたなら、その大部分の質量は何処へ消えてしまったのか?」

そして、とオーウェルは続けた。

「もう一つ。そもそも惑星は何故崩壊してしまったのか?」

 由には想像だに出来なかった。ひょっとすると幸には自説があるのかも知れない。根拠はないが、隣でオーウェルの話を深い眼差しで聞いている友人に対して想像してしまう。

 由の視線に気付いた幸が頬を染める。

(違うって!)

 最近ノーマルな貞操観の自身がぐらつく様な気がして、由は過度に反応してしまうのであった。

 更にオーウェルは続ける。

「マントルが動くことによって地球には地磁気が発生している。詰まる所地殻は磁気を帯びている。ならば、地殻に強力な磁気を掛ければどうなるかな?」

 そこでオーウェルは三人に質問を振った。

「それは、地殻の方が動くんじゃあ……、あ!」

 答えた由は、途中で気が付いた。

「たった一つで都市が消失しかねない電磁波兵器、それが戦争などで大量に使用されたならどうなるか。地殻の動きが激化し、ひいては大陸プレートがぼろぼろに。惑星を形作る強度が失われることになるだろう」

「それが原因で惑星一つが崩壊したと、博士は考えているのですか?」

 幸が聞く。言外にオーウェルらしくない短絡さだといっていた。

「まさか。外殻が崩れた程度では惑星は崩壊などせんよ。外的要因がなくてはな」

「外的要因……」

 それは何だろう。由は考えてみた、惑星崩壊にまでに及ぶ外的な要因。惑星に及ぶような、大規模で直接的な力。そこまで考えて、ふと思い浮かんだ。

「木星!」

 オーウェルは、ニコッと笑うとうなずいた。

「地球型惑星といっても固い岩盤は精々表面の数十キロ程度。高温ではあるが、中心核を除いては殆どが液体だ。その、本当に液体の球と化した惑星に巨大な重力源、木星が近付いたなら」

「一たまりもありませんね……」

 驚くべき説に、由は思わず呟いた。

 そこで、今まで珍しく寡黙に徹していた小館が口を開く。

「一つ疑問が残りますね。崩壊した惑星の破片はの大部分は何処に消えたのでしょう? 全て木星の輪になった、というのはかなり無理があると思うのですが」

 鋭い意見に驚きつつ、由が答えてみる。

「吸収されたとか」

 それに対して幸が不備を指摘する。

「輪になったもの以外は全て? 由ちゃん、どちらかというと輪になる破片の方が多いはず、ばっと広がった破片が木星の重力に引き付けられたと考えると」

「そうか……」

 オーウェルは、由の気を執り成すように、わざとらしく咳払いをした。

「一つだけ、それを説明出来る仮説がある」

 三人が再びオーウェルに注目した。

「その惑星が二重星だったとすればどうかな?」

「二重星か!」

 小館が思わず唸る。

「そうだ。二重星の質量によって辛うじて木星の強大な重力に抗してきたそれら、仮に崩壊した方を雷星A、もう一方を雷星Bとしよう。はある時ペイレーネユニットによって雷星Aの地盤が崩れた。

そこへ通りかかった木星の大重力と雷星Bの重力で限界を超えて引き伸ばされ崩壊。残された雷星Bは、突然公転を助けていた雷星Aの重力を失い、木星の大重力によるスイングバイ効果で太陽系外へ。崩壊した雷星Aの破片もその一部は木星や太陽系内に留まったものの、その殆どを雷星Bと共に飛ばされてしまった。そして後には惑星の名残の様なアステロイドベルトだけが残された。壺も殆どが消失してしまったが、残った極一部がアステロイドベルトの中に残っていて、MUSES―G計画が宝くじを引き当てる様に地球に持ち帰ってきた。というように考えられるな」

 つい熱が入って喉が渇いたのか、オーウェルは残りの冷めてしまった紅茶を飲み干した。

 オーウェルの話を聞いてしばし絶句する由。さすがの幸も唖然としている。とてもじゃあないが信じられない。が、それをオーウェルがあまりにも真に迫った顔で語ると、本当かも知れないと思ってしまう。

「なんてな」

 あっさりとオーウェル自身が自説を否定して、三人は脱力して椅子にもたれ掛かった。

「冗談なんですか……」

 憮然とする由にオーウェルは笑い声で答えた。

「今のはややフィクションが過ぎたがどうかな、まったくの否定もしきれんのではないかね?」

 少し哲学的な話に入り込もうとして、幸はともかく由や小館にはまだ早いと思ったのか、オーウェルは話を単純化することにした。

 先に由がいう。

「絶対にフィクションですよ。とても真実とは思えない」

「では聞くが、由君。君はまさか入学したての学校で、秘密工作員部隊を相手に戦闘することになると思っていたのかね?」

 絶句する由。自分が漠然と信じていた現実が、実は虚構なのではないかと思えて、意識しなかっただけのオーウェルの指摘の正しさに、打ちのめされてしまった。今までの自分の考え、常識に執着していることに気付かされる。

「現実には起こりうる、起こってしまった。違うかね?」

 オーウェルは、スパッと由の執着を粉々に砕いてしまった。単なる思い込みはオーウェルの前では通用しなかった。

「何が真実なのか……」

「だから私達研究者は探しているのだろうな。自分で自分自身を納得させたいために」

「自分で……」

「他人の説に納得出来ないなら自分で探す他なかろう。あの壺が何故アステロイドベルトにあったのかは、現実的なものから明らかに無理のあるものまで、幾らでも説明出来る」

「それじゃあ、博士のような専門家の説でさえ間違っていることがある、嘘かも知れないということになってしまいますよ」

「当然だな」

 再び絶句する由。

「だが、私は少なくとも自分の導き出した答えは、より現実に即したものにしたいと思っている。〈これが正しい〉ではなく、〈絶えずより正しくありたい〉とな。だから現象をより上手く説明していない、正しくないと思えば自分の説でも撤回するし、たとえどんなにいけ好かない者の説でも、正しいと思えば肯定する」

 それが私の見つけ出した、真理へ至る最も良い方法だと思っている、今の所はな。とオーウェルは付け足した。

「そうやって私は、私の疑問に自分で納得出来る答えを見つけ出そうとしているのだよ」

 オーウェルは一旦背もたれに寄り掛かり、また姿勢を正した。

「世の中は何でもありそうだ。そうは思わんかね?」

「……かも知れません」

 真実は一つだと思っている由に、真実は人の数だけあるというオーウェルの考えは受け入れ難い。でも否定も出来ない。自分の視野の狭さを痛感させられる。

「なら、何故バクダットの壺と同じものがアステロイドベルトに存在するのか、その本当の理由も見つかるかも知れんな、由君なりの」

「そうですね」

 自分に言い聞かせるように、由はうなずいた。何かある。何でもある。そこに何かを見出したいなら、自分で探す他はない。それだけが唯一、自分を納得させられる。

「由君、型にはまり過ぎは基の影響だな? まったくやつめ、一々型にはめようとしおって。何がデータの間違いだ。エントロピーは保存されなければおかしいだと? ペイレーネユニットは本物の永久発電装置だったぞ!」

 何だか話が脇道に逸れてきたぞ、歳だからかな。と小館がこっそり呟くと、オーウェルは老人問題の自説(?)を展開し始めた。

「老人への、老人のための、老人に相応ふさわしい心使いがこの国には足りない! そもそも私は老人ではないぞっ!!」

 由たちは笑い出してしまうのを必死にこらえた。普段から抱えていた密かな怒りに火が点いてしまったのか、オーウェルの弁舌が段々熱を帯びてきた所で、由たちは研究室を後にした。

 帰り道、足を止めた由は自問自答した。まだ、何も答えは出ていない。

 でも一つだけ。それを見つけたい。見つける。それだけはしたい。

 顔を上げる。すぐ前に、自分よりはるか先に進んでいる二人が見える。強い思いを秘めているであろう二人の友人を見つめながら、由は遅れまいと強く足を踏み出した。いつかそこに辿り着きたいと思いながら。


 数日後、いつもに様に博物館で本を読んでいた由が、区切りを付けて顔を上げた時、ふと一列向こうのアクリルケースの端に目が留まった。入ってきた時には死角になっていて見えなかった所。そこに古ぼけた壺が一つ展示されていた。

 前におかれた説明プレートの一番上にはカッコ付きで記されていた。

〈実物〉と。


                     END


エクストリーム・オーパーツ完結です。

でも、ネタやエピソードはまだまだあります。

しかし他にも描きたいことがあって……。


エクス2、制作中……。


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