イッシャ
翌日朝方、紫音さんによる朝食をとり終え僕たち四人は家の入り口前に立ち尽くす。
「陸様、取り乱して申し訳ありませんでした! 」
「いえいえ、気にしないでください紫音さん」
深々と頭を下げて謝る、紫音さんを僕は必死になだめる。
「それじゃ、失礼しますね紫音さん」
「はい、失礼かもしれませんがまたいらしてください、歓迎しますので」
「はい、また来ます」
紫音さんに頭を下げ、僕たち三人は琳子の家へと向け歩みを進めていく。
家へと戻る途中、少し眠たそうな琳子が歩きながら話を始める。
「はぁ~、陸君大変な目にあったねえ~」
「うん、根は悪い人じゃなさそうなんだけどね紫音さん」
「うん」
「そういえば、琳子僕のことを私の物って言ってたけど――」
「あ、あのこと?! 気、気にしないで咄嗟に出た言葉だから!」
「う、うん……」
琳子が赤くなり両手をばたつかせ必死に取り繕う。
琳子は僕の事をどう思っているんだろう……?
そんな事を考えつつ、家へと向け歩みを進める。
――――
「ふわぁぁ~」
家に到着し、入り口の前に立ち尽くし、琳子が眠たそうに口を手で押さえ大きなあくびをする。
「琳子、眠たかったら休んでててもいいよ、昨日ほとんど眠れなかったもんね」
「そんな! 陸君に悪いよ!」
「僕は大丈夫だから、今日は水やりと水汲みと洗濯だけだしね、それに琳子には普段お世話になっているし」
「イッシャもがんばる~!」
「……うん、わかった、二人ともありがとね!」
そう言い放ち琳子は家の中へと入っていく。その後ろ姿に残された僕とイッシャは手を振り見送る。
「それじゃ、始めようかイッシャ」
「うん!」
それから僕とイッシャは慣れた手つきで農作物に水をやり、洗濯を終え二人で東の森へと水を汲みに行くことにした。
「そろそろ出てくるかな警戒しないと……」
東の森の中を警戒しながら歩いていく。
「っ?!」
目の前の木からツタにまきつけられた草取り鎌が飛んでくる。
僕はそれをぎりぎりのところで横に避ける。こんな物騒な事をする子を僕は一人しか知らない。
「ちっ! 何で毎回よけるんだよ!」
「当たり前だろイツキ、こう毎回襲われてれば慣れるし」
「ぐぅ~!」
「あ、イツキちゃん!」
「イッシャ?!」
イツキが目の前の茂みから拳を握り締め、悔しそうに出てくる。
そんなイツキにイッシャが嬉しそうに尻尾を振って駆け寄っていく。
「イッシャはイツキと知り合いなの?」
「うん! この森に来ると遊んでくれるんだよ!」
「へぇ~」
イツキは意外と面倒見がいいんだろうか?
「なんで、そいつと一緒にいるんだよイッシャ!」
「え? 陸お兄ちゃんは私たちと一緒に住んでいるんだよ」
「なっ?!」
「てめー! イッシャに変なことしてねえだろうな?!」
「へんなこと?」
「し、してるわけないだろ!」
イツキの言葉を僕は顔を赤くし慌てて否定する。
一体どんな目でイツキに見られているんだろうか?
「う~! 信用できるか~! 殺す! 人でなし! 鬼!」
いや鬼は君だろ、そんなツッコミを入れる前にイツキが馬乗りになり襲い掛かってくる。
そして僕の顔に突き刺さる――強パンチ! 強パンチ!。
イツキの攻撃に僕はまたこの森で気絶しそうになる。
「イツキちゃん、落ち着いて!」
それを見てイッシャが慌てて駆け寄り止めに入る。そのおかげで僕は命拾いをする。
――――
「はぁ、ひどい目にあったなぁ……」
水汲みを終え縁側でぽかぽかとした陽気の中、僕とイッシャはくつろぐ。
「でもこれで今日の仕事は終わりだね」
「うん! お疲れ様陸お兄ちゃん!」
「お疲れ様、イッシャ」
「何かして遊ぼうか? まだ琳子は起きて来ないみたいだし」
「いいの?!」
「うん、もちろんだよ、最近忙しかったしね」
「それじゃ、蹴鞠しよ!」
イッシャがそう言い障子を開け家の中へ入り、両手で赤い鞠を持って戻ってくる。
「へぇ~、それが鞠か」
歴史の教科書などでしか見た事が無く感心する。
「うん! これでよく琳子お姉ちゃんと遊ぶんだ!」
「そういえば、イッシャと琳子は前から知り合いなの?」
「うん! イッシャねここに来る前は農家の人のお手伝いをして暮らしていたんだ」
「けど、だんだん人がいなくなってって、行く場所がなくなったときに琳子お姉ちゃんに出会ったんだ。それから、この村に来るまでずっと一緒なの!」
「へぇ~、イッシャにとって琳子は本当にお姉ちゃんなんだね」
「うん! イッシャの大切なお姉ちゃん!」
イッシャがニコッと笑い満面の笑みでそう言う。
種族は違えど二人は本当に仲のいい姉妹なんだな。
「それじゃ、蹴鞠しようかイッシャ!」
「うん!」
それから僕とイッシャは家の前の更地で、琳子が起きて来るまでの間二人で蹴鞠を楽しんだ――――。