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であい

真白はとあるビルの屋上で横になって、目を閉じていた。


「ちょっとキツかったかもね。あの空間渡りは。でも酔っただけで、気を失ったりしてないんだから、たいしたも のだよ」


真生はそう言うと、約2メートルもある柵にほっという掛け声をしてジャンプすると座ってしまった。


真白は寝たまま真生を見上げた。


「それって誉めてる?……まいいや。私しばらく動けないから」


「傷まだ塞がらない?いまいち服が血だらけで確認しづらいんだけど」


「塞がったけど、体力と足らなくなった血が回復してないから無理。………ここがそうなの?なんかよく見えないん だけど」


「そう。みんなが、帰りたかった場所。時間の進み方とか一緒だから、真白はちょうど2年間向こうにいたことにな

 るね」


真生の言葉に真白は苦笑した。前の自分が生まれて、育った世界。仲間が最後の最後まで帰りたいと願った世界。


けれど帰ってこれたのが自分1人という皮肉。


頭の中に今までのいろいろなことが走馬灯のように流れ、真白は声を殺して泣いた。ごめんとかすかにつぶやきながら。


真生は真白が泣き始めると、ビルの明かりであまり星の光が見えない夜空を見上げた。2年もあそこにいて、よく生き残れたとしみじみ真生は思う。


誰よりもあそこに詳しい真生だから、真白が帰れたことは奇跡に近いことと知っている。正気も失わずに。まぁその分失ったものも多いが。


真白と初めて会ったときは、ぽっちゃりしていて、おどおどびくびくしていてすぐに、死ぬだろうと思っていた。


だが、いつもなんとかボロボロになりながらギリギリのラインで戦っていた。4ヶ月も1人で。


そのあとに真白に殺された、男がリーダーのグループに拾われた。それまでは名無しだったが、不便だということで真白と真生と名づけてもらったのだ。


それから真白はよく笑うようになった。仲間が出来たことで、精神的に少し余裕ができたからだろう。


ぼんやりといろんなことを思い出していると呼ばれた。


「真生。これお願い」


なんとか落ち着いて泣き止んだ真白が動くようになった右手で、ポケットに入っていたブレスレットと黒い石を差し出した。


真生は柵を下りると、真白の元まで行き、受け取った。黒い石をギュッと握り込むと穴が開き、ブレスレットを触ると紐が外れ、そこに黒い石を通して真白にほいできたと言って渡した。


真白はそれを左手首に愛おしそうにはめた。


「真生。これからどうすればいい?」


「だーいじょーぶ。ちゃんとお迎えが来るから」


「え?お迎え?」


真生が言っている意味がわからず、首を傾げると真生が夜空を指した。そこでようやく気がついた。音が聞こえてきたことに。






真白がぽかんと見上げていた。これが何というものかは知っていたが、まさかこれが真生の言っていた迎えというやつなのだろうか。


というか迎えがヘリってどこのセレブなんだと心の中でつっこみを入れた。こちらに知り合いなんていないはず。


ということは真生の得意の予知だ。よくすべてを見透かしたようにいつも余裕でいる真生。


ほぼ100パセーントの確立で当たる。それでだいぶ助けてもらった。予知の内容すべては話してくれないが。それでも……


ヘリは真白たちの頭上5メートルで静止して、中から1人の男が飛び降りた。


男は少しもよろけずに、きれいに着地を決めると真白を見て顔をしかめ、真生を見て一瞬驚いたが、すぐに無表情になった。


「『同胞』の方たちですか?」


男が言った言葉の意味がわからず、真白は首を傾げたが、真生が首を縦に頷いて、肯定した。とりあえず今の段階でついていけてないので、真生にすべてを任せることにした。


「私、神楽についてきて下さい。これからのことを話さなければなりませんから。着替えも用意しますので、着くまで我慢して下さい」


と言うと細い体にもかかわらず両脇に真白と真生を軽々と抱えた。


ヘリから梯子が降りてきて、両手で抱えた状態でひょいと飛び乗ると、足だけで梯子を昇り始めた。


手を使わずに。ヘリがホバーリングして待機していた。かなり揺れて不安定なのに、神楽は普通の階段を昇っていくような感じで上がっていく。


2人があまりの異様さに唖然としていた。そしてはっと気がつくとヘリの中という状態だった。神楽は2人を座席に座らせ、シートベルを締めると操縦者に何事かつぶやき、ヘリが動き始めた。


真生はくすりと笑うと隣に座ってまだ、状況がよくわからずぽかんとしている真白に他の人間に聞こえないように耳元でささやいた


「あれがあの人の『異能』だよ。力持ちでバランス感覚が異常にすぐれているみたいだね。まぁマンガみたいでち ょっと面白かったね」


「あの人、私たち…私と同じ『異能』…この世界の」


「そうだよ。まぁね気がついたと思うけど詳しいことはおいおい説明するよ」


真生はそういうとにっこり笑い、唇に人差し指をあてた。これは今ここで話すのはまずいという真生の合図。


とりあえず、真白は目的地とやらに着くまで、頭の中を整理することにした。といっても知っていることはさほどないが。


話し合いは真生にまかせ、その会話で情報収集をしていかなければならないと思うと気が重い。


しかし、そうしなければ大変なことになるというのは経験済み。真生に聞いても最低限のことは教えてくれるが、あとは教えてくれない。


とりあえず体がだるいので真白は一旦考えるのはやめて、少し眠ることにした。着いたら真生が起こしてくれるだろうから。


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