おしら様とデート?
「おはよう、陸お兄ちゃん!」
「おはよう、イッシャ」
季節は五月半ば、障子越しに朝日が差し込み、僕とイッシャは目を覚ます。
腕を上に伸ばし、まだ眠たそうにする僕とは対照的にイッシャはもはや元気一杯という感じだ。
「ほら、琳子起きて、朝だよ」
「ん~……」
まだ布団をかぶり、眠っている琳子をゆすって起こす。
琳子はあまり朝が得意ではないらしく毎朝僕が起こすようにしている。
しばらくして琳子がようやく目を覚まし顔を洗い、土間にある炊事場へと行き調理を始める。
琳子を手伝うべく、僕も竈に薪を入れたりして邪魔にならない程度に調理を手伝う。
『いただきます』
朝食ができ僕たち三人は居間の畳の上にあるテーブルへとつく。
木のテーブルの上にはご飯や味噌汁などの純和風な朝食が並ぶ。
両手を合わせて箸を取りそれぞれ食事を始める。
「琳子、また腕を上げたねおいしいよ」
「うん! 琳子お姉ちゃんの料理おいしい!」
「えへへ」
僕たちが褒めると琳子が嬉しそうに笑う。
「小僧おるか~?」
「あ、おしら様」
「お、元気そうじゃな琳子」
朝食を終え三人で食器を片付けている最中に、玄関の引き戸が開きおしら様が現れる。
「なんでしょうか? おしら様」
「今日は特にすることがなく暇でな、それで小僧と逢い引きしようと思うてのう」
「あ、逢い引き?!」
それってデートのことだろうか?
「まぁそう言うわけじゃから少し借りて行くぞ琳子、遅くても夕方には返すわい」
「はい、おしら様」
そう言いおしら様は僕の手を引っ張り、琳子の家の中から嵐のように走り去っていく。
――――ぽかぽかとした陽気の早朝、人がまだまばらな村の中をおしら様と二人で肩を並べて歩く。
「いい天気じゃのう~」
「そうですね」
歩きながら雲ひとつ無い快晴な青空を見ておしら様がそう言う。
「あの、それでおしら様、逢い引きってどういうことですか?」
「ああ、仕事もかねて小僧と村の妖怪達の家を回ろうと思ってな、まだあった事のない村人もおるとおもうからな」
「なるほど」
(デートじゃなかったか)
僕は胸をホッと撫で下ろす。
「なんじゃ? 期待してたのとは違い残念じゃったか?♪」
おしら様が悪戯な笑みを浮かべて腕にしがみつき、ささやかな感触が当たる。
「ち、違いますって!」
「ふふ、小僧はからかいがいがあるのう、ほれさっさと行くぞ!」
そう言いおしら様が家々の間を通りぬけ、僕の手を引っぱり村の中を走り出す。
――
「お邪魔するぞ」
木造建ての家へと到着し中へと入り、土間を抜けおしら様と立ち並び居間にある囲炉裏の前に立つ。
部屋にはほこりが溜まっており、誰かが住んでいるようにはとても見えなかった。
「小僧、そこの囲炉裏の灰を拾ってみるのじゃ」
「灰をですか?」
おしら様の言葉に首をかしげながらも、言われたとおりに囲炉裏の中の灰を前かがみになり拾い上げてみる。
すると灰の中からねずみ色の顔をした180cmぐらいの坊主の男が現れた。
「ん? なんじゃ?……」
「うわっ?!」
「久しぶりじゃな灰坊主」
「これはおしら様、お久しぶりです、わしに何かようですかい?」
「うむ、見回りもかねて小僧に村の案内をしててな」
「なるほど、人間の少年ですかい」
「は、はじめまして」
灰坊主と呼ばれた男が囲炉裏の中に立ち、まじまじとものめずらしそうに僕の事を見る。
「ま、小僧これからいろんな事があると思うががんばるんじゃぞ。でわわしはもう少し寝ますんで」
「うむ、お邪魔したな」
そう言い灰坊主は灰になり、囲炉裏の中へとすっと消えさり、僕たちはその建物を後にした。
「はぁ~、びっくりしたなぁ」
「ふふ、ああ言う妖怪もおるってことじゃ」
「あ、おしら様」
村の中を二人で歩いていると2メートル以上の背丈がある赤髪の男が、木材を肩に背負ってこちらへと気づき駆け寄ってくる。
輪郭や見た目や肌の色は人間とほぼ同じであり、頼れる兄貴分と言った印象だ。
「おう、赤頭仕事か?」
「はい、前の地震で家屋に被害が出た家があったのでその補強に」
「お、そっちの小僧はこのまえ引っ越してきた人間の小僧か?」
「はい、高嶺陸です、よろしくおねがいします」
「俺は赤頭だ。この村の家の建築や補強を任されている、何か仕事があったらいつでも言えよ小僧」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃおしら様、俺は仕事に戻りますんで」
「うむ、またな」
そう言い赤頭は木材を肩に担ぎ去っていった。
「それじゃ小僧、次にまいろうか」
「はい、おしら様」
それから僕たちは後目と言う一つ目の妖怪の家や、溝出と言う白いガイコツの家など様々な妖怪の家を見て歩いて回った。
――夕暮れ時、カラスが鳴き、木造建ての家々が茜色へと染まり始める中、おしら様と村の中を肩を並べて歩く。
「ふう、本当に色んな妖怪が住んでいるんですね、驚きました」
「それとみんないい人たちばかりですね、僕は人間なのに」
「そうじゃろ、だが忘れてはいかんぞ。この村の妖怪たちは交流的だが中には人間に恨みを持っている妖怪たちがいることも」
「それと人間を捕食する妖怪だっておる、気をつけることじゃな」
「はい、おしら様」
「それじゃまたな小僧、楽しかったぞ」
「はい、今日はありがとうございました」
おしら様が手を振り白い髪をなびかせて走り去っていく、僕はその後姿に頭を下げてお辞儀をする。
「さて、僕も琳子たちの家に帰るか」
日が落ちかける村の中、琳子たちが待つ家のほうへと歩みを進めた――――。
読んでくださった方々に感謝です!。