幼馴染との再会
就職氷河期のこの時節でも、合格したての大学生ともなると安閑としたものである。
俺は下見がてらに訪れた大学の長椅子で、豆菓子を片手に鳩どもを侍らせながら徒然と時間を浪費していた。
と―、
「キャッ!!」
春一番がミニのプリーツを翻し、ハチミツ好きの某キャラクターの熊と目線が合う。
「……見た――?」
「ラッピー♡」
半眼で睨む娘に、親指を立てた軽いノリで応える俺。
少し赤らめた頬を膨らませて無言で詰め寄ってきた彼女は―
「拝観料として頂くわね、仁見君――」
おもむろに指を伸ばすとひと掴みの豆菓子を口に放り込んで微笑んだ。
「……格安だね―」
思わずそう返した俺だったが、はて……?
艶やかなショートボブの髪に囲まれた化粧っけのない愛らしい顔。
魅力的に輝く瞳に、すっきり通った鼻筋、ぷっくり柔らかそうな唇はついつい啄ばんでみたくなる。
白のTシャツにGジャンをはおり、マルセルプリーツのミニから健康的な脚がすらりと伸びていた。
巷をにぎわすアイドルグル―プに混じってもセンターが獲れるのではなかろうか。
「…どうして俺の名前を?初対面…だよね」
「ん〜六年ぶりだもんねぇ……」
頤に指を添え考え込んでいた娘は、両耳の辺りで髪を掴んでおさげ風に直すと、ニパッとした笑顔を浮かべた。
「……ああ! ひょっとして瞳ちゃん? 小学校まで一緒の学級だった―」
「そうそう!覚えててくれた?嬉しいわ」
ポンッと両手を合わせて喜ぶ瞳。
「どうしたの?こんな所で…待ち合わせ?」
「ん?いや、ただ暇を持て余してただけさ」
座ったままでさりげなく彼女の足元から視線を上げていく。
―たまにはこんな純朴な娘も良いかも……
品定めを済ました俺は、彼女の眼を覗き込むと視線に邪力を込めた。
「どう?良かったら一緒に豆菓子しない――」
「…………」
眼を合わせたまま悠然と立って待ち構える。
俺の邪視をまともに受けた女は、例外なくこの胸にしなだれかかってくるからだ。
が――――
「そうねぇ…飲み物も欲しいかな…♡」
「!?」
――邪眼が……効かない!?
「……そ、そうだね――炭酸でいいかい?」
――どういうことだ?俺の能力が効かないなんて…
まさか! 使えなくなったとか……?
動揺した俺は、自販機を操作しながら通り掛りのバカップルの片割れに邪視を向けてみる。
――即、男に肘鉄をくらわせた女がフラフラと寄って来た。
……絶好調じゃないか。
よしっ! 再挑戦――
振り返った俺の目前で、舞い羽ばたく鳩と戯れる妖精の姿……
まるで映画の一光景の様だ――
ふんわりとした瞳の笑顔に思わず見惚れていると――
「どうしたの?ボーっとして?」
「……えっ?ああ……」
ハッと我に返った俺は、缶を差出しながらありったけの力を邪視に上乗せする。
「ん♡大儀であった」
無邪気な子供のように微笑んだ瞳は、平然とした様子で缶を受け取った。
――やっぱり効かない!?
呆然と立ち竦む俺の頭や肩に、邪視の余波を食らった鳩どもがまとわりついてくる。
「すっご〜い! 人気あるのねぇ」
あちこち鳩フンだらけになった俺は、感心しきりの瞳を凝視しつつ密かに決意を固める。
くそっ、こうなりゃ実力でオトシてやる!




