おしら様と琳子の過去
「村の人全員が呼び出されるとは珍しいですわね」
「うん、おしら様一体何の話があるんだろうね~」
その日紫音さんと僕たち三人や村の全ての妖怪たちが呼ばれ、おしら様の大きな家の周りは賑わいを見せていた。
おしら様は家の神であり農業の神で白髪の長い髪で白い着物を着ている。
見た目やあどけなさはイッシャと同じぐらいだが、琳子によると実は三百歳以上らしくとても信じられるものではなかった。
「皆の衆、待たせたな」
そう言い家の中からおしら様がゆっくりと出てくる。それにともない皆静かとなりおしら様へと視線を集める。
「え~、今回集まってもらったのは他でもない、わしの予知能力によると近々大きな地震がこの村におきる」
「家屋の倒壊の危険もあるゆえ、皆補強し警戒を頼む、以上じゃ!」
おしら様の言葉に頷きそれぞれ皆の家へと戻っていく。何でもおしら様には地震や火事の予知能力があるらしく村人からの信頼も厚いそうだ。
「あ、小僧は少し残れ、琳子たちは帰っておいていいぞ」
「はい、おしら様」
そう言い琳子たちと別れ、僕一人おしら様の家の前に残った。
「何でしょうか? おしら様」
「小僧、琳子とはうまくやっているかの?」
「はい、元気でとてもいい子ですよ、お世話になっています」
「ふむ、して夜の営みの方はどうじゃ?」
「し、してるわけないですよ、そんな事!」
おしら様の突然の言葉に顔を赤くし慌てて否定をする。いきなりこの人は何て事を言うんだ……。
「根性なしめ、なんならわしが女の手ほどきを教えてやろうか?」
おしら様が悪戯な笑みを浮かべてそう言い放つ。
「け、けっこうです!」
「遠慮せずともよいのに残念じゃな、まぁいい、琳子のことよろしく頼むぞ」
「あの子はな昔人間の家に住んでおったんじゃがその家の子供にしか琳子のことが見えなくてな」
「それから家族が引越し廃屋になり、それから十年近くイッシャと出会うまでずっと一人だったそうじゃ」
「へぇ~そんな過去があったんですか……」
いつも明るい普段の琳子からはとても想像しがたい話であった。
「なぜかお主には林子の事が見えるようじゃがのう」
「まぁ、琳子のそばにいてやってくれ、頼むぞ」
「はい」
おしら様にお辞儀をし、僕はその場を後にして琳子の家へと戻ることにする。
――それから、数日後、深夜におしら様の予言どおりに激しい地震が起こる。
真っ暗闇の中、地震のゆれに気づき、寝室で寝ていた
「ふぇぇ~、ほ、ほんとに起きたよ陸君!」
「落ち着いて琳子!」
地震が苦手なのだろうか? 慌てて激しく取り乱す琳子。
そんな琳子とは対照的にイッシャはぐっすりと熟睡していた。
「もうだめ、きっと私たちこのまま死ぬんだよ~!」
「落ち着いてってば!」
取り乱す琳子を見て、僕は咄嗟に抱きしめ腕の中へと引き寄せた。
「り、陸君?……」
「あ、ごめん琳子! 嫌だった?!」
琳子の驚く声を聞いて僕は慌てて手を離そうとする。
「ちょ、ちょっと驚いただけで、べ、別に嫌じゃないよ陸君!」
「そう、ならよかった」
「うん……地震が収まるまでもう少しだけこうしてて……」
「わかった琳子」
すっかり落ち着いた琳子は地震が収まる頃には、いつのまにか腕の中で眠っており、僕は琳子を床に寝かせて、自分も床に入り眠りへとつくことにした――――。
読んでくださった方々に感謝です。